フェザードラゴン
「……壊せないのか?」
エリオナの指示の下、周辺を探索し始めた俺達だが、一向にスイッチや仕掛けらしきモノは見つからない。
「壊せる、かもしれないな。ルーリエ殿、フルパワーでやってくれるか?」
エリオナは俺の言葉に顎に手を当てて考え込むようにし、怪力を誇るルーリエに対し言った。
「いいよ~」
ルーリエは快く引き受けると、グッと右拳を握り振り被った。そして拳を壁に突き立てる。
ドオォン!
「……っ」
迷宮内の壁は壊れない仕様になっているようなので壁が崩れる、と言うことはなかったが、まるで地震が起こったかのように振動した。リムがピクッと反応して自分の服の袖をキュッと掴んでいた。
「お~。壊れたね~」
ルーリエは変わらぬ間延びした口調で、崩れた瓦礫が転がりポッカリと縦に長い長方形の穴が出来た壁を見上げる。
「仕掛けではなく力で、か。珍しいタイプの通路だな。とりあえず進むぞ。幅が狭いので私、ルーリエ殿、リム、カイトの順で並ぼう」
エリオナは通路を覗き込んで言い、先頭に立って通路へ入っていく。……どうでも良いんだが、ルーリエには殿が付いて俺は呼び捨てなんだな。あの程度の実力じゃあ、殿を付けるに値しないと言うことだろうか。
「一本道だな。モンスターは居ないようだ。通路はそれ程長くない。恐らく先に薄っすらと見える部屋に何かがあるのだろう」
エリオナは先頭に立って歩きつつ、状況を報告してくれる。おかげで一番後ろに居る俺にも状況が把握出来た。
「良いか? 行くぞ!」
装飾の施された両開きの扉の前まで辿り着くとエリオナが後ろを振り返って確認し、二人が頷いたところで扉を開け放ち、素早く中へ入る。
「「「……」」」
中に入った俺達四人は、薄暗い部屋の中を見渡す。……ボボボボッ、と壁にかかった松明が勝手に灯っていく。ボス部屋と同じ演出だな。
「……どうやらボスのようだ。気を引き締めろ!」
エリオナも俺と同じ考えのようで、やや険しい表情を見せつつも俺達を叱咤する。……各々武器を構え、神経を研ぎ澄ませていく。
……敵が姿を現す。白いフワフワな羽毛に覆われた巨大なドラゴンだ。二本足で立ち蝙蝠のような翼を持つモンスター。瞳は蒼い――のだが焦点は合っていない。濁っているのか虚ろなのか。
そして敵はそいつだけじゃない。周囲には黒い身体に赤い瞳をした三メートル程の牛頭モンスターが居た。革鎧に斧や鉈、ハルバードを持っている。
「フェザードラゴンに、アークタウロスだと!? まさあ迷宮一階層にドラゴンが居るとはな……!」
エリオナが驚愕して目を見開く。……アークタウロスとやらの数は五十。ドラゴンと言えば大抵のファンタジー世界で最強のモンスターとされる。恐らくこの世界でも強い部類には入ることだろう。
「……この数のアークタウロスを相手にしながらフェザードラゴンと戦うのは危険。フェザードラゴンは操られていると思う。先にアークタウロスを」
リムが両手に短剣を携え、襲いかかってきたアークタウロスに斬りかかる。……リムの動きは悪くない。それどころか台風とやり合える程の連続攻撃をしている。
「……確かにフェザードラゴンが動く気配はない。アークタウロスを先に叩くぞ!」
エリオナがフェザードラゴンを確認しつつ言って、アークタウロスの群れに突っ込んでいく。ルーリエもそれに続き、通常の一階層モンスターよりも強く時間がかかるのだが、五十体程度では止められないようだ。
俺も剣を構えて変則的に振るい頭に切っ先を突き立てて倒していく。……良いスキルを持っていれば良いんだが。
途中わざと相手の武器に擦り付けて攻撃したり切っ先から針を飛ばしたりしながらスキルランクを上げていきながら、アークタウロスを狩っていく。
「ふぅ」
十数分後、アークタウロスの残り一体をエリオナが切り伏せて全滅させた。勿論魔力の消費を抑えてこの成果だ。
「一向にかかってくる気配はないな。だがあの向こうに宝箱がある。戦わなければ報酬は得られないだろう。とは言えドラゴン種と戦うのは楽ではない。襲われなければそれで良いのだが」
エリオナは油断なく剣を構えたまま言った。……確かにフェザードラゴンは動く気配がない。目の焦点も合ってないし、近付いてきた相手を自動的に攻撃するのか?
「……様子がおかしい」
「そうだね~。心臓の音も聞こえないよ~」
リムが言って、ルーリエがそれに頷く。……じゃあ死んでる可能性もあるのか。ゾンビには見えないんだが、仮死状態なのか?
と言うか牛なのに耳が良いのか。SSS級になれる要因はそこら辺と関係してくるのかもしれない。
「恐らくは寄生虫が何かだろうな。誰かがここに放ったのかもしれない。中から食い殺して身体を奪うタイプの寄生虫か。若しくは洗脳だが、ドラゴン種を相手に洗脳をかけられる者など一万人居る中でも一人として居ないだろうな」
「……やっぱり寄生虫?」
「ああ」
エリオナが推測を立てリムが尋ねる。それにエリオナが頷いたことで、結論となった。……寄生虫か。こんなに綺麗な毛を持っているってのに勿体ない。生かして捕らえれば毛ぐらい生えてくるだろうし、ドラゴンの素材なのだから高値で売れるハズだ。
「ダンジョンに寄生虫は存在しない。誰かが放った? 何故だ?」
「……今は倒すことに集中。寄生されてるなら容赦なくやる」
エリオナが難しい顔をしていたが、リムが言って一旦考えるのを止め、神経を集中させていく。
「フェザードラゴンは羽毛が高値で売れるから乱獲されてたんだよね~。今は十体と居ないって聞いてるから~、あんまり倒したくないんだけど~」
ルーリエが少し残念そうな顔をして言った。……確かにフワフワで触り心地が良さそうだ。俺も布団にしたいと思う。
「……ドラゴンか。まだ戦ったことはないが、良いスキルを持ってるんだろうな」
俺は愛剣のトリニティ・トライデントを左手に持って構え、コキッ、と首を鳴らした。