長い旅の始まり
コメントや感想、メッセをくれた方ありがとうございます
返信できていなくてすみませんが、きちんと全て読んでいます
まだ日付は変わっていませんが、一話更新します
理由は某スマホゲームのメンテが延長したからです(笑)
感想が多かった作品がこれだったので、もう書いちゃえ、みたいな感じで
まぁ文字数も少ないのでそこまで進んでいませんが、よろしくお願いします
諌山先生の宣言があってから五日後。
彼女の独断と偏見で選ばれた十五人が久方振りに地上へと降り立った。
諌山先生と水谷先生に加え、私達四姉妹と雪音。残念ながら灰人のクラスメイトは名前まで覚えていないので、これから自己紹介をし合うように提案してみよう。
私達も含め、全員がこちらの世界に来た時とは異なる恰好をしている。理由は異世界だと悪目立ちするからというのと、動きにくいから。諌山先生などはタイトスカートで戦闘向きではなかった。今は伸縮性のある長ズボンに変わっている。
「全員集まったな」
教師としての義務はないと言ったばかりだが、統率する癖が抜けないらしい。
紺の長ズボンに白いシャツ、その上になぜか黒い襟つきのロングコートを羽織っている諌山先生が、私達を見渡して言った。
「それじゃ~出発しよぉ」
相変わらず間延びした口調で、なぜか白衣だけは変わらない水谷先生が告げる。
「君達が行ってしまうのは少し寂しいけど、またいつか再会できるだろうからね」
ここは大人しく見送るよ、と賢者シャフルールは苦笑して声をかけてきた。
「おそらくはな。私の推測が正しければ、時が来ればおのずと会えるだろう」
「そうだね」
凛とした諌山先生と、柔和なシャフルールが見つめ合う。……この二人は表情から感情が読み取れなくて困るわ。私達も私達で色々と調べてたけど、女神が集められるというような推測は立ててない。
しばし無言で見つめ合っていた二人だが、先に口を開いたのは諌山先生だった。
「有意義な時間を過ごさせてもらったこと、感謝する。これで一つ貸しが出来た、ということでいいか?」
「いや、いいよ。君達の力が必要になった時は遠慮なく頼むだろうけど、その時はきっと君達も断らない状況だろうからね」
二人の会話はどこか腹の探り合いをしているようで敬遠したくなる。しかし同じ女神である私達にとっても意味のあることだと思って、聞くしかない。
「そうか。私はてっきり同行すると言い出すかと思っていたのだが」
「ああ、それもいいね。でもボクにはボクのやることがある。それを行うには、君達の旅は刺激的すぎるだろうから」
私もシャフルールの同行はあると思っていたが、どうやら彼にも目的は存在するようだ。
「では、そろそろ行くとしよう」
「またね、異世界からの来訪者達。――汝らの行く末に幸あらんことを」
諌山先生が踵を返して歩き出した後、シャフルールは胸の前で手を組んで祈りを捧げた。
この世界では旅人の出立時などにこの言葉で見送りをするらしい。
賢者という自分の地位については文献にも書かれていなかった。おそらく書かれた文献を前々から隠していたのだろう。この世界で“賢者”という呼び名がなにを意味するのか、私達にはそれがわからないままだった。
諌山先生に続いて他の人も歩き出したため、私達も並んでついていく。
私達自身が持っている荷物はそれほど多くなく、食糧や着替えなど大半の荷物は大きな荷馬車の中に積まれている。白い布で屋根が出来ていて、見た目はこの世界にある荷馬車と変わらないそうだが、シャフルールの魔法によって強化されているらしい。
馬も特殊で、機械で出来た魔力で動く馬だった。鉄色の身体が生物でないことを物語っている。これはシャフルールのお手製だそうで、見せるだけで賢者ゆかりの人物だとわかるから一時的な身分証明書になるという話だった。
これから私達の向かう神都という場所は、私達の種族である女神に縁のある地だ。だからこそ、優遇されることを見越してこの場所を目指しているのだと思われる。女神権限で色々と世界の現状を知ることもできるだろう。
それから別の場所に向かうとしても、街一つの支援を受けられれば万全の準備を整えられる、ということだ。
神都アルセウム・アウル。神を信奉し、巫女という神の御声を聞く女性を代表として置いている。アドラ神教国の首都でもある。かなり大きな街らしく、警備も厳重だそうだ。神聖な力を集めるために、霊脈という大地の魔力の供給源とも言うべき見えない川のようなモノが交差する地点に築かれた。
所謂宗教国らしいが、差別がほとんど存在しない種族平等主義だそうだ。
唯一、黒帝を除いて。
黒帝というのは黒髪に紅い瞳をした、全種族の頂点に立つ種族だ。この特徴を聞いて、真っ先に誰が黒帝かを理解した――灰人だ。
最後に見た、瞳が黒から変化して赤く染まった『種族転生』の時を思い出したのだ。
黒帝に次ぐ白皇はそれほど拒絶されていないようだが、黒帝だけ関わりの一切を禁じられている。
黒帝の文献を調べていく中でそのきっかけとなった逸話があった。
要は、太古の昔に黒帝が神を殺そうと挑んできたという。
人間から最上位の黒帝に至るまで、大きな括りでは“人”とされる。その上に神がいると考えれば、黒帝が神に最も近い種族となる。
さらに黒帝には白皇より明確に勝る点が一つあり、それは生物を創り出せるという点である。
……灰人は何気なくやってたけど、私達では生物の形をした技にしかならなかった。生物を創り出したという事実こそ、灰人が黒帝である証拠ね。
白皇は生物というほど立派なモノが創れないというので、頂点に立つが故の力だった。
神は特権を分け与えることで黒帝を生んだ自分に信仰を集めようとしたようだが、失敗に終わる。そして黒帝による反乱が行われたことから、彼の存在を禁忌と定めた。
自らで創り出しておきながら神が存在ごと壊すには、黒帝は強すぎた。
黒帝は灰人の言う『黒皇帝』という固有スキル以外になんらかの固有スキルを持っているらしく、ただ黒帝というだけでは終わらない。
灰人も固有スキルを他に二つは持っていると言っていたから、ただ黒帝だからというだけでは済まされない強さを手にしているはずだ。
「止まれ」
先頭を歩く諌山先生が、静かに皆を手で制す。その声に応じて機械の馬も足を止めた。
私も考え事をやめて戦闘へと思考を切り替えていく。
「モンスターだな。前から二体、左から三体、後ろから二体だ。それぞれ、荷馬車に傷をつけないように迎撃しろ」
探知網でも張っていたのだろうか。彼女の指示に従い、私達は荷馬車に背を向けるようにして身構えた。
神都までの一ヶ月に及ぶ旅路は、まだ始まったばかりだ。