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四姉妹の狩り

夏期休暇があってもあまり更新できずすみません。


週一は守りたいところですね、頑張ります。


二年くらい前からやってますが、タイトル案ありがとうございました。

色々いただいた中から組み合わせたりして決めようと思います。

 諌山さんが山賊退治に向かった後、私達はいつものようにギルドで依頼を受けて街の周辺のモンスターを狩っていた。

 しかし今日はいつもと違う点が一つ。


「お願いします、私達も一緒に連れていってください!」


 と言って深々と頭を下げてきた、女子三人が同行していた。イルデニア周辺のモンスターは私達だけでも充分対処できるので、各々倒していけば余程のことがない限り問題なく依頼を達成できる。

 しかしそれでは今回同行している彼女達のためにならない。


 私以外の三人がそれぞれについている形だ。私と雪音はそのフォローをする形で動いている。なぜ三人でマンツーマンなのかというと、後輩に慕われて指導を行うことが多い妹達だからだ。


 優しく丁寧に指導する響。道場で師範していたこともある奏。運動関係でよく教えを請われる夏代。


 私は指示することがあっても教えることはなかなか難しい。姉妹で勉強を教え合っても上手くいかないことがあるくらいだった。

 雪音はなぜか自分から断っていた。教えるのが苦手な私の言葉を、わかりやすく噛み砕いて伝えてくれるから向いていると思うのだが。本人にとってはそうではないらしい。


 ……夏代の擬音語ばかりな感覚的指導についていけるだけで凄いと思ったのは内緒だ。


 兎も角、指導や話をして方針を示しているようだ。


 私は後輩三人と妹達が安全に討伐をこなせるよう、適当な群れを見つけてはちょっかいを出していく。


 それほど数が多くなく、加えて遠距離攻撃を多用しないモンスターの群れを狙っている。もし避けがたい大きな群れや厄介なモンスターがいた場合には私と雪音ですぐ様討伐してしまうことにしていた。


「美夜――」

「……わかってるわ」


 索敵に向いた能力を持つ響に名前を呼ばれ、表情を引き締める。

 大気中の水を支配下に置いて索敵を行っていた水谷さんを見習った。私達の中で同じようなことができる響が周辺の風の流れを感じ取って目に見えない距離にいるモンスターを感知するのだ。


 もしモンスターが高速で迫ってきたら私に一声かけるよう、事前に決めていた。


「上っ!」


 響に言われ、私達は一斉に顔を上げる。……私の目には一点の光しか見えなかった。でも響がモンスターだと言うのだから、そうなのだろう。


「この風の流れ、多分鳥だよ」


 モンスターの周囲にある風の流れを感じ取ったようだ。ロケットのように飛んで落ちてくるモンスターもいるらしいので、風の流れだけでモンスターがどんな種類なのか判別できるのは有り難い。


「雪音、私がやるわ」


 同じ立場の雪音にそう言ってから、右手を青空に向けて伸ばした。


 ……私の持つ闇が空を覆うイメージ。


「“夜”よ」


 イメージ通りに力を発現させる。ふっ、と辺りが暗くなった。私達の頭上だけを夜に変えたのだ。闇を操る私の力は、日光の下よりも夜に力が増すようになっているらしい。

 今回は空にいる敵ということで、最近思いついた自分に有利な状況を創り出すための“夜”を展開した。


 私達のいた世界の夜とは違い、空を私の力で覆って疑似的に創ったに過ぎない。光を生む力で打ち消すことも可能だろう。


 やっと私でも視認できるところまで下降してきたモンスターが、空の異変に気づいたのか急降下をやめて翼を大きく広げた。


 まだ高さはあるが、それでも大きい。鉄のような金属光沢を持つ鳥だった。本当に身体が金属で出来ているなら飛行なんてできるはずもないのに。


「……ホント、異世界って不思議」


 地球では起こり得ない事象が当たり前のように起こっていく。


 改めて敵の姿を認識し奏の力と相性が悪そうなモンスターね、と考えていたら、鉄の鳥は大きな翼を交差するように折り畳む。なにかのスキルを発動するのだろう。


 この高さ、距離であの構えを鳥系モンスターが取った時のスキルは決まっている。大抵、羽を弾丸のように発射するのだ。

 仮にも後輩を引率する身だ。彼女達に怪我を負わせるわけにはいかない。


 もちろん、敵は迎撃するものだが。


 私の支配下にある夜空から無数の刃を伸ばす。背後から容赦なく串刺しにした。


「……っ」


 モンスターが呆気なく全身を貫かれて息絶えるのを見てか、一人の娘が口元を押さえて息を呑む。……彼女は確か、私と一緒に灰人の班になってモンスターを痛めつけてた娘のはず。モンスターが死ぬところも見てるはずなのに、なんで急に。


 少し不思議に思ったが、生きていることに必死だった時とある程度余裕が出てきた今では違うのかもしれない、と結論づけた。


 とりあえず、倒したモンスターをゆっくり地面に下ろす。私の創る闇の威力でも貫けたので、そこまで強いモンスターではなかったようだ。これなら奏も楽に斬ることができただろう。


 冒険者ギルドで貰った剥ぎ取り用のナイフを抜き、屈んで刃を突き立ててみる。……がきん、という音がしただけで刺さらなかった。


「……奏、お願い」


 私は剥ぎ取り用ナイフで解体するのも諦め、自在に剣を形成できる奏に任せた。


「わかった、私がやっておく」


 奏は一つ頷いて、手元に剣を出現させる。


 その後は奏がさくさくとモンスターを解体してくれた。剥ぎ取りの最中は他の皆で周囲を警戒する。これがこの世界の冒険者の狩りというものらしい。

 探索、討伐、解体、警戒、探索という風に同じ流れを繰り返していく。


 慣れてくると退屈になるらしいが、冒険者は冒険せず退屈なくらいで丁度いいとのことだった。


 剥ぎ取りが終わった後はまた探索を開始する。今日は三人が加わったことのもありあまり遠くへ行かない予定だ。


 しかし。


「……っ!」


 地面が僅かに震動していることに気づいた時には、もう遅かった。


「くっ!」


 最初に狙われたのは奏だった。地面から魚ような大きな頭が飛び出してくる。間一髪持ち前の反射神経で回避したが、奏だったから避けられたようなものだった。

 地中からの奇襲。予期していなかった群れの襲来に混乱が起こる。……こんな時こそ冷静にならなくちゃいけないのに!


 遂に、私の足下から牙がずらりと並ぶ大きな口が飛び出してきた。瞬間、頭が真っ白になる。数秒後に迫る死の訪れを予感して走馬灯のようにこれまでの思い出がフラッシュバックしてきた。


 ……ああ、そうよね。


 一瞬でも頭から飛んでしまったことが悔やまれる。私はまだ死ねない。こんなところで死ぬわけにはいかない。

 即座に周囲を包む球体を作り出した。薄い膜のようなもので、私に食らいつこうとしていたモンスターは顎が切断される。球体から真下に向けてトゲを形成しモンスターを刺し貫いた。

 ……これで一旦身の安全は保証されたわ。だから落ち着きなさい、美夜。

 自分にそう言い聞かせて深呼吸し、いつもの自分を形成していく。これからすべきこと、言うべきことを頭の中で並べて思考を回す。


「よしっ」


 気合いを入れて球体を解除すると、他の皆もモンスターと戦っているところだった。私がわざわざ指示するまでもなく、皆やるべきことはわかっている。


「美夜!」

「上だ!」


 響が地面から飛び出してくる方を、夏代が飛び上がって上から襲いかかってくる方を、それぞれ警告してくれる。


 左手と右手に闇を纏い、二体同時に仕留めようと行動する直前だった。


「ダメっ!」


 必死な声が聞こえ上にいたモンスターが吹き飛んだ。驚きはあったが、驚く前に下のモンスターを倒されなければ。右手に纏った闇から刃を構築したモンスターを丁度上顎と下顎で分かれるように両断した。勢いの余り、モンスターは両断された姿で私の真横を飛び出していく。


「ふぅ」


 他の六人もモンスターを片づけ、ようやく一息つける状況になった。


「……今、モンスター自体を操ったの?」


 響は先程私を助けた少女に対してそう声をかける。


「は、はい。自分でも必死で、意識してやったわけじゃないんですけど……」


 彼女は『浮遊』のスキルを持っている。物体を浮かせて飛ばしたり運んだりできる現代ではなかなか便利な能力だ。しかしあまり重いモノは浮かせられず、確か生物もダメだったと思うのだが。スキルのランクが上がって効力が増したのだろう。


「そう、それは良かった。考えられる戦略の幅が広がるわね」

「は、はい。ありがとうございます」


 響はそのことには触れず、前向きな意見だけを口にした。……油断ならない娘と考えるべきか、頼もしい味方と捉えるか悩ましいところね。


 私は一人、彼女が吹き飛ばしたモンスターの方へと歩いていく。魚のような身体を持つモンスターは、白目を剥いて息絶えていた。……ただ『浮遊』を使っただけならこうはならない。『浮遊』は所詮、直接的な攻撃力を持たないスキルのはず。『浮遊』を活用することによってモンスターを倒すことはできるけど。

 剥ぎ取り用のナイフを取り出して解体するフリをして骸を調べると、モンスターの口の中に黒い粉――砂鉄が散らばっていた。フリをしているだけでは怪しまれるので実際に解体を行いながら慎重に痕跡を探る。


 ……モンスターの口内、上顎に小さな刺し傷がある。多分灰人が作った砂鉄のナイフを刺してモンスターの脳を直接突き刺してる。その後にナイフを砕いた? でもどうやって? 『浮遊』は物体を浮かせることくらいしかできない能力のはず。


 疑問は尽きないが、一つの答えを導き出すことはできる。答えを急く必要もないが都合の良い解釈をすれば疑問が一気に解決する。


 彼女の持つ力は、『浮遊』ではない。


 『浮遊』を前提に考えているから疑問が浮かぶのだ。彼女が嘘をついていると考えれば前提が覆る。『浮遊』と同じようなことができて、さらには操った物体を砕くことも可能。となれば、ファンタジー世界に疎い私が思いつく限りではサイコキネシス、念動力といったところか。

 灰人の班に入った時も、口頭でスキルの詳細を説明するだけだった。つまり生きることに精一杯だったあの状況下で、彼女は周到にスキルの内容を隠蔽してきたことになる。

 ……私の考えすぎならそれでいい。考えていなかった、予想外の事態になることこそ問題だ。予想はいくつ並べても完璧になることはない。


「……面倒ね」

「なら手伝おうか?」

「ひゃっ!?」


 呟いた独り言に反応する声があって、思わずびくっと背筋が跳ねた。滅多に出ないような声を上げてしまう。……ちょっと恥ずかしくなって口元に手を当て、ゆっくり後ろを振り返ると奏が驚いたような顔で立っていた。


「そんなに驚かなくてもいいだろう」


 少し傷ついたような顔をさせてしまった。考えごとに耽っていたとはいえ、申し訳なくなってくる。


「ごめんなさい、ちょっと考えごとしてて」

「考えごと? ダメだぞ、美夜。刃物を扱っている最中に考えごとをするのは。モンスターの素材剥ぎ取りとは、私達の世界で置き換えると魚を捌いたり野菜を切ったりするのことと同じことだ。上の空では危ないぞ」


 わざわざ元の世界の行為に置き換えてわかりやすく説明してくれる。元の世界ではわからなかった、奏の特技だ。というよりも道場で師範をやっていた経験から、諌山さんの『指揮』や『授業』と同じようなスキル『師事』を持っている。それが影響しているのかもしれなかった。


「そうね、気をつけるわ」


 奏にそう言ってから「じゃあちょっと解体するの手伝ってくれる?」と返して事なきを得た。


 彼女に対する疑念に関しては、今夜響と雪音とで話し合う必要がありそうだ。。本当は他の二人も呼んだ方がいいけど、今日のことがあってからすぐに招集すると感づかれるかもしれない。……と、一応の警戒を持って臨んだ方がいいわね。


 悪い方が当たらなければ、それで良いのだが。

三章はあと五話くらいで終わる予定なんですが、一話の予定が二話に伸びた今、あまり確かなことが言えません(笑)


早々に進めたいところですね。

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