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今代の白皇

お久し振りで、すみません。


前話を投稿してから丁度五ヶ月ですね。……間空きすぎか。

次回はもう少し早く更新したいところですね。

 私達は時計の街・イルデニアを出立し、神都へと歩を進めていた。


 女神というのは本当にこの世界においては強い種族のようで、魔物の襲撃があっても冷静に対処できている。

 アルディに良くしてもらったおかげで物資の補給も充分にできた。

 道中懸念すべきことは突発的なアクシデントだけだったが、問題は起こることなく進むことができている。


 神都への道のりは順調だった。


 神都は巨大にして荘厳。一目見た瞬間に他の街とは違うとわかる。

 遠巻きに眺めてわかったことは、高い石の壁に囲まれた都市であること。壁は円状に広がっており、四方八方に大砲が覗いていた。外から来る魔物や人を撃退できるようになっているのだろう。厳かな城門の前にも数人の兵士が待機しており、見張りの役割を果たしているようだ。

 この世界でも重要な都市とされるだけはある。警備は厳重で、三つの城門以外に出入口はなさそうだ。壁を登ろうにも取っ手がついているようには見えない。有事の際には堅牢な要塞と化すだろう。


「……流石は、最も信仰される宗教の象徴たる都市だ」


 ぼそりと諌山さんが呟いていた通り、神――私達のような種族の一つである女神とは異なり、世界を創造したとされる神――を信仰していて、信奉者達のお布施で豊かになった、その代表という立ち位置らしい。


 実際の内情は見てみないとわからないが、とても治安がいいという文献を見つけたことがある。

 なんでも神を信奉する心が街に満ちているのだとか。あまり神を信仰する心を持ち合わせていない私としては、想像できないことだったが。


 ともあれ、文献によれば神都で最も大きな純白の建物が、神都を取り仕切る最高司祭がいる神殿とのことだ。

 私達はまずその神殿へ行き、後ろ盾を得る交渉をする予定だった。


 壁の一角にある厳かな門の前まで歩いていき、


「私達は“賢者”由来の者だ。入れては貰えないだろうか」


 諌山さんが馬車の紋章を見せながら兵士に声をかける。すると兵士は恭しく頭を下げ、


「お待ちしておりました、異世界より参られた女神様方。神殿にて最高司祭様がお待ちです」


 と口にした。


 予想外の歓迎に、私達は顔を見合わせる。これもシャフルールの差し金なのだろうか。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私達はあっさりと兵士に神都へと通され、神殿へと向かうように指示を受けた。私達が入ってきた門は正門だったようで、正門から真っ直ぐに続く大通りを行くと真っ白な神殿が聳えている。私達の世界で言うところのパルデノン神殿とかその辺りの造形に近いと思う。外に階段があるため他の建物より高い位置にあった。権力の誇示というやつだろうか。


 住人は大通りを歩く私達を避けるように、あるいは私達の進む道を空けるように通りの端を歩いている。敬虔な信徒なのか、跪いている人までいた。おかげでちょっとした大名行列のような感じになってしまったが。


 思いの外簡単にことが進んで少しきな臭い気もしないでもないが、なにか不穏な動きをすればいつでも撃退できるように警戒しておけばいいだろう。


 ともあれ、私達は思っていたよりもあっさりと神都を治める人に会えることとなったのだった。


「女神様方。よくぞお越しくださいました。最高司祭様がお待ちです、ご案内致します」


 神官服を着込んだ男性が恭しく頭を下げて言い、私達を先導する。大人しく彼の後についていくと、彼と同じような神官服を着た人々を見かけた。彼らは通りかかった私達に対して通り過ぎるまで頭を下げている。種族に堕ちたとはいえ、彼らにとって女神も信仰の対象になるのだろうか。


 歩いているだけでは神殿の内部構造が完全に把握できないが、おそらく神殿の最奥にして最も高い位置にある謁見の間へと案内された。


 神殿内にはここまで華美な装飾などはなかったのだが、謁見の間には派手な赤い絨毯が真っ直ぐ敷かれている。神官兵というのだろうか、腰に武器を携えた人達がその絨毯の脇に並んでいる。絨毯の先、部屋の奥にある白い玉座に座る人物こそが、この神都を治める最高司祭だろう。立派に口髭を蓄えた壮年の男性だった。色合いこそ他の神官服と同じだったが、装飾は豪勢で威厳がある。左手に持った長い錫杖は最高司祭の証なのだろうか。


「よくぞ参られた、女神様方よ」


 年相応の若干しわがれた声で言った。


「あなたがこの神都では最も位の高い最高司祭殿か」


 流石の諌山さんも偉い方の前だからか白衣のポケットに手を入れていない。それでも敬語を使わないのは女神が下手に出る必要はないと見てか、それとも立場は対等であるとの意思表示か。


「いやぁ、ちょ~っと違うかな」


 この場にそぐわぬ女性の気楽な声が、玉座の後ろから聞こえてきた。途端に最高司祭の表情が強張り、額に薄っすらと汗を掻く。


 軽い口調でそう告げた人物が、玉座の後ろから姿を現した。


「「「――」」」


 さらりと長い白髪(・・)が流れる。吸い込まれそうなほどに綺麗な蒼の瞳(・・・)が私達を見据えた。息を呑むほどの美貌だ。私達姉妹も四女神などと呼ばれることもあったが、格が違うと思った。根本的に異なる存在だと感覚で理解してしまう。抜群のプロポーションを誇ることは服の上からでもわかった。上の服は淡い水色で、ズボンは太腿を剥き出しにした短い紺のそれだった。その上にやや大きめの白いローブを着込んでいる。フードつきでかつ足首まで丈があった。……綺麗な白髪が膝裏ぐらいまで長いため、フードを被るにはローブを着直さないといけない気がしたのだが。


 私達は文献を読んでその容姿に心当たりがあった――あってしまった。


 彼女の全身を見て正体に気づいた瞬間、身体が重くなったように感じる。自然と膝が折れて平伏したくなる衝動に襲われた。それに抗いつつ私は彼女を真っ直ぐに見据える。少し睨みつけるようになってしまったかもしれない。


「……へぇ。流石に女神ともなると私と見ただけじゃ平伏したりしないか」


 くるりと軽快なステップを踏みながら歩み出て最高司祭の隣に立つ。


「まーわかってるとは思うけど一応自己紹介しといた方がいいかな?」


 私とそう変わらない年齢そうな少女は圧倒的な美貌の上に親しみのある笑顔を浮かべて告げた。


「えー、こほん。私が現代の白皇。ハクア・アルストンだよ、よろしくっ」


 わざとらしく咳払いをしてから、彼女――ハクアは軽く手を挙げてウインクしながら名乗る。……随分と気さくだった。


「「「……」」」

「あ、あれ? なにも言ってくれないとちょっと不安になるんだけど。ねぇ、白皇って凄い有名だからこう、『ははーっ』みたいな反応になるんじゃないの?」


 私達が黙っていたからか、不安そうな顔で隣の最高司祭に尋ねた。


「……は、白皇様。彼女らは異世界より参られた者達。白皇様の種族に対して敬意を抱く念が少ないのではないでしょうか」


 最高司祭はがちがちに緊張した様子でそう口にした。


「そ、そっか。良かったぁ、自己紹介したのに『お、お前があの白皇だと……!?』みたいな反応全然ないから」


 ふぅ、とほっとしたように息を吐きながら袖で額を拭う仕草をする。


「……随分と、態度が軽いな」


 そこでようやく仁王立ちしていた諌山さんが声をかけた。


「うん? なんで? 白皇だからって威厳ある態度しなきゃいけないとかあるの? 我は白皇なるぞーとかやった方が良かった?」

「いや。少し意外に思っただけだ」


 諌山さんは不思議そうに首を傾げるハクアに対して苦笑していた。……親しみやすい態度だけど、そういう風に作っているわけでもなさそう。元来こういう性格なのだろう。


「そう? でも真面目にやってばっかだと疲れるじゃん。肩の力抜いてテキトーにやれるならそれがいいと思うけど」

「……だからこそ、なのか?」


 ハクアのそんな態度に、諌山さんは私でも僅かに聞こえる程度の声で呟いていた。


「なにか言った?」

「なんでもない。それよりまず聞きたいことがある。君は白皇だと言ったが、元から白皇として生まれたのか? それとも私達と同じように転生したのか?」


 軽く首を振ってハクアに尋ねる。……諌山さんが気にしているのはもしかして、白皇の役目についてだろうか。


「転生だよー。高難易度ダンジョンできたその当日だったかな。元は人間だったんだけどねー」


 私達と同じ種族転生で白皇になったようだ。しかも高難易度ダンジョンが世界に出現したのは私達がこちらの世界に来たのと同じ日だという。


「なるほどな。私達がこちらに来たのもその日だと思われるが、その日になにかあったのは間違いないのか」

「うん、みたい。どっちが先かわかればいいんだけどねー。高難易度ダンジョンができたから強い種族がいっぱい欲しかったのか、強い種族がいっぱい現れたから試練的な意味合いでダンジョン創ったのか。私も急に転生したからさっぱりだけど」

「そうなのか」

「うん。だって元その辺にいる村人だもん。でも種族転生って凄いよねー。ただの村人だった私が、世界的に難易度高いって言われてるダンジョンを一人でできるくらい強くできるんだよ? 任意の種族に転生させられるんだったら凄いことなんだけど」


 あっさりと口にした彼女の言葉に諌山さんの指先がぴくりと動く。この世界の強い人達が協力しても攻略できなかったダンジョンを一人で攻略したからだろう。種族差もあるが、レベルも相当高いのかもしれない。スキルも強いものを所持しているのかもしれない。なにせ――。


「相当強いみたいだな。いくつか聞きたいこともあるがとりあえず一つ」

「なぁに?」

「白皇たる君に聞きたい。“賢者”の持つ文献によれば白皇は黒帝の番いとなるべきして生まれた存在だ。君にその意思はあるか?」


 諌山さんが真剣な声音で尋ねた。やはりこの人も……。いや、今は考えないでおこう。それよりも彼女の返答が気になる。なにせ、歴史から読み取るのであれば彼女はあの灰人の番いとなるべく生を受けた存在だ。この世界で灰人と一緒に行動した期間は短いが、私達より少しレベルが高いだけでも異次元の強さを手にしていた。そんな彼の対となるのだから、相当強いはずだ。


「……」


 諌山さんの質問に対して、ハクアは目をぱちくりとさせていた。


「やだよ、そんなの」


 静寂に包まれた謁見の間に響いた彼女の答えは、至極あっさりしたものだった。


「なんでそうと決まってるからってそうしなきゃいけないの? 運命だとか使命だとか、下らない。私は私がやりたいように、私の意志で行動する。その黒帝クンとのことも、直接会ってから決める。種族的には拒否するの厳しいそうだけど、それでもそうしなきゃいけないとかそんなことで決めたくないから」


 強い意志の込められた言葉だった。


「だって、結婚ってそういうものでしょ?」


 ごく自然と、真っ直ぐな疑問をぶつけてきた。……この世界では種族差というのは絶対だと思っていたが、彼女にとってはそうでもないらしい。正直に言って、羨ましかった。私は彼女のように意思だけで行動できていない、と思う。色々と普通なら考えなくてもいいことばかり考えてしまう。他人の目とか、立場とかに囚われた考え方をしてしまっていると思う。私は真に心からの行動をしたことがあっただろうか。いつも模範解答だと思ったことしかしてこなかった気がする。


「……なるほどな。これは一本取られた。確かに人に言われたからするものではないな」


 短いやり取りだったが、諌山さんは彼女を認めたようだった。


「でしょ? それなのに黒帝がどうとかそんなことばっかり言ってくるんだもん、嫌になっちゃう。それにあれだよ、その、番いとかそういう話はまだ早いっていうか」


 最後の方は頬を朱に染めての言葉だった。


 ……なんと言うか。彼女はどうやら普通だった。外見こそ圧巻と言えるほどだが。そう、感性だ。感性が普通なんだ。


「ふっ。私の周りにはいなかったタイプだな」

「そうなの? これでも普通だと思ってるんだけど」

「まぁ、そうだな。しかしこれで君のことはよくわかった。次の質問をしていいか?」

「え、うん。いいけど?」

「こちらが本題というか現状に対しての疑問になるが、なぜ白皇が神都にいる?」

「うん? だってここ、私の拠点だよ? もしかしてあんまり最近の情勢とか知らない?」

「文献に書かれたこと以外であれば、ほぼ無知に等しいと思ってもらって構わない」

「そうなんだ。ってことはあれだ。神都は黒帝と白皇嫌ってるからなんで? ってなってるんだよね」


 自分で口にしながら納得したようにうんうんと頷く。


「それはもちろん、私がここにいる最高司祭さん脅して神都貰ったからだよ」

「……なに?」


 ハクアの言葉に諌山さんは顔を顰め、警戒を露わにする。


「あー、うん。私の本来の所属というか、出身は別のとこなんだ。フォルナデ共和国っていう小国なんだけど。あっという間に国代表まで持ち上げられちゃって困ってねー。国運営する知識とか全然ないから言われるがままだったんだけど。私も白皇についてちょっとは知っといた方がいいかと思って、歴史の深いここを真っ先に攻めることになってねー。仕方なく一人で潜入して命が欲しくば支配下に入れー的なこと言ったの」

「君自身は戦争する気はないと言いたいのか?」

「んー、どうなんだろ。国のお偉いさん方は『黒帝様が現れた時の手土産だ』とか言ってるけど、多分権力欲しいんじゃないかな。小国って結構立場厳しいからね。私としては……うん、どっちでもいい。けど、故郷の村にいる家族と友達が楽な暮らしさせてもらえるって言うから」

「税金を減らしたり、報奨金与えたりか」

「うん、そんなとこ。どうせ戻っても普通の暮らしができるわけじゃないから。畑仕事手伝ったりできない代わりに私にできることやるしかないじゃない?」

「それだけか?」

「えっ?」

「それだけなら先程言っていた、『自分のやりたいようにやる』ことができていないはずだ。なにか理由があるだろう」

「……。そこまで話すのはちょっと嫌かな。関係ない人にべらべら喋ることじゃないし」


 諌山さんの言葉に少し口を閉ざしてから、軽い拒絶を口にした。


「あっ、そうだ。今度は私から一ついい?」


 ハクアは話題を強引に変える。


「なんだ?」


「ねぇ、私のとこに来ない? 一応白皇だから強いし、神都からの援助とかもできるよ?」


 まさかの勧誘だった。……ここまで来て白皇の傘下に神都が入っていたことは予想外だった。この勧誘はつまるところ、彼女に協力しなければ神都からの援助は得られないということでもある。


「……私は――」


 諌山さんが少し考えながら返答しようとしたその時。


「失礼します!」


 謁見の間の扉が勢いよく開けられた。無礼とも取れる行動だが、なにか訳があるのだろうか。


「お話中申し訳ありません! 罰なら後でいくらでも受けましょう」

「そういうのいいから。なにかあったの?」


 入ってきたのは鎧を着込んだ兵士だった。片膝を着いて告げるが、ハクアは面倒そうに言って用件を言うように促す。


「はっ。神都を囲むように魔界の軍勢が出現しました! その数十万を超えるとのことです!」

「なんでそんな急に来たんだろう。私がいるからか、あなた達がいるから。どっちにしろいい機会かなー」


 神都の一大事だというのに、ハクアは呑気に構えている。最高司祭などは思わず腰を浮かせていたというのに。……これは前言を撤回する必要があるかもしれない。感性自体は普通なのかもしれないが、強さや脅威という点で彼女はただの村人から白皇基準になってしまっている。


 ちらりと彼女が私達を見てきた。嫌な予感がする。


「折角だからあなた達が魔界の軍勢倒してきてよ。女神様方のお手並み拝見、ってことで」


 ハクアはにっこりと、有無を言わせぬ笑顔でそう告げてきた。……やっぱりだ。

黒帝の対、白皇ちゃんの登場でした。


割りと性格というか性分に癖のある人物が多いこの物語では、今後登場するキャラクター含めてまともな部類です。

というかこういう気さくな感じのキャラってあんまり書いたことがない気がしますね。


そういう意味でも彼女の今後の活躍に期待していただければ幸いです。

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