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怪物襲来

 ドン! ドン! ドン!


 その音が一定間隔で続いていた。……まるで誰かが鈍器を振り上げて振り下ろす、その繰り返しのような間隔だ。


「……な、何?」


 生徒達にざわめきが走る。……天井の高さは恐らく三メートルないだろう。だが二メートル五十センチはある教室を、上から攻撃するなど、どんな巨体な人間でも無理だ。釣竿を先に鉄球でも括り付ければ別だが、それは無理だろう。その方法よりも確実に間隔が短い。


 ほとんどが腰を浮かせ不安そうにする中、衝撃が止んだ。


「……?」


 何が起こったのか全く分からない状況だが、一人だけ分かっている人物が居たようだ。


「あ、ああぁぁぁ……!」


 赤崎だ。怯えたような顔を真っ青にし、ガクガクと身体を震わせている。


「きょ、巨人がっ! 教室よりでけぇ巨人が棍棒持って近付いてきて……っ!」


 するとそんなことを言い始めた。……それはおかしいな。そんなでかいヤツが近付いてきていて、俺がその足音に気付かない訳がない。俺は周囲を警戒し、耳を済ませていた。黒い森では視力が使えない。嗅覚は室内だし、味覚は尚のこと。触覚では振動を感知するだけだが、聴覚で足音を聞き取った方が遥かに遠くまで分かる。


「そ、そんな訳あるかよ」


 尋常じゃない赤崎の怯えように、不良仲間で俺の後ろの席に居る赤碕の左、窓側の列一番後ろに居るヤツが否定しつつも本当なんじゃないかと思っているような顔で、しかし否定したいと思っている顔で言った。


「ひっ! きゃああああぁぁぁぁぁぁ!」


 誰もが怯える赤碕に注目している中、一人の女子が甲高い悲鳴を上げた。……その悲鳴の原因に、俺は気付いていた。今度はちゃんと聞いていたからだ。黒板側の壁の向こうから歩いてくるような一定の間隔でズン、ズンと鳴り響く足音に。向かう先はそこから右に曲がった、窓側。


「「「う、うわああぁぁぁぁぁぁ!!!」」」


 男子女子問わず、悲鳴を上げて窓側から逃げようとする。椅子を倒して立ち上がり廊下側へ逃げる者。腰が抜けたのか椅子を倒して立ち上がったものの尻餅を着いている者、様々である。

 窓側の前だったため、このクラスのメンバーではない後ろの七人で椅子から転げ落ちたのは、男子副会長だけである。……ここに来る前に黒いモノの発生の時と言い、こいつは臆病者だな。イケメンと言う仮面を被った臆病者。イケメンであるが故に人から強く否定されてこなかったため、精神が弱いんだろう。何て情けない。前で残っているのは諫山先生のみだ。この人が乱れることなんてあるのだろうか?


 そいつは確かに赤崎の言う通り、四メートルはある巨人。茶色い肌をして筋肉隆々の巨人である。腕は丸太よりも太く、右手に木を雑に削ったような不恰好な棍棒を持っている。目は赤くギラついていて、鋭い牙や爪、頭には髪がないが二本の角が生えていることから、鬼系のモンスターに分類される存在だと思われる。該当しそうなモンスターでは、オーガ、サイクロプス、トロールと言った感じか。サイクロプスは一つ目だから違うかもしれない。


 そいつは棍棒を大きく振り上げ、窓ガラスに叩き付ける。


 ドン!


 だが奇妙なことに、窓ガラスは割れなかった。……ただの学校の窓ガラスがダンプカーに突っ込まれても無事なぐらい丈夫な訳もなく、特殊なモノがあるようだ。この威力で天上をやられたら一溜まりもないだろう。と言うことは、何か結界のようなモノに守られていると言うことかもしれない。


 ……窓ガラスに特大棍棒が叩き付けられるのを見て、「もうダメだ!」と思ったヤツらが頭を抱えうずくまる。だがガラスの破砕音とは違う音を聞いて不思議に思ったヤツらが恐る恐る顔を上げ、次に棍棒が叩き付けられても何故かガラスが割れないことに気付く。


「静かにしろ!」


 ざわめく教室に、諫山先生の叱咤が響く。するとあっさり教室は静まり返った。


「……見ての通り、いつまで持つかは分からないが、何故かこの教室は壊れない。結界みたいなモノだろうな。だから落ち着け。いつまで持つか分からない以上、どうにかしてこいつを追っ払わなければならない」


 諫山先生はドン! ドン! と異形の巨人が窓を特大棍棒で叩いている一番近くに居ながら、いつもの調子で言った。それに生徒は落ち着いていく。……俺か? 俺は変わらず自分の席で座ってますけど? 死ぬなら逃げても死ぬし、死なないなら死なない。それだけのことだ。


「お、追っ払うって、こんな化け物と戦うってことですか……?」


 生徒の一人が諫山先生の言葉から得た不安を口にする。それに再びざわめく教室。当たり前だ。いきなりあんな怪物が来て、訳も分からないまま戦うだなんて無茶無謀にも程がある。


「いや。無理にとは言わない。それに私達は武器を持っていない。母屋――風紀委員長なら警備中木刀を所持しているが、今は持っていない。素手ではあんな怪物に敵う訳がないだろうな」


「……じゃ、じゃあどうやって……」


 生徒の言葉をあっさり頷いた諫山先生に、戸惑ってその生徒が再び聞く。


「武器がない。かと言って素手で攻撃するのは相手の強さが分からない分不利で危険だ。ならば他の、常識にないが今は存在する手段を使えば良い」


 ニヤリ、と諫山先生は笑う。……カッコ良いな。男女問わず魅了している。


「魔法、ってことだよねぇ」


 そんな中、ポヤポヤと変わらぬ笑みを浮かべる水谷先生が言った。


「そうだ。私達には未知の力である魔法と言うモノがある。スキルを見てみろ。魔法と書いてあるスキルがある者は挙手してくれ。因みにスキルが多いモノはスマホのように指をスライドしてスクロールすると上下出来る。スキルにあるヤツはタッチすると詳細説明が出るようだ。魔法じゃなくても、遠距離攻撃が出来そうなスキルがあれば挙手をしてくれ」


 先に色々試していたらしい諫山先生は、そう言って指示を出す。教室に居る全員はカードに見入ってスマホを弄るように持っている手の親指または持っていない手の人差し指でスライドしたりタッチし始める。……俺もスライドは分かっていたが、タッチすると説明が出るってのは分かっていなかった。流石は冷静沈着に状況把握、先導に徹した諫山先生だ。


 ……。

 …………。


 正直言って、普通の『剣技』とか『火魔法』とか全然ないのは魔力と魔力の質が「――」だからかもしれないが、普通じゃないスキルが並んでいる。言葉遊びが好きな神様でも居るのかもしれない。


 しばらくして、段々と挙手されていく。ほとんどが手を挙げた段階で、諫山先生が「お前もあるんだろう?」と言う風に睨み付けてきたので渋々正直に挙手する。……スキルってのは敵に知られないようにしておくのが良いんだ。何で敵だらけのこの教室で、「俺は遠距離攻撃の出来るスキル持ってますよー」アピールしなきゃいけないんだ。

 ……いや、待て俺。今挙手していないヤツは近距離攻撃しか出来ない戦士タイプだ。つまりここで俺が攻撃された時、逃げるためには人が目の前で傷付き倒れていく姿を見ることがない平和な日本に生きてきたこいつらの内のそいつを攻撃して倒し、動揺している隙に逃げられるんじゃないだろうか。


 俺は自分もその平和な日本に生きてきた独りであると言うのに、サラッと簡単に人を傷付ける計画を立てると、周囲を見渡して挙手していないヤツを覚えておく。


「……ふむ。ではこれから、怪物撃退作戦を考える」


 少し思案するような顔をした後、キリッとカッコ良く真剣な表情をした諫山先生が言った。

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