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異界の街

 ……さてと。


 俺は教室の残骸があるそこから大きく跳躍して空を飛んでいる訳だが、黒い森の先は一向に見えない。……ここが絶海の孤島じゃなければ、この先を行けば森を抜けられる筈だが。

 だが俺はそこで気付く。

 ……あいつらもこっちへ向かっているなら、直ぐに会ってしまうんじゃないか?

 と。


「……方向を変えるか」


 俺はそう思い、着地するところで全く逆の方向へUターンするように大きく跳躍する。ちょっと斜め左に跳んで教室のあった方から離れる。……山を越えれば街がある。そう思えばこっちの方が良い気がしないでもない。

 俺は別の可能性に賭けて、山に向かって跳躍しながら移動していく。


 数分後、俺は山頂に辿り着いた。黒い森は山のこっち側だけで、反対側は普通の緑の木々が生い茂る森だ。


「……ふむ」


 そして山頂にある木の上から遠くを眺めると、高い壁に囲まれた街が見えた。高い壁は街の外側を囲み、中には牧場なのか緑色の部分と西洋風の街並みと大きな城が見える。……王都とかそう言う街か。それは都合が良いな。大きな街の方が情報が集まる。

 ……だが様子がおかしいな。商人が乗っているのか馬車の行き来もあるし街を出ていく人の影もある。

 だが何かがおかしい。人に活気がないように感じる。……まあこんな離れた場所から分かることなんて少ないけどな。


「……まあ、行ってみるか」


 行かないことには分からないし、何も事態が動かない。

 俺は身体強化をした身体で跳躍して山を跳ぶように下りていく。


 数十分後、街へと辿り着いた。ある程度の距離がある内に身体強化を解いて歩いて壁に築かれた門に到達する。


「……何者だ。見かけない顔だな」


 門番をしている金属鎧を纏った衛兵二人が槍を交差して行く手を遮る。……流石に入国には名前を名乗る必要があるか。小説とかだと名字があると貴族だと思われかねないんだが。


「……カイトと言う。ここには初めてくるが、旅人をやっている。何か身分証明が出来るモノはないが」


 俺は適当に素性をでっち上げる。……流石に旅人の設定には無理があったか。格好もYシャツに制服のズボンだし、武器も何も持っていない。巨人の武器を一つ拝借すれば良かったか。


「……旅人? その割りには何の装備もしていないようだが」


 案の定、俺への疑いの視線が強くなる。


「……装備は問題ない。素手でモンスターと戦えるからな。それに行動が阻害されるため重い装備はしない。道具もあまり持つ性分ではないのだ」


 俺はありそうな理由を付け足す。……これで大丈夫だとは思わないが、信用される方向へ持っていくことは出来る。


「……まあ良い。ここには王国最強の騎士団が駐屯している。何者かが妙な気を起こそうとしても無駄だからな」


 衛兵の一人が嘆息混じりに忠告してくる。……つまり殺されたくなければ妙な気は起こすなってことか。


「……王国最強の騎士団、か。その割りには街に活気がないな。何か厄介事でも抱えているのか?」


 王国最強の騎士団は駐屯しているならどんな問題でも対処出来る筈だ。それがこの活気のなさを払拭してくれる筈なのに、今はそれが起こっていない。何か問題があるのは明白だ。


「……まあな。旅人のお前には関係のないことだが、妙なことを口走らないように説明してやる。――今から一週間以上前のこと。世界各地で天変地異が起こった。天変地異と言っても異常な天災などではなく、最高難易度の迷宮だ。迷宮は旅人なら知ってるだろうが、世界各地に点在し地下や天空や海底にあるモンスターと財宝の宝庫だ。階層があり上がるまたは下がる程に出現するモンスターの強さが上がっていく――と、迷宮の説明は要らないな。迷宮は街一つに居る冒険者が毎日潜って踏破していく訳だが、その最高難易度の迷宮は雑魚モンスターが他の迷宮のボスモンスター、と言う滅茶苦茶な難易度を持っている」


 ……迷宮、か。それに冒険者。これは収穫ありだ。俺もこの街で冒険者になり、迷宮を踏破して金を稼ぐしかないな。それで生計を立てていけば良いだろう。


「……それが一階層目から続き、どんどん強くなっていき、各階層にあるボス部屋のモンスターに派遣したヤツらが壊滅、とかそんな感じか?」


 俺は推測を交えつつ聞く。


「……ああ。五階層目で派遣した冒険者の一団三十二名が七名を残し壊滅した。何とか討伐したモノの、平均B級の冒険者達だったんだが、まるで歯が立たなかったそうだ。王国最強の騎士団もこれには入念な準備を要するとのことで、近い内に迷宮に乗り込むそうだ」


「……その迷宮ってのは?」


「……あれだ。あそこにある地面が盛り上がったような洞窟があるだろう?」


 俺が聞くと街の壁を囲む草原の途中、直ぐ近くにある地面が盛り上がって出来たような洞窟を指差した。……近いな。多分コンビニからコンビニへ行くぐらいの距離だ。

 だが踏破を必要とするにも関わらず、迷宮の入り口には見張りを置くでもなく誰も居ない。……迷宮からモンスターが溢れてくることはないのか? まあ確かに入り口に立っていたとして、直ぐに反応出来るようなヤツを見張りに付けるのは難しいのかもしれないが。普通の見張りならただの殺され要員となってしまうだろう。

 例えば、そうだな。ある程度の期間迷宮に潜ってモンスターを討伐しないと、共喰いしてしまうとか。そしてその共喰いして強化したモンスターが迷宮をうろつくようになる。それかモンスターが増えすぎて窮屈になると別の階層に移るようになり、一階層のヤツらが下から追い立てられて迷宮から外に出てくる、とか。

 まあ理由は分からないが、狩らなければならない意義があるのだろう。でなければ討伐隊なんて編成しない。勝手にやりたいヤツだけ入れば良い。


「……あれが最高難易度の迷宮か。まあただの旅人の俺には無理だろう」


 俺は言いつつも、興味が湧いていた。もちろん後で行くつもりだった。


「……だろうな。ベテランの冒険者でも数階層で死に至る迷宮だ。――これが入国許可証になる。一々入国許可証を得るよりも冒険者登録をした方が楽だろう」


 衛兵は俺の言葉に頷きながら片仮名で「カイト」と書かれた白い紙を渡してくる。


「……そうだな。この機会に冒険者として生計を立てるのもありか」


 俺は無難そうな答えを返し、紙を受け取って槍をけてくれた門を潜る。


 ……さて、今の会話でいくつか分かったことがあるので整理しよう。

 先ず、俺達がこの世界に来たのと同日、世界各地で最高難易度の迷宮が急に誕生した。それは恐らく俺が知っている冒険者と言う職業の戦士の集団が三十人余りでかかっても全くクリア出来ないモノだと言う。

 冒険者や騎士と言った職業も聞こえたが、それよりもこの街が抱える問題が面倒だ。迷宮の踏破となると冒険者に出番が回ってくる可能性もある。王国最強の騎士団とやらが無理だった場合、人数で攻めることにもなりかねない。これは素性を隠して俺が迷宮をクリアするしかないかもしれないな。俺には最強の三つのスキルに加え、その他奪ったスキルもあるので最初の階層を突破することは出来るだろう。しかもそこで他の迷宮ではボス級のモンスターの力を手に入れられるなんて、こんなに有り難いことはない。迷宮ってのは俺にとっては力の宝庫でもあると言うことか。

 それにボス級モンスターの素材が多く集められると言うことは、比較的効率良く金を稼げると言うことだ。肉体のストックがあれば作り直せるので、ダメージはあまり問題ではない。金の宝庫とも言える訳か。世の中の人はおそらく、苦労と成果を鑑みて損得を決めるのだろう。であれば、損がほとんどない俺なら得ばかりだ。

 最高の稼ぎ場所と言える。


 だがそれには冒険者登録が必要だ。さっさと冒険者登録が出来る場所に行くとしよう。……どこにあるどんな場所なのかは分からないが。

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