黒帝
修正期間は明日からです
既出以外の批判があればGW中にどうぞ
それはそれとして、姉達がいい感じで出てくるのでその辺りは修正します
そこの批判はスルーでお願いします
説明回なので、長いです
すみません
エリオナ回ですが、主人公はこんなヤツじゃない! と言う人が出てくると思います
修正して欲しかったら言ってください
俺は超高難易度ダンジョンの十五階層にあるボス部屋で、王国騎士団の副団長であるエリオナと二人きりで種族について話を聞かされていた。……俺がほとんど何も知らない黒帝についても明かされるので、真剣に聞かなければならない。
「カイトが自分の種族であるにも関わらず、黒帝についてほとんど知らないのも無理はない。黒帝と言う種族は代替わり制の珍しい種族であり、黒帝になれる種族に制限はない。黒帝は昔、突如として現れた謎の種族なのだ。黒帝について分かっていることは少ないが、黒帝は種族カーストでどこに位置していると思う? 種族カーストは総合、強さ――身体能力と魔法能力の二つに分かれるが、甲斐性、生殖能力があるのだが」
エリオナは不意に問題を投げかけてくる。……そんなに種族カーストがあるのか。と言うか甲斐性と生殖能力はステータスじゃないだろう。大体カーストに出来るモノなんだろうか。
「……分からないが、結婚の話を聞かされたと言うことは上位に位置するのだろう?」
俺は話の流れから読み取れたことを言って確認する。
「ああ、そうだ。話が早くて助かる。だが厳密に言えば上位ではない。――頂点だ」
「…………は?」
エリオナは得意げな顔で告げたのだが、俺は思わず固まってしまった。……いやいや、確かに黒帝の強さは才能の数値で考えるとエルフや他の獣人と比べて多いのだろう(俺は『蠱毒』があるのでステータスが出鱈目に上がっていき、確かなことは言えないが)。だが魔力と魔力の質に関しては俺の精神的異常とも言える精神力が原因であり、甲斐性があるとも思えず生殖能力に関して言えば、俺は全くの未経験のチェリーで童貞なので計りようがない。
「そう唖然とするな。順に説明してやる。黒帝は種族カーストのどれを取っても頂点に君臨する至高の種族であり、頂点に君臨する二つの種族の片割れだ。もう一つの種族を白皇と言うが、黒帝が男、白皇が女と言う決まりがあり、白皇は黒帝と結婚しなければならないと言う使命がある。白を操る『白帝王』を持つ白皇は黒帝以外と結婚出来ず黒帝といつでも結婚出来るよう二十歳で成長が止まる。老化も起こらない。つまり不老と言う訳だな」
不老か。と言うことは結婚しなければ一生追いかけられると言うことだろうか。それは遠慮したい。
「それは黒帝にも言えるのだが、白皇に色々な制限が付いているのに対して黒帝は制限がなく、頂点で白皇よりも一つ上になるから至高の種族と言われている訳だが、黒帝と白皇は先程言った通りの代替わり制。代替わり制と言うのは先代が死んでから次代の黒帝または白皇が生まれると言うことであり、それぞれ現代に存在している数は一人のみだ」
「……一人だと? それならいくら至高の種族と言われようと単体で種族カーストの頂点に立てる訳がない。それとも種族カーストと言うのは種族の一人を見たモノなのか?」
「いや。黒帝と白皇は共に、たった一人で他の種族に勝てるからこそ種族カーストの上位にいる。何代か前の黒帝と白皇だが、一代だけの王国を築いたそうだ。二人は戦以外で外に出てくることはなかったが、それはその……桁違いに高い生殖能力がそうさせるのだろう」
エリオナに説明されたが、俺は矛盾を指摘する。しかしエリオナはそれさえも潰してくる。最後の方はやや頬を染めて恥ずかしげだったが。
「……例え一人で全種族に敵う能力を持っているとして、何故不老なのに俺が居る?」
俺は肝心な話を聞こうとキツめの質問をしてしまう。
「……カイトの疑問も尤もだ。簡単に言えば黒帝と白皇は満足したのだろうな。全国民と共に心中した」
エリオナは僅かな逡巡の後、口を開いた。
「……っ!」
これには流石の俺も無表情を崩して、微かだったが目を見開いてしまう。……国中で心中しただと? 先代は何を考えていたんだ?
「驚くのも無理はない。だが歴代の黒帝と白皇は長い時を生きれてしまう。生きるのに飽きれば死を選ぶのも無理はないのかもしれない。カイトはまだ若いから理解出来ないだろうがな」
私にも理解出来ないが、とエリオナは苦笑した。……人生を全うした、と言うことなんだろう。年中無休でイチャついて子供も多く出来ただろうに、国心中を選ぶとはな。それだけ満ち足りたと言うことか。俺とは全く異なるな。
「……すまない、取り乱した」
「いや良い。私も文献で読んだだけだがかなり驚いた。だが至高の種族故に、何でも手に入ってしまうのだろう。幸せすぎるのも考え物、と言うことかもしれない」
俺が謝罪するとエリオナは苦笑して首を左右に振り、感慨深げに言った。
「……話が逸れてしまったな。つまり徹底した代替わり制の種族であるが故に次代の者に伝承が伝わりにくいから、カイトが知らなくても不思議ではないと言うことだな」
エリオナは話題の軌道修正を行い、やっと俺が黒帝について知らないのも無理はない、と言った答えに辿り着いた。
「黒帝には至高の種族であるが所以に唯一無二の特性を持つ。もちろんステータスカードを見たところで載っていない。それは黒帝の周囲の者に作用する特性だからだ、その特性と言うのが自分より下の種族の異性を虜にする、と言うようなモノなのだが」
「……冗談は止めてくれ」
「冗談ではない。ただ発動条件があるだけだ。無条件に発動する特性なら街を歩いただけでカイトの周りには女性が集まってしまうだろう?」
エリオナの言葉に俺は嫌そうな顔をするが、俺に黒帝の特性とやらがあることを認めさせたいようだ。
「……で、その発動条件ってのは?」
俺は一気に興味を失くし適当に尋ねる。
「かなり重要なことなのがな。それを踏まえてカイトに忠告しなければならないこともある。黒帝の伝承は各地に伝わっている。だが一部伝わっていないことがある。それが黒髪で紅い瞳をしていると言う点だ。それより黒いモノを使える最強の種族と言う認識が強く、外見的特徴は伝わっていないと言うのもある」
それはかなりおかしなことだな、と思う。伝承に容姿の詳細は必要ない、と言ってしまえば別だが、大昔の人物と言う訳でもないのだから、奇妙なことではある。
「と言うより伝わりにくくなっているのではないかと、私は考えている。特性の発動条件が黒帝を黒帝と認識することだからな」
無条件に発動してしまわないよう、工夫がされているのかもしれなかった。それより気になる情報がある。
「……黒帝を黒帝と認識? つまり俺が黒帝だと言い触らして『黒皇帝』を使えば黒帝だと認識され、その特性が発動すると言うことか?」
例えばの話、俺が『黒皇帝』を使わずに黒帝だと言い触らしても効果は発揮されない。しかしエリオナのように事前情報があり、そこで俺が黒帝だと言えば、「もしかして」が「確信」に変わり、特性が発動する。
そしてこれは恐らくになるが、事前情報があって容姿が一致しても、少しでも疑念を抱いていれば発動しない。
「ああ。それがカイトに忠告したいことだ。無闇に種族を公開しない方が良い。黒帝になった者でその特性を使って世の中の女性全てを手に入れようとした者が居たのだが、男達に襲撃されて死んでしまった。片端から女性を身籠らせ、初めての子供が生まれると聞いて浮かれていたところを母子もろとも、殺されてしまったのだ。流石の黒帝と言えど、世界中の男達が協力し、しかも大切な女性達を狙われてしまえば隙を突かれることもあるだろう、とは思う」
エリオナなりの推測が混じっていたが……悲しい末路だな。俺はそうならないようにしよう。と言うかその条件なら七女神やクラスメイト達は既に俺の種族スキルを知っているので、誰かに情報を与えられればその特性が発動するのではないだろうか。
「特性は黒帝と知ってしまった女性が黒帝に惚れる。女としての本能が刺激されると言えば良いのか、それとも最早メスの本能と言えば良いのか、それが促進される。つまりその者の子を育みたいと思う訳だな」
「……そんなことが有り得るのか?」
俺はエリオナの説明に尋ねる。……そんな非科学的なこと、信じられる訳がない。ここがいくらファンタジーの世界だとは言え。大体そんなことが起こるならエリオナや俺の種族を知っている三人に加え、もしかしたら十騎士にも現れているかもしれない。だがそんな様子は一切見られていない。
「ああ。確かに一部では迷信と言われているが、実際に――」
エリオナはそう言って俺に抱き着いてきた。
「……っ」
むにゅぅ、と俺の胸元に当たって形を変え俺にその柔らかさを目一杯伝えてくる膨らみが俺の理性を揺さ振ってくる。
「……私はそう思っているのだぞ?」
切なげに潤んだ瞳。俺の脇の下を通すように回された細い腕。密着して形を柔らかく変えた胸。色っぽく上気した頬。……正直に言おう、可愛い。相手が俺じゃなければこの場で押し倒しているかもしれないぐらいの破壊力は持っていた。しかも上目遣いなのだ。感情の失っていると思っている俺でさえ理性がグラリと来たのだから相当の破壊力だろう。いや、感情を失っているからこそ性欲に、負けそうになってしまったのかもしれなかった。
俺にはエリオナに対する感情的遠慮が存在しない。だからこそ欲求に流されやすい部分もあるのだろう。例えばだが、俺がこの場でエリオナを押し倒し襲ったとしよう。流石にとんでもない実力者が揃っているので、バレて責められるのは間違いない。もしかしたら殺そうとしてくるかもしれない。そこから全世界を相手にした逃亡生活が幕を開けると考えると、面倒だ。感情があればそう言う先を見通して損害を考え、止める。
感情のない俺なら、ここでエリオナを襲ったとして、それが他にバレて殺されそうになったところで、エリオナを手駒にしておけば一緒に戦うことで何人かを足止め、躊躇、気絶などをさせられれば問題ないと思われる。
そして黒で女性だけを縛り、男を殺す。エリオナと同じように襲ってモノにすれば、この国の主力を全て手中に収めたも同然だ。そうしてここに居る女性全員から国中の女性、世界へと手を広げていけば、やがて支配と言う形ではあるが無事を確保し俺に逆らうヤツを皆殺しにしてしまえば安全だ、とも考えられる。
まあその前に、やっぱりどうでも良いかと思い直せてしまうから行動を起こすこともないが。
「…………」
俺は思わず、視線さえ逸らせずエリオナに魅入ってしまっていたが我に返り、しかし何も言えなかった。
「……正直に言おう。私は今、物凄く興奮を覚えている。こうしてカイトに抱き着いているだけで胸が張り裂けそうな程に高鳴っているのだ。分かるか?」
エリオナは感情が抑えられないのかギュッと俺に強く抱き着いてきて、更に押し付けられる。……わざとやっているんだろうか。と言うかこれだけ障害物があったら胸の鼓動なんて感じられる訳がない。
「……分からないな」
俺は正直に告げた。分からないモノは分からない。大体そんなモノが分かったところで俺にどうしろと言うのか。それが分かったとして、その気持ちが俺には理解出来ない。放置一択だろう。
「そうか。では行動で示すしかないな」
するとエリオナは手を俺の首の後ろに回し、目を閉じて顔を近付けてくる。……おい。まさかじゃないだろうな。
そのまさかなのか、エリオナの顔はどんどん近付いていく。……マズい。
俺はそう思って右手をエリオナの顔の前に差し込み、防ごうとする。
「……あむ」
だが予想外の出来事が起こった。俺が伸ばした右手の先を、エリオナが咥えたのだ。……は?
予想以上の行動を取り普通ではないエリオナに、俺は驚いて固まる。エリオナは固まった俺を無視して、俺の右手の指を味わう。舐める咥えるなどの行為によって俺の指を味わっているかのように、俺には見えた。クチュクチュと言う水っぽい音がしていて、俺はエリオナの温かい口内とヌラリとした舌をたっぷり味わうことになってしまった。……フリーズさえしなければ、抜いて逃れることも出来たんだが。俺でも動揺することがあるのかもしれない。若しくは「指を舐めるのに夢中になる女性」と言う訳の分からないモノに対して、好奇心でも湧いたんだろうか。
「……ぷはっ」
エリオナは満足したのか俺の指から口を放す。すると銀の糸が手と口を伝っていて、エリオナは恍惚とした表情を浮かべていた。……色っぽい、ではなくエロい。性欲が強いとは思わないが、感情がなく欲望に忠実とも言える俺にとって、「色っぽい」などと言う遠回しな表現ではなく、「エロい」と言うそのままの言葉が相応しい。
「……分かっただろう?」
「……ああ」
俺は熱の籠ったエリオナの声に、何とか頷く。だが本当のところは、全く分かっていなかった。正直に言って分かりたくもなかった。俺は人を平気で見捨てることの出来る感情のない人間だ。……厳密に言えばもう人間じゃないが、少なくともそう言う好意的なモノを向けられるような人間じゃない。
「っ! す、すまない。私のしたことが本能に流されては、はしたないことを……」
エリオナはふと我に返ったようで、顔を羞恥に赤らめて俺にギュッと抱き着いて「うぅ」と恥ずかしそうに顔を埋めて隠そうとしている。……可愛いが、こうなると俺も少し自分の話をしなきゃいけないな。何故そう思い立ったのかは、エリオナが少し姉四人や二人の教師に似た雰囲気を持っているからだろう。
良い意味で、だ。俺を気にかけると言う点では同じだからな。姉も、教師も、エリオナも。揃って、理由は違えど俺を気にかける。特に諌山先生や水谷先生は転移前に何かしようとしていた訳で、姉達もただ見ていてだけではなかった。結果は兎も角、過程としては悪くない。
美夜は俺を「ぎゅっ」としたいやら何やら言っていたが、中学二年を境にすっかり変わってしまったと言えるこんな弟をまだ気にかけるとは、随分と優しいことだ。それが心からの優しさからは分からない。「イジメを受けて傷付いた弟を優しく慰める優しい姉」アピールなのかもしれないし、他の打算的計画なのかもしれない。だが人をどうでも良いと認識出来るこんな弟を気にかけると言う点は、良い人なのではないかと思う。
俺にとって良い人と言う訳ではないのかもしれないが。
だから、話しておいた方が良いだろう。……ここに打算がないと言えば嘘になる。仮にも種族としての本能だとは言え告白紛いをしてきたエリオナを、感情がないと言ってフることになる。そして同時に、今俺の種族を知っている者達全員をフることになる。
その後どうするか、と言う点においてエリオナはとても重要な位置に居る。黒帝に関して、国に関して、十騎士に関して。ここまで重要なポストを制覇した者は、そうそう居ないだろう。事務が苦手そうなエリオナと違って、ギルドには干渉出来ないが種族、国、騎士団、十騎士と、俺がこの先どうするにしても必要となってくる要素は多い。行く宛てもなく彷徨っても良いが、どうせなら誰かの伝手があった方が生きやすい。それは元の世界でも一緒だ。伝手や人脈と言うのが重要になってくる場面は多い。
そして最重要事項である黒帝について、俺を補助してくれる者が必要になってきそうだった。例えばその特性について。俺にその気がないと言うことを知っている人が居れば、楽にはなる筈だった。それを地位のために利用しようとしてくる程、エリオナも腐ってはいないだろう。
だから、話しておいた方が良い。
「……エリオナ。今度は俺の話を聞いてくれるか?」
異世界人だと言うことは伏せて、俺は俺の現状について軽く説明する。昔、イジメを受けていたこと。それは四人の姉が美人すぎるせいだったこと。イジメを長い間受け続けたせいで感情が失われてしまったこと。
イジメと言う言葉が通じるかは分からなかったがこっちの世界にもそう言うのはあるらしく、エリオナは神妙な面持ちで聞いてくれた。……少し種族本能に負けて俺の胸元に頬擦りすることはあったが、それくらいならまだ許容範囲内だ。
「……そうか。ならカイトの代わりに私が笑い、泣き、怒ってやろう。四人の姉も、そう言うことをしていたのではないか?」
話終わった俺に、エリオナはそう告げて微笑んだ。……下心抜きに、見蕩れてしまった。素直に綺麗だと思った。
エリオナにそう言われて、少し考えてみる。確かに俺がどうでも良いと思っていたことに対して、真っ先に何かしらの反応を示していたのは姉四人だった。クラスメイトの不良とプラス一に対してもキレていたのは俺ではなく、姉四人と教師二人だった。男子副会長の脚を消し飛ばしていたからな。多分、そうなのだろう。
……俺の代わりに、怒っていた。そう思うと少し心が痛んだ――気がした。普通の人間なら痛むのだろうが、気のせいだろう。俺は心を痛めるような感情を持っていない。俺にそこまでの感情はない。事実を認識するだけで、そう言う人間らしい感情は失せてしまった。
「……大丈夫だ。私が傍に居る」
何が大丈夫なのか、エリオナはそう言って俺を優しく抱き締めてくれた。それは姉のようであり、母のようでもあった。
慈愛に満ちたような、感覚。幼い頃にあった、今となっては幻想となった過去を思い出す。確か子供の頃は、姉にこうされて嬉しかったのだと思う。少なくとも俺はそう記憶している。心が温かくなるような感覚があった気がする。遠く、そして今となっては「そう思った」と言う事実だけが残った記録のような記憶。
きっと、俺に感情があればそう思ったのだろうと推測出来るだけに、今の俺には感情がないことがはっきりと理解出来た。
俺の涙は、出なかった。
……当たり前か。悲しさを表すことさえないんだから。