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『蠱毒』と『黒皇帝』

「……」


 俺は全身に雷を纏った御宮を見据え、しかし何もしなかった。


「がっ!」


 だって既に、憐れみから憤りへと感情がシフトしていた美夜が闇を放っていたから。


「いい加減にしなさいよ。これ以上私を怒らせないでくれる?」


 と言う美夜の顔は既にこれ以上ないくらいに憤怒の表情をしていたが。


「な、何をするんだ! 俺はただ人殺しをしようとする桐谷を……っ!」


「灰人を、何……? 殺そうとしたの?」


 闇に殴られた御宮は美夜に対し文句を付けようとするが、美夜の絶対零度の視線の前では無意味。


「……だ、だってあいつは人を殺そうとしたじゃないか! それなら正当防衛であいつを殺しても……っ!」


 御宮が僅かに怯み、しかし弁解しようとしたのかそう口走った瞬間だった。闇が、炎が、剣が、風が、葉が、水が、光が。一斉に御宮の脚を呑み込んで消滅させた。


「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 御宮は恐らく脚に走っただろう激痛に絶叫を上げた。……情けないな。俺なんかお前に内臓ほとんど焼かれても絶叫上げなかったってのに。


「お、俺の……! 俺の脚が……!」


 御宮は恐怖に引き攣り絶望したような顔をする。


「……」


 俺はそんな御宮に近付いていく。


「ひっ! そ、そうか! お前が全て仕組んだんだな? よくも……!」


 俺が近付いてきて怯えた声を上げる御宮だが、両脚が消滅してもまだ自分を正当化出来るとは大したモノだと思う。そんな情けない御宮に全員が注視していた。だから全く気付いていない。


「……」


 俺は御宮に無言で右手を差し伸べる。


「灰人……っ!」


 そんな俺に美夜は信じられないと言うような顔をするが、これは結果から考えれば当然の行動だ。


「……た、助けてくれるのか? そうだよな、君だって元は人間なんだよな。いくら人殺しを宣言した化け物だって、人の助け合いの心が――」


 御宮は青白い顔で怯えたように身体を震わせ、俺が手を差し伸べると言うことを自分の都合の良いように解釈しそんなことを言うが、俺は当初の予定通り御宮が俺の手を掴むと同時にぶん投げた。


「オオオオォォォォォ!!!」


 その先には近付いてきていた巨大なモンスターが。


「は――」


 未だ呆然としている御宮は、そのモンスターが持つ六本の腕の一つに持っているクレイモアで脇腹辺りから腰にかけて切り裂かれる。


「あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 もう既に上半身も半ばからなくなった御宮は鮮血を散らしながら地に落ちる。


「……あ、すみません。手が滑りました」


 俺はわざとらしく言う。


「よくもっ! よくもよくもよくもよくも! お前みたいな化け物は、この俺が殺してやる! 俺は見たぞ! お前の腕が勝手に再生するのを! 絶対、絶対に殺してやる!」


 命の危機を迎えても俺を悪者にするのに必死な御宮には感嘆を覚えないでもない。


「……これから死ぬヤツが、何言ってんだ?」


 俺は少し首を傾げて聞いた。怨念に満ちている御宮の表情が、頭上から降ってきた影によって絶望に変えられる。


「た、助け――」


 御宮が助けを求め手を伸ばしてくるのを無表情に見据えながら、下ろされる巨大な足によって御宮が潰されるのを確認した。……グシャリ、と潰された御宮が居た場所からは鮮血が地面に広がっていた。


「……マズいな」


 俺は全員が唖然とするまたは人が死んだところを初めて見たためか青白い顔で目を逸らす者や耐え切れず嘔吐する者が居る中で、独り呟いた。……両脚を失ったとは言え御宮はレベル20程度。そんなヤツが一撃で殺されたのだ。俺が逃げれば全滅は必至。


「ひいっ!」


 不良四人は腰を抜かして動けないようだ。俺が容赦なく人を殺せると分かったからだろう。


「……」


 だが俺はそいつらを逃す気がない。まずは青シャツの『破砕』を奪うため青シャツの近くに『紫電』を纏い高速で移動すると、


「ひっ!」


 怯えるそいつに全開の『紫電』の落雷をくらわせ殺す。


「っ!? お、おい桐谷!?」


 『紫電』が収まり焼け焦げて倒れ、そのままピクリとも動かないそいつを見て諫山先生が俺を呼ぶが、無視だ。


「……」


 次は赤シャツの近くに移動する。


「お、俺は殺せねえぞ!」


 赤シャツも怯えて『絶対防御』を全身に纏うが、正直言ってバカだ。折角俺がステータスの違いによってそのスキルが破られることを示唆してやったのに、まさかもう一度説明しなきゃ分からないのか?


「……『破砕』」


 だが面倒なので説明なんてしない。俺は左拳に灰色のオーラを纏わせる。


「っ!? そ、それは青木の……!?」


 赤シャツは驚愕して俺を見るが、俺は容赦なく左拳を腹部に叩き付ける。

 攻撃を全て遮断し反射する『絶対防御』と全てを破壊する『破砕』。この二つが激突した時勝つのはどちらか。それは勿論、スキルランクが高くステータスの高い方だ。

 俺の二つ目のスキルは殺した相手のスキルをそのまま奪えるので、スキルランクはほぼ同等と見て良い。だからこの場合勝負を決めるのは――。


「がっ……!」


 ステータスの差だ。


「……」


 俺は無言で『絶対防御』の膜が『破砕』され苦悶の表情を浮かべる赤シャツに向かって、『紫電』の落雷を落とし絶命させる。

 ……ふむ。これで欲しいスキルは回収し終えた。後は要らないからモンスターにでも殺させようかな。


「ひいっ! や、止めてくれ! もうこんなことはしないから! だから命だけは――」


 黄シャツと緑シャツの二人を、『紫電』を纏って高速移動すると片手で一人ずつ掴んで、俺に敵意を向けてくる六本腕のモンスターに投げる。勿論二人は呆気なくクレイモアの一閃で引き裂かれ絶命した。


「……桐谷」


 諫山先生が少し悲しそうな顔をして俺を呼ぶ。……何で諫山先生がそんな顔をしているのか。

 ゴミ処理なんて、人間がよくやることだろうに。


「……諫山先生。レベル20であれば隙だらけであっても筋力が高いためある程度攻撃が通りません。ですがあっさり一撃で切り裂いたことから見て、俺よりもレベルの高い――レベル40ぐらいで倒せる強さだと思われます。俺が戦うので諫山先生は皆を連れて逃げて下さい」


 俺はそんな諫山先生を無視し、冷静に告げる。


「いいえ、灰人。私達も戦うわ」


 だがそんな俺を後ろから支援するように、五人が立ち並んだ。姉四人と白咲だ。


「……はっきり言わないと分かりませんか? ――邪魔だから消えて下さい」


 俺はあえて遠回しにこの場を去るように言ったのに、援護するようなことを示す五人を見据えて言う。


「……っ。嫌よ。灰人より強いって分かってるなら、尚更一緒に戦うわ」


 美夜が一瞬俺に拒絶されて悲しそうな顔をするが、断固として共闘する気らしい。他四人も頷く。


「……はぁ。俺の所持している最初からあった三つの固有スキルの内一つは『紫電』です。ですが、他二つのスキルは見せていません」


 俺は溜め息をついて言う。


「桐谷。他二つの内一つは、殺した相手のスキルを奪うスキルか?」


 諫山先生が尋ねてくる。……そんなチートスキルを思い付く先生が意外だが。


「……いいえ、違います。俺の固有スキル二つ目は『蠱毒』。蠱毒とは、知らない人も居ると思いますが、同じ器に多数の虫を入れて殺し合わせ最後に生き残った生命力の強い一匹を用いて呪い殺すと言う呪術ですね。それを更に魔法を加えたかで強力にしたのが俺の『蠱毒』と言うスキルです。その効果は、俺が直接殺した相手のステータス、スキル、身体を奪うことが出来る」


 俺はようやく二つ目のスキルを明かす。……『偽癒』と『獣の本能』は使い勝手が悪いから要らないし、『電竜迅雷』は『紫電』よりも弱いスキルので使わない。だからモンスターに殺させた。ただそれだけのこと。


「お前は何故二人を殺した?」


 諫山先生が核心に迫る質問をしてくる。


「……勿論、『絶対防御』と『破砕』のスキルが使えるからです。他三つはあまり使い勝手の良いスキルではありませんので」


 俺は何を言ってるのかと、肩を竦めて答える。それに全員が戦慄していた。……何でそんなことで驚くんだか。人間ってのは、自分が助かるためならどんな手段でも使う種族だぞ。


「……」


 諫山先生は苦虫を噛み潰したような顔で俺を見る。……何を思っているのだろうか。


「……それでも私達は灰人を援護するわ」


 だが美夜達はまだ諦めてくれない。……いい加減ウザいな。何でそこまでするんだろうか。


「……」


 俺はゴミにたかる虫を見るような目で五人を見る。すると五人はビクッと怯えるような仕草をする。……出来ればもう積極的に関わろうとして欲しくない。俺には恐怖なんてないんだから死地にも飛び込むし、両親の下に四人を送り返す時に死んでました、なんてオチじゃダメだろう。白咲も両親同士が知り合いなので死なれると困る。

 これまで俺を養ってくれた大恩ある両親を悲しませるのは忍びなかった。俺なりの恩返し、と言ったところだろう。

 恩を仇で返す程人間らしくもなく、恩を献身的に返す程優しくもない。


「……手伝う人数が増えたら俺が貰える経験値が少なくなるでしょう。手を出さないで下さい」


 俺は言って、種族が変わるとかどうでも良くなり、三つ目のスキルを使うことにする。


「……喰らえ、黒蟲」


 俺が呟くと、俺の身体から黒い小さな塊が溢れ出てくる。


 ぎちぎちぎちぎち。


 黒く小さな身体にある赤く小さな二つの瞳を輝かせ、六本腕のモンスターへ向かって飛んでいく。


「オオオオォォォォ!」


 六本腕の赤い肌をした筋肉隆々の巨人は、俺の放った黒蟲をクレイモアの一閃で薙ぎ払った。……チッ。これでもダメか。

 巨人の六本腕の内、右腕の一番下がクレイモアを所持している。二番目はファルシオン、三番目は戦斧だ。どれも巨人用に巨大化している。右腕の一番下はバスタードソード、二番目はグラディウス、三番目はハルバードだ。まさか武器をこんなに持っているモンスターが居るとは驚きだ。防具は腰巻きだけだが、死角のない攻撃範囲はかなり脅威だろう。それに一撃一撃が黒蟲を薙ぎ払う程の威力を持っている。


「……喰らえ、黒蟲」


 俺は再びぎちぎち、と黒い小さな蟲を大量に放つ。


「……呪え、黒蛇」


 更に俺は身体から黒い蛇を大量に溢れ出させる。勿論こいつらも目だけは赤い。


「……薙げ、黒蟻」


 続いて身体から小さな黒い蟻を大量に溢れ出させる。


 俺は次々に黒いが目だけは赤いヤツを出現させていく。


「……俺の固有スキル三つ目、種族に関係するスキル『黒皇帝(こくこうてい)』。黒いモノを自在に作り出すことが出来るスキルだ」


 俺は誰に話すでもなく呟き、黒いモノ達の進撃を見据える。


 三面六臂と言う訳ではないが、六本腕があり武器を六つ持っているためそれらを薙ぎ払い潰すのは造作もないことだ。


「……」


 面倒だな。自身の百倍もの体重のヤツを持ち上げる筋力を持つ蟻。それを十倍の力で放ったのが黒蟻だが、それが多く集まっても一撃は防げても二撃目でやられる。


「……面倒だが、やるしかないか」


 俺は仕方なく呟いて、更に黒を溢れ出させる。

『蠱毒』で化け物が混じったから半分、ということです


本文中じゃなくてすみません


聞かれたので載せておきます


黒蟲の姿はハムシ亜科の昆虫が丁度いい感じです

想像しにくい人はネットで調べて下さい、すみません

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