超高難易度迷宮
「……オークはどこがよく出る?」
俺はオークなんてモンスター、推測でしか分からないので大体の範囲から全部のモンスターを三体ずつ倒せば良い。
「オーク討伐に行くのか? この先にある森の中によく居るぞ。だが山は越えるな? 向こうは黒の森と呼ばれる魔の森がある。ボス級の巨大モンスターが多く居るからな。他ではボスだがそこでは中級のギシュラキと言う六本腕の巨人は活発的だ。偽の阿修羅っぽい鬼ってことでそう名付けられたが、かなり強いぞ」
……あのレベル40で討伐するようなモンスターが中級か。運が悪ければ全滅だな。俺は運が良かったと思うべきか。
「……あの迷宮に挑むにはどれくらいレベルが必要だ?」
「……まさか、挑む気じゃないだろうな」
「……まさか。ただどれくらいのレベルなら迷宮攻略に召集されるのかと思ってな」
俺は厳しい視線を向けてくる衛兵に肩を竦める。……本当は迷宮の強さを聞き出すためだが。
「ステータスは種族によって異なるから確かなことは言えないが、50程度でステータス平均が100ぐらいなら一階層は大丈夫だろうな」
……は?
俺は半ば呆然としていた。
「最高難易度だけはあってかなり厳しい。才能が桁違いなSSS級相当の三人なら楽に突破出来るがな」
……いやいやいや、俺でも楽に突破出来るぞ? 俺ならレベル5辺りで突破出来る。レベル50でステータス平均が100? もしかして普通のヤツは1~5ぐらいしか上がらないモノなのか? じゃあ喧嘩売られなくて良かった。手加減を間違えて簡単に殺してしまいそうだ。
「……そうか」
俺は頷いて、森の方へ歩いていく。……ように見せかけて迷宮に向かっているのだが。
俺はステータスカードでスキルの確認をしながら迷宮に近付いていく。……よし、衛兵はこっちを向いていない。
あまり常識的なことを聞くと異世界人だと疑われるかもしれない。異世界転移と世界中の迷宮出現が関係あるなら、世界中の迷宮を俺達四十人程度で全て踏破出来る訳もないし、他にも転移または転生してきたヤツらが居る可能性もある。
異世界人が居るとバレてしまえば、注目を浴びかねない。寧ろ肉体がどうなっているのかと解剖されかねないかもしれない。それは流石に面倒だ。
兎も角、迷宮の前に何故見張りが居ないのかは、追々探っていこう。図書館のような場所にありそうだからな、そう言う書物は。
俺は隙を見て盛り上がって出来たような洞窟の暗い穴へと足を踏み入れる――と中は電気や明かりがある訳でもないのに明るかった。学校の廊下を高さ幅共に三倍ぐらいにしたような広さだ。……モンスターの影が見える。しかもでかい。
「……最初は魔力節約でいくか」
俺は独り呟いて、思いっきり地を蹴って駆ける。近付くと流石に牛の頭をした黒い二足歩行の巨大なモンスターで鎧と戦斧を装備しているミノタウロスっぽいヤツが吼えるが、所詮は雑魚モンスター。俺は戦斧が振り下ろされる前に懐へ潜り込み、革の鎧ごと殴って倒す。……内臓を弾けさせて絶命した。吐血する程度にしか見えないけどな。
ミノタウロスの指をアイテムボックスを開くように念じて作った穴へ触れさせると、吸い込まれるように中に収納された。
実際に使ってみると、便利なアイテムだと言うのがよく分かる。全長三メートルのモンスターが同じ種類なら何体も入るんだから。しかも持たなければいけないのは指輪のみ。どんなコンパクトさだろうか。
「……ふむ、問題ないな」
俺はミノタウロスから奪ったスキルやステータスの確認はせず、次のモンスターへと向かう。今度は三つ首の大蛇だ。毒々しい色をしているが、毒系のスキルを使ってきそうだ。牙や液体などには気を付けて――『紫電』の落雷で倒す。
……天井があるのに落雷が起こるってのは、何とも不思議な現象だが、スキルだから良いのかもしれない。雷も実際の雷と同じ電力を持っているかと聞かれれば、分からないが弱いのかもしれない。
「……本当にボス級モンスターなのか?」
俺は独り言を呟いて怪訝そうな顔をしながら先に進みミノタウロス四体が屯していたので殴り殺す。……確かにでかいモンスターばかりだが、そんなに強いかはよく分からない。
「……」
一体ずつをアイテムボックスに収納しながら先に進むと、ミノタウロス、三つ首の大蛇と続いて三種類目を発見した。……迷宮内はいくつかに分岐した道がある。閉じ込められて超強力なモンスターが出てくる小部屋がある、なんてことは冒険者の集団が調査したのでないだろう。常備された罠はあるかもしれないが。
……迷宮内の道を通せんぼするかのような大きさの、白い毛むくじゃらな四本腕の猿だ。チッ。こいつはなかなか強そうだな。
「……」
俺は左手に黒い剣を出現させると、『紫電』を纏わせる。……そいつは真正面から突っ込んできた俺に対し巨体の割りに素早い反応を見せる。反射神経の数値が高いのかもしれない。それなら奪った時の上昇が楽しみだな。
俺は倒した後のことを考えながら、迎撃の構えを取るそいつに向けて『紫電』を纏った黒い剣を大上段から真っ直ぐ振り下ろす。まだ届かない距離だ。五メートルぐらい距離がある。だが俺は黒い剣の刃を伸ばしたので、真っ二つにした。……何だ、そこまで強くないな。人間相手なら兎も角獣相手にこう言う不意打ちは通用しないかと思っていたんだが。危機感が足りないのかもしれない。まあ、恐怖を感じないので仕方がないか。
「……」
俺は分岐点に立って二手に分かれた道の先を見る。……ふむふむ。俺が倒した三種類のモンスターしか居ないようだ。一階層は三種類のモンスターが居ると考えれば良いか。じゃあ走りながら斬り殺してアイテムボックスに収納しながら一気にボス部屋まで行くとするか。
俺はそう決めると、『紫電』を纏って黒い剣を両手に携え、一気に駆ける。首を切り落として直ぐ様アイテムボックスを開いて死体を回収していく。そのまま体感で数分駆けていると(歩いたら一時間以上かかるんじゃないか?)、大きな両開きの扉があった。……天井や壁が茶色の土なのに、そこだけ何やら模様のようなモノが描かれた扉だ。
……ここがボス部屋と言うヤツだろう。さて、ここで犠牲者が出たかは知らないが、俺は勝てるのだろうか。