一階層ボス戦
「……」
俺が両開きの扉に近付くと勝手に開いた。……自動で開くのか。これはボス部屋前では注意しなきゃいけないな。ちょっと休憩しようかと思っていたら扉が開いて休憩する暇もなくボスバトルは面倒そうだ。
俺が部屋の中に足を踏み入れると背後で扉が閉まる。……生きるか死ぬか、ってヤツか。殺すか殺されるかしないとここからは出られないようだ。ボボボボッ、と部屋の周囲にかけられた松明が入り口から灯っていく。すると暗かった部屋の中は明るくなりボスの姿が露わとなる。
ボスは体長十メートルの巨大な獅子だった。身体は白いが鬣は赤と白が混じり合っている。……ピリピリと伝わってくる気迫が他三体とは違うと言うことを理解させてくれる。
「……少しマジになるか」
俺は言って、黒い剣を一本ずつ出現させると、『紫電』と『鬼神』の赤黒いオーラを纏わせて攻撃力を上昇させる。
……身体強化はスタミナを使うから少し様子を見てから使うことにしよう。それかここぞと言う時だけ瞬間的に使うのもありだ。
「ガアアァァァァァァオオ!!」
紅白の獅子は咆哮すると、キュウン、と大きく開いた口の前に何やら光を集束し始める。……おいおいおい、まさかビームとか撃ってくるんじゃないだろうな。
とか思ってる内に、まさかのビームが発射される。僅かに白い煙が見える。……かなりの高熱だな。俺はそれを横に跳んで避ける。
だが光線を発射した紅白の獅子は既に俺へと飛びかかってきていた。……爪に光を集束していき、ビームソードみたいな爪を作り出した。
「……っ」
それが振るわれると、その軌道上に光線が放たれた。……チッ。便利なスキルを持ってやがる。
俺は五本の光線を右手の一閃で薙ぎ払い、今度はこちらから攻撃しようと飛び上がっている獅子に向けて駆け出す。
「……喰らえ、黒蟲」
俺は身体からぎちぎちと赤い目をした黒い小さな蟲を大量に溢れ出させる。だが獅子は空中に居ながら口の前に光を集束させる。クルリと宙返りをする途中で、黒蟲を放ったこちらへ向かって光線を放ってきた。俺は急いで後方に跳び避けて何をしたのかしっかり確認する。
……光線と言ってもさっきみたいな細いヤツじゃなく、威力は落ちるが広範囲に攻撃出来るモノだ。知能も高いらしい。
良いスキルも持っているようなので、容赦なく攻めることにする。
先ず『紫電』を凝縮した光線を放つ。いくつかは獅子の作り出したいくつもの光の短い光線に相殺されてしまうが、如何せん威力が違うため獅子の肢体に風穴を開けた。
「ガアアアァァァァァァ!!」
激痛と怒りからか大きく咆哮すると、獅子は赤い回路のようなモノを全身に張り巡らせていく。……何だ?
「グルルルル!」
獅子は唸ると、突如として赤い光線を放ってきた。
「っ!」
ノーモーションとはまた厄介な。だがそのスキルは良いな。
「……俺にそのスキル、寄越せ……!」
俺は紫の雷、黒いオーラ、赤黒いオーラを全身から黒い剣にまで纏い、一気に勝負を決めるため突っ込む。
獅子が突っ込んでくる俺に赤い光線の群れを放ってくるが、俺は両手の剣を振って弾いていく。
「……『鬼頭』」
俺は呟いて一本の角が頭に生えている赤い肌をした鬼の顔を出現させる。……俺が試したところ、このスキルで出現する鬼の頭は俺が自由自在に動かせる。だがそのため数が増えると使いにくくなるスキルだ。
だが使いこなせれば囮にもなるしどんな属性にも対応出来る。良いスキルではある。
今はまだ一体目だしスキルランクも初級なので火を吹くしか出来ないが、俺が頭でイメージした通りに赤い光線を避けつつ地味にダメージを与えていき注意を引けた。俺はそこに二本の黒い剣を携えて突っ込み、脳天に剣を突き立ててトドメを差す。獅子は僅かに呻いたのみで、ドサッと倒れる。
……俺はスキルを全て解除してアイテムボックスを開き獅子を収納する。真っ二つにしなかったのは、出来るだけ剥ぎ取る部位を無事に回収したいからだ。毛皮が売れるかもしれないからな、こいつは。
ボスが絶命して俺が回収を終えると、ボス部屋の中心に綺麗な魔方陣が出現した。
「……」
俺は一旦ステータスカードを確認してからその上に立つ。
すると、頭の中に外に出るか二階層へ進むかと言う選択肢が思い浮かんだ。……こう言う仕組みになってるのか。俺は迷わず二階層に進む、と頭の中で念じる。
すると魔方陣が輝き出し、俺を包み込んでいく――と思ったら迷宮に入った時と同じような場所に出た。……もう移動したらしいな。遠くに見えるモンスターはさっきの階層で出てきた三体のいずれでもない。
モンスターと戦う前に、一階層で手に入れたスキルを再度確認してみよう。残念ながらレベルは上がってないが、ステータスは奪ったおかげでかなり上がっている。
ミノタウロスから手に入れたらしきスキルは一つ。『牛斧術』。ミノタウロスが持っていた人間からしたらでかい戦斧で技を放つためのスキルだ。……アイテムボックスにでも一つぐらいは残しておくべきか。
三つ首の大蛇から手に入れたらしきスキルは三つ。『溶解酸』、『蛇毒』、『麻痺付与』。『溶解酸』は今の上級状態でありとあらゆるモノを溶かす酸を放てる。『蛇毒』は今の上級の状態でありとあらゆる毒を放てる。例えば麻痺毒、睡眠毒、致死毒などだ。『麻痺付与』はその名の通り、攻撃に麻痺を付与出来て麻痺耐性もある。
四本腕の白い猿から手に入れたらしきスキルは一つ。『四猿拳』。どうやら拳術のようで、四本の腕で放つためのスキルだ。俺には腕が二本しかないが、まあ出来ないこともない。
最後、紅白の獅子から手に入れたらしきスキルは四つ。『閃光』、『威圧』、『赤脈』、『遠攻撃』。『閃光』は光線を自在に操るスキルだ。獅子がよく使っていた。『威圧』――これはレベルと種族が上のヤツには効果がないようだが、モンスターのあいつと俺に種族差があるとは思えない。きっとレベルが足りなかったせいで効果が発揮されなかったんだろう。咆哮や睨みなどで相手を威圧して怯ませるスキルだ。『赤脈』は獅子が最後に使ったステータスをかなり上昇させ全ての攻撃に「赤」と言う属性を付与し効果を上げるそうだ。『遠攻撃』は使っていなかったようだが、離れた場所から攻撃出来るスキルらしい。ランクは中級なので十五メートル離れた敵にも攻撃出来る。
補足説明だが、俺の『蠱毒』と言うスキル。これは相手の姿をも奪い取るため俺が今からギシュラキとやらの腕を四本出すことも可能だ。だから見えない肉体のストックがあると思ってくれれば良い。ストックがあるため捻じれた俺の腕でも元の腕に作り変えることで再生することが出来るのだ。
因みに俺が人の姿を捨てることも可能。化け物にだってなれるスキルだ。
スキルの確認を終えた俺は、二階層の攻略へと動き出した。