オーク討伐
寝落ちしました、すみません
俺は十階層を攻略し迷宮の外へと戻ってきていた。……さてと、折角だからオーク相手に武器を試す。と言うか迷宮の外が薄明るい。どうやら夜明けになっているようだ。二日ぐらい潜っていたかもしれない。
まあ心配する人も居ないので別にどれだけ迷宮に潜っていようと構わないだろう。
俺が街を出たことを知っているのは出入り口が一つしかないため、門番として配備されている衛兵ぐらいだろう。俺がヘマをして死んだとでも思っているのかもしれないが。
……まあ他人にどう思われようとどうでも良い。
ランクは上がらないが、レベルが上がりステータスがバカみたいに上昇し、スキルも増えていくので迷宮ってのは良い。だがまあ、俺でなければ死んでいた、と言う場面も多い。桁外れのステータスを手にしても、一撃くらったら瀕死になってしまうので再生出来なければ無理だっただろう。
ランクが上がらないと報酬の良いクエストが受けられないのは不便と言えば不便だ。だが今日(?)回収したモンスターの素材や装備でかなり換金出来ると思いたい。
俺は迷宮の入り口である洞窟の前から、街から更に離れた森へと向かう。
……そしていきなりオークっぽいヤツに遭遇した。
筋肉隆々で猪の頭をした、全身毛むくじゃらの腰巻きしかしてない槍を装備にしたヤツだ。全長は二メートル五十センチ程と黒の森で見たヤツより小さい。……あいつ、あれでボス級モンスターだったのかもしれないな。
しかもそいつは折り重なって大きく鼾を掻き、堂々と寝ていた。……恐らく三十体ぐらい居るんじゃないだろうか。
「……」
俺は右腰からトリニティ・トライデントをゆっくりと引き抜く。刃の擦れる澄んだ音が鳴る。……起こさないように一撃で、全滅させるか。
見張りも何も居ない(この世界に見張りって存在出来ないんじゃないかって思うくらい油断している)ので剣を軽く振って調子を確かめる。……シャラン、と言う音を立てて剣の刀身が伸びた。
……思いっきり振ると環境に多大な影響を与えるくらいに木々を伐採してしまいそうだ。力加減には充分な注意をしなければならないだろう。
「……」
俺は左腰から右脇腹にかけるように、軽く速さを以って剣を振るう。すると伸びた剣が三体のオークを切り裂いた。俺は続いて伸びたそのまま、手首を上にするように振り上げて切っ先の向きを「つ」のように向けて、更に振り上げたため切っ先の次の節が増えていきオークを二体突き貫いて倒す。
俺は一旦刃を戻し、一体のオークに向けて突きを放ち頭を突き刺して倒すと剣を右に振るって左にカーブさせ更に二体のオークを貫いて倒す。……ふむ。使い方が分かってきた気がするぞ。
俺は少し調子に乗って突きを放ちわざとオークに突き刺さる直前で左に曲げて上手く槍に擦らせて白い火花を散らせると、その槍を持っていたオークが一瞬で燃え散った。……おぉ、凄い威力だ。
俺は更にそこから先に居るオークに向けて火の針を飛ばす――が刺さりが悪かったのか、起きて悲鳴を上げた。……チッ。ちょっと調子に乗ってしまったのがいけなかったか。痛快とまでは言わないが、爽快ではあるからな。仮にも殺しが爽快とは、俺の心はホントに死んだのだと理解出来る。
その悲鳴を聞いて今まで起きなかったオーク達が一斉に起き始める。
「ブゴオオオォォォォ!!」
「ブゴォ!」
「ブゴ――プギィ!」
何やら喚いて怒りを露わにするオーク達が煩かったのでその内の一体を剣を軽く振るい首を狩って黙らせる。
……この使い方は良いかもしれない。軽く伸ばして一回一回元の長さに戻して次の攻撃を行う。変則的な攻撃は出来ないが、変則的な太刀筋は出来る。かなり有効だろう。だが一つ問題なのは、これでは思いっきり剣が振れない。思いっきり剣を振ったらどれくらい伸びるかは分からないが、森の中で使うもんじゃないだろう。
オーク達は怒り狂って俺に襲いかかってくるが、軽く振り回すだけで切り裂き、槍を放ってきてもわざと弾いて火花を起こしたり気紛れに針を飛ばしたりしてスキルの経験値を上げて一分後ぐらいには、三十体居たオークの群れを殲滅し終えていた。
「……これでクエストは達成か」
三十体も倒したし、十回分の報酬を貰えたら良いなとは思うが、そこはまあギルドに行ってからだろう。
「……さて、戻るか」
どれくらい迷宮に潜っていたかが分からない以上何日経ったのか意外と数時間しか経っていないのか分からない。だが俺が見た限りでは時計はないし、日の出日の入りで生活しているのかもしれなかった。
俺は独り森から駆けて直ぐに出ると、見晴らしの良い草原でゆっくり歩く。……新しい服や宿も見たいな。まだ水系の魔法やスキルは奪っていないので、身体を洗っていない。どうにかして洗いたい。出来れば風呂にも入りたい。俺も日本人だしあの風呂に入った時の何とも言えない感覚や思わず生き返ったと思ってしまう程リラックスさせる風呂は欲しい。もっと欲を言えば温泉が良い。
と言うことで、俺は門から見えない位置でダッシュすると門に沿ってゆっくりと歩いていく。
「……っ!?」
しばらくして門番の衛兵の下へ行くと、衛兵が目を見開いて驚いていた。
「……どうかしたか?」
「……いや、オークの討伐ならこんなに――二日もかかるとは思わなくてな。てっきり死んだのかと……」
衛兵は無表情に尋ねる俺に、少し詰まったように答える。……まあそれは仕方がないだろう。と言うか二日も迷宮に居たのか。
「……この辺りの地形を直接目で見て確認していただけだ。旅人の性分なのか、如何なる時も最悪の事態に備えるようにしている」
俺はサラッと口から出任せを言って衛兵に右手の黒に青筋が入った腕輪を見せて街の中へ入っていく。
そのまま俺は早朝だからか起きている人も少なく起きていても眠そうな人が多い街中を、俺の顔を見て目を見開き完全に目覚めていくのを見ながら俺は相変わらず俺の顔は酷く醜いモノなんだと少し自分の美的センスを疑問に思いながらギルドに向かった。まあ、いつものことなのだが。
カランカラン。
ギルドの扉を開けて中に入ると眠そうな顔をしたギルド嬢が合計四人居た。換金所に一人、受付に三人だ。
「……クエスト達成の報告をしたいんだが」
余程眠いのか、ふあぁ、と大きな欠伸をして口元を右手で隠す俺が冒険者登録をした時に担当してくれたギルド嬢に話しかける。
「ふえっ!? か、カイトさん!?」
冒険者は一人も居ないギルド内に、ギルド嬢の驚く声が響く。……何でそんなに驚いているんだろうか。衛兵も死んだと思っていたらしいし、もしかしたらこの娘もそう思っていたのかもしれない。欠伸をしたからか、目の端に涙を浮かべている。
「……そんなに驚くことはないだろう」
俺は溜め息を交えて言いつつ、右手の黒い青筋が入った腕輪を差し出す。……これの履歴を見られたら、俺が迷宮に入ったってことがバレるんじゃないのか? 大体腰に剣を提げている時点で何かおかしいと気付くかもしれない。衛兵は俺が生きていたことに驚いて気付かなかったが、他のギルド嬢は目敏く俺の腰の輝いていないのに輝いているように見える剣を見て俺に疑わしげな視線を送ってきた――だが何故か直ぐに目を逸らす。俺の顔はそんなに醜いか。
「あ、いえ、その、すみません。それでは履歴を見せてもらいますね」
ギルド嬢は慌てたように謝って記録の腕輪に軽く触れる。すると画面が出てきた。
「…………えっ?」
そしてその画面を見て俺が討伐したモンスターの履歴を確認したのか、ギルド嬢は驚いた顔のまま固まった。
「えっ? ちょっ、ちょっとこれはその、えっと――少々お待ち下さい!」
呆然から動き出したギルド嬢はあたふたとし始め、遂には俺の目の前を去った。
「あの、フィシルさん、ちょっと来てくれますか?」
「良いけど、どうかしたの?」
「はい。あっ、ルーリエさんも来て下さい」
「はぁ~い」
ギルド嬢は二人の「超」の付く美少女と美女に声をかけて、俺の方に戻ってくる。
フィシルと言うらしき超美少女は、スタイル(特に胸)はあまり良くないが、童顔で確かに顔はかなり整っている。「美」の付く女性ばかりのギルド嬢の中でも逸脱した可愛さである。金髪碧眼で耳が尖っている。人間離れした容貌からも推測出来るが、恐らくはエルフだろう。
ルーリエと言うらしき超美女は、スタイル(特に胸)がかなり凄い。女神として覚醒し更に大きさを増した水谷先生のよりも大きいんじゃないだろうか。あどけなさの残る童顔垂れ目で、目が細いのか閉じているように見える。淡いピンク色の癖のある長髪の中に生えた薄い茶色の曲がった角と横に伸びた耳、尻の辺りから覗く細い先に毛が付いたような尻尾から、恐らく牛の獣人だ。
「「っ!?」」
二人も俺のモンスター討伐履歴を見て驚愕していた。そうしてから履歴と俺の顔を見比べ――マジマジと見つめることなく早々に逸らした。……俺の顔はこんな状況でも見たくないと思わせる程に醜いか、そうか。
「……これって……。いやまさか、でも履歴の詐称は出来ないし……」
「じゃあ本当なんじゃないの~? これはマスターに相談しなきゃだね~」
二人はボソボソと囁き合っている。……本人が目の前に居るので丸聞こえなのだが。
……と言うかSSS級冒険者だと言うギルドマスターに相談する程の大事になってしまったようだ。俺としてはあまり目立ちたくないのだが。まあ顔で目立っているようなのでそれは無理か。こんなことになるんだったら髪縛らないで居れば良かったな。でもそれだと視界が悪くて迷宮の途中で死んでいたかもしれない。少しでも視界を狭めるのは命取りになる訳だからな。
……顔については何ともならないので諦めるしかないのかもしれない。と言うかもう諦めよう。
この世界に整形技術なんて言うモノがあるとは思えないしな。
「え、えっと、ギルドマスターをお呼びしますので、一先ずこの――オーク三十体討伐分、オーク三体討伐クエスト十回分の報酬です。準銀貨三枚になりますね」
ギルドマスターを呼ぶとのことで、オーク三体討伐の十回分の報酬、準銀貨と言う銀色の硬貨を三枚手渡しされる。……手渡ししたギルド嬢が横の二人から睨まれていた。もしかしたら手渡しはいけないのかもしれない。
と言うことで、ギルド嬢が奥の階段から二階へ上がっていくのを見届けつつ、俺はジッと立って待っていた。
「おい」
そこでカランカラン、と新たにギルドの中へ入ってきたヤツが声をかけてきた。