全域探索
五階層までは分かれ道が来たら半分に分けて進もう、と言うことにしたので最初の分かれ道で二つのグループに分かれた。丁度二で割れる人数だったので八人ずつになる。
右に行くグループ。
エリオナ。リディネラ。ルーリエ。キルヒ。イリネーラ。リム。ウルティア。俺。
左に行くグループ。
フィシル。オリヴィア。アスカ。レイラ。ネルヴィ。ルイラン。アルバス。ガレイン。
……何故かイケメンアルバスに睨まれていたが、よく分からない。もしかしたらリディネラやルーリエ辺りと仲良くなるチャンスを窺っていたのかもしれない。
「……騎士団長にギルドマスターって、バランス悪くないか?」
俺は右に行って先頭を切って歩く二人に呟く。
「問題ない。十騎士は皆協調性のある者達ばかりだ。それよりもギルドから一人と言うフィシル殿の方を気にかけるべきではないのか?」
「それこそ問題ない。あいつはあれでギルド嬢として働いてるんだ。コミュニケーションはお手の物だろう」
互いに問題ないと言い張る長二人。……この二人を離して欲しかったんだがな。それとコミュニケーションの話じゃなく、実力の話をしてるんだが。
「とりあえず目の前のモンスターに集中して欲しい」
言い争ったりはしていないが、互いに譲らないと言う雰囲気を持つ長二人に対し、イリネーラが淡々と言った。
「私がやるから良いよ~」
ルーリエがいつもと変わらぬ間延びした口調で言って、二メートルはある戦斧を右手一本で軽々と背中から引き抜くと、こちらに気付いたミノタウロスに駆け足で突っ込んでいく。
「よいしょ~っとぉ」
間延びした声、右手一本で振り下ろされた戦斧、まだ届かない距離。
「グモオオオオォォォォ!」
だが、ミノタウロスは斬撃で真っ二つに引き裂かれ絶命した。……あれだけ軽く振って一発だったら、俺がさっきやったみたいなことを斧で出来るんじゃないか? 流石に元SSS級冒険者だけはあって、かなり強い。
「……」
イリネーラが右腰から銃を抜き放ち、左手を添えてオオロロチの三つの眉間に寸分違わず火の弾丸を撃ち込み倒す。衝撃で赤いポニーテールが靡いた。……俺はアニメを観たりしたからな。銃を撃った衝撃で髪が靡くと言うのは、かなり見た感じとしてカッコ良い。
「……ん」
リムは短剣では戦わず、砂の弾丸をいくつも飛ばしてミノタウロスを滅多打ちにし倒す。
「……」
ウルティアは素早くホワイトバックの懐に入ると、片手両刃直剣で横一閃に斬り倒す。
「私の邪魔を、するなよ……!」
リディネラは獰猛に犬歯を見せて笑うと、全身から銀色のオーラで出来た巨大な獅子を放ち、ミノタウロス三体とオオロロチ二体、ホワイトバック四体を食い散らした。
「あまり無闇に魔力を消耗するのは感心出来ないな」
一階層では魔力を使うのも惜しいと言うようなエリオナは、金属甲冑を着ているのにかなり速く駆けミノタウロス、オオロロチを二体ずつ一刀の下斬り伏せた。
「ほう? 妾と同じランクだけはあるようじゃの」
キルヒは犬歯を見せてニヤリと笑うと、二挺の銃を抜いて銃身が内側になるように横にして構え、銃声を響かせて再び二本の分かれ道に当たる時まで乱射して計十七体の頭を撃ち抜いて倒した。
二丁拳銃も確かにカッコ良い。だが個人的には二刀流が良いと思う。強そうだからな。
「……また分かれ道か」
俺はさっき見せたのでのんびりしていたのだが、分かれ道にぶつかってしまった。今度は四人になる訳だな。
「……?」
何故か自然とリム、ルーリエ、エリオナの三人が俺が近い右の道に足を向けていた。
「……おい」
その三人に加え俺が右の道を行くのかと思っていたら、リディネラが不満そうな顔で呼び止めてきた。
「何か用か?」
「何で自然と分かれ方が決まってる?」
「何となくだろう。特に意味はない」
不満そうな目を向けるリディネラに対し、キッパリとした口調で返すエリオナ。
「……分かった。行くぞ」
そう言い切られては反論出来ないのか、リディネラは不満そうにしながらもイリネーラ、キルヒ、ウルティアを連れて左の道に歩いていった。
「ではこちらも行くとしよう」
エリオナが言って、俺達四人は右の道へ行く。……ふむ。モンスターに変わりはないか。後は罠や隠し扉、抜け穴などがないかを調べるだけだ。
「……んっ。百メートル先、右側の壁に妙な空洞がある。恐らく隠し通路か何か」
しばらくしてリムがピクッと反応すると、平坦な声音で言った。
「そうか。ご苦労」
「……ん」
エリオナに労われ、コクンと頷くリム。
「リムは砂を操ることが出来るからな。壁の向こうまで砂――と言うか壁がしっかりと続いているかが分かるのだ」
訳が分からなかった俺を見かねてか、それとも初めてリムと会ったためか、エリオナが説明してくれる。
「……なるほどな」
小さいのに凄いんだな、とは言えなかったが、感心した。……リムは心なしか誇らしげな顔をしている。俺が基本無表情だから、微妙な表情の変化に気付けたのかもしれない。
「小さいのに」と言う言葉を口にすれば、それは年下だと思っていると言うことだ。あり大抵に言えば「子供なのに」と同意語。流石にそれは失礼だろう。騎士として立派に働いているからには一定の年齢は超えている筈だ。……確かに結婚出来る年齢が元の世界より若かったりするのは、異世界でよくあることなんだが。
「それで~、そこも調べるの~?」
ルーリエが先頭で襲いかかってきたモンスターを両断しながら聞いてくる。
「ああ。無論そのつもりだ。最初からそのつもりで来たのだからな」
ルーリエの質問に、エリオナはフッと笑って答えた。
「……面倒な罠じゃければ良いんだが」
「お前ともあろう者が弱気でどうする。一階層の罠程度ならどんな隠しボスが出ようとも問題ない」
「そうだよ~。おね~さんがついてるからね~」
自信満々なエリオナとルーリエが言って、リムが俺の隣をチョコチョコと歩く。……別に俺は不安なんじゃなくて、変に時間を取られたくないだけだ。
「……不安とは一言も言ってないんだがな」
俺はふぅ、と嘆息しながら言って、立ち塞がるモンスター達を狩って進み、リムが「……ここ」と指差す位置まで進む。
……勘違いしないで欲しいのは、俺が動揺するなどと言うことはあり得ないからだ。厄介な目に遭って時間を取られたくない。いくら感情が死んでいても三大欲求は発現する。性欲は好意を持つなどと言うことが想像出来ないので湧き立つことはないが、食欲と睡眠欲は別だ。
顔やスタイルなどの見た目が良いと言うことはあっても、結婚したいだの付き合いたいだのと言う感情は湧き上がってこない。性欲が湧き立ったところで、処理することは可能だが、特に処理しなくても良い。ただ「そうか」と認識するだけの話だ。
兎も角、食欲と睡眠欲は感情で耐えられるモノではないので、早めに終わらせて休みたいと言うことだ。……まあ休憩出来るならどこでも良いんだが。どうせ俺ならどこでも寝られるしな。緊張や不安は感じない訳だし。
「さて。ではここを開ける手段を探そうか」
スイッチか何かは見つからないが、エリオナは先が空洞になっているらしい壁を背に、俺達三人を向いて言った。