レベリング
木の実を教室に居る全員で分け、一人十個ずつ食べていた。……相変わらず酸っぱい。
俺達よりも早く、他のヤツらは戻ってきていたため、レベルアップ報告をした際「それだけ?」と言う顔をされてしまった。
俺以外の八人は1だけレベルが上がった。俺はあまり貢献してなかったりレベル10と高かったりで1も上がっていない。スキルランクもだ。
……俺が独りでこの森を突破するのは簡単だが、どうすれば無用な捜索をさせずに俺だけで行動出来るか。死んだと思わせるのは簡単かもしれないが、レベル10の俺が死んだとなれば森の脱出を試みるのは見送りになってしまう。それでストレスが溜まり、赤シャツ達のように不相応な人物が上に立とうと支配欲を発揮させるヤツが出るのは面倒だ。
俺が独りで行きたいからと言えばそれで良いのかもしれないが、危険だ何だと止められる可能性もある。面倒だが、俺が独りで行動する正当性を得なければならないだろう。
「桐谷。お前達は探索時間、何をしていた?」
それを不自然に思ったんだろう。諫山先生が俺に対して尋ねてきた。
「……スキルランクを上げていました」
俺は簡潔に答える。言ってしまえば、俺達がやっていたのはそれだけだ。モンスター狩りは数体しかやってない。寧ろモンスターの狩りよりも木の実の収穫の方が成果は大きいぐらいだ。
「……そうか」
諫山先生はそれ以上聞かなかった。……この人のこう言う余計に首を突っ込まないところは好感が持てる。
「……明日からは二人組で行動する。モンスターは一体ずつ一撃で仕留めれば二日でレベル10まで上がるだろう」
俺は八人に向けて言う。……二日でレベル10ってのは、今レベルが一番低いレベル4の人基準だ。一番レベルの高い美夜のレベル6ではそれ以上いけるかもしれない。
「桐谷、それは危険ではないか? まだレベルが低い」
「……問題ありません。スキルランクを上げて効果威力を上げ、スキルをしっかり理解すればこの辺りのモンスターは余裕ですから」
諫山先生がややキツい口調で言うのに対し、俺は平然と答えた。……スキルの理解とは、そのスキルをしっかりと理解し使いこなすことだと、俺は思う。
「……例えば諌山先生の『時光女神』ですが、時を操る方が使い勝手が良いと思ってませんか?」
イマイチ理解してないような諫山先生に、嘆息混じりに聞いた。
「時を操る方が使い勝手が良いだろう?」
諫山先生は何を勘違いしているのか、当然だとばかりに聞き返してくる。……はぁ。これだから優秀だが頭の固い人は。と言うか色々ステータスなどのゲーム知識が豊富な癖に、「光を操作する」と言う条件で様々な使い方が思い浮かばないのも変な話だ。
もしかしたらにわか知識で説明していたのかもしれない。早熟と晩成ぐらいはスマホカードゲームをやったことのあるヤツなら大体分かるだろうからな。ドップリとハマり込んだヤツならもっと詳細な情報を言ったかもしれない。
「……いいえ、違います。時を操るのに出来るのは、 巻き戻し、早送り、スロー、制止、先送りだけです。勿論そこから応用出来ることはいくつかあります。ポケ○ンの未来予知って攻撃知ってますか?」
「うん? ああ、あの数ターン後に相手にダメージを与えるって言う技だろう?」
……知ってるのか。やっぱりゲームはやる人なのだろう。
「……はい。それと同じことが、そのスキルでも出来ます。例えば光の球の発動を遅らせるとします。すると、何もしなくても遅らせた時間に攻撃することが出来ます。まあそうやってやらなくても、拳で虚空を殴り、その衝撃を先送りにして敵をそこに誘導すれば攻撃出来ますけど、時を操ることはやれることが限られてきます」
俺ははっきりと告げる。……姉達と今後関わるかは分からないが、それでももし元の世界に戻れるのだとしたら生きていた方が俺を養ってくれた両親が喜ぶ。そのためには先導する立場の諌山先生が勘違いしたままでは、都合が悪かった。
「でも光は違う。例えば俺の『紫電』には雷の他に磁力、電熱などがありますが、それは光にも言えることです。光が光として使われるのは当然のこと。ですが眩しくする、光線として放つ以外にも多くの使い方があるのは事実です」
俺は諌山先生に淡々と説明していく。……ゲームや色々なところで出てくる魔法だと細かい設定が曖昧だったりするからな。
「……例えば光によって熱が生まれます。剣を作り出す時、斬れるようにと考えるのではなく光によって発生する熱によって焼き切るイメージを持てばダメージが大きいのは明白です。他にも熱を上げて敵を溶かす光線と、ただ貫くレーザーとでは相手に与える痛みも違います」
「そうだな」
「……それに加え、光を使えば自分の姿を屈折により隠すことも可能です。それに鏡を使えば光線を反射して敵の死角から攻撃することも可能です。鏡じゃなくても窓や水面で反射する光もあります。光を一点に集めれば更なる熱を作ることも可能性です」
「なるほどな」
諫山先生は俺の説明を聞いて思い直したようだ。
「桐谷の言う通りだ。確かに見誤っていたようだ」
諫山先生はそう言って仄かに笑う。……それくらい当然だと思うんだが。
「……魔法ではあまりそう言う応用が利かないようですが、スキルは違います。スキルにおいて光や雷の効果を決めるのは、自分自身の想像ですから」
俺はそう言うと、さっさと自分の席に戻る。……さて、明日はどうするか。いや、明日じゃない。俺が独りで行動出来るように、反対されても捻じ伏せられる力を持っておくべきか。となると、動くのは皆が寝静まった夜中だな。諫山先生の意向で見張りに一人起きているようにしているが、最悪の場合もう一人起こして二人で喋っていれば良いと言うことだ。
精神的に疲労を伴う今の状況で起きていられるかは兎も角として。
「……」
俺は今まで使っていない三つ目のスキルを考えることにする。『紫電』を使ったのは雷の神よりも強いスキルでありながら、神にはならないと分かったからだ。種族に関係するスキルではないと思って使った。モンスターを殺してももう一つのスキルが発動するが、それはどうやら種族に関係するスキルではないようだった。となると、もう一つのスキルが種族に関係することになる。二つ目のスキルが種族に関係してくるモノでなかったのは助かったが、三つ目が種族に関係しているとなると、迂闊に使うのは避けたい。
だが三つ目のスキルはかなり強い。『紫電』とは違い雷と言うイメージにさえ捉われない最強のスキルとも言える。
木の実は焼いても美味しくなると言う訳ではないと言うことが実験の結果分かっているため生のまま少し洗って食べるのが良い。酸っぱいのは変わらないため食べるのはオススメしないが。
……木の実はもう良い。最悪の場合、動物っぽいモンスターを焼いて食べるしかないだろう。
「今日はもう休もう。また明日もレベル上げが待っている」
諫山先生が言い、教室の電気を消す。……もう消灯の時間か。まあ時計が通じない分いつでも睡眠時間だからな。疲れたら眠る。そんな感じになってしまうのは仕方がないだろう。
「……」
俺は電気が消されて他のヤツらが寝静まるまで、机に突っ伏しながら起きていた。
「……おい」
教室が静かになって皆が寝静まった後(何故見張りの筈が寝ているのかは知らないがきっと疲れていたんだろう)、赤シャツ達が御宮に話しかけていた。……何だ?
「……何か用か? 俺はもう終わりなんだ」
余程ショックを受けていたらしい御宮は絶望した青白い顔で赤シャツに聞く。
「情けねえ面しやがって。おいてめえ、てめえがそんな状況に追い込まれたのはどいつのせいだ?」
「……桐谷、灰人……」
赤シャツが聞くと、御宮は俺の名前を出しやがった。……何で俺のことになると生きた声音になるんだか。自業自得だろうに。
「そうだ。あの野郎がてめえと俺達を陥れた張本人だ」
「だが」
「ああ。今の俺達じゃああの野郎に勝てねえ。ならどうするか? レベル上げをするんだよ。レベルを上げればあの野郎に勝てる。だが他のヤツの前でレベル上げに勤しんでたら何を企んでんだって疑われる。なら夜中に動くしかねえだろ。俺達のスキルランクはあの野郎をやったおかげで上がってる。モンスター相手に遅れは取らねえよ」
「そうか、そうだな」
……おいおい。御宮さんよ、お前自分に優しいヤツに弱すぎだろ。赤シャツの言葉に説得されやすくてダメだ。精神弱いヤツに生きる資格なんてねえよ。弱さを乗り越えられるヤツに生きる資格ってのは生まれるんだ。
「だろ? じゃあ行くぜ」
赤シャツ達四人の不良と御宮。計五人のスキルランク高いからレベル上げがしやすい最強パーティが、今ここに誕生した。……チッ。面倒なことになりそうだな。
「……ったく」
俺はチラリと僅かに顔を上げて五人の様子を確認していたので、五人が完全に教室を出ていった後、起き上がって呟く。……面倒なことになった後、俺はどさくさに紛れて逃げるとしても、あいつらの狙いは俺。あいつらを倒せるレベルまで上がっていないといけない。
おそらくあいつらは教室基準でレベル上げをどこまですれば良いか、を考えるだろう。となれば俺はそれを遥かに超えたレベルまで上げれば良い。
五人は上手く戻ってくるために教室のドアを少し開けて出ていった。……俺もドアを少し開けたまま出ていく。五人が出ていったドアと同じにし、バレないようにするためだ。
「……さて。俺もレベル上げといこうか」
俺は呟き、五人が居る方向とは逆に向かって歩き出す。……『獣の本能』の嗅覚からは逃れられないだろうが、嗅覚を上げすぎると戦いに集中出来ない。きっと使われないだろうな。
俺はそう推測し、モンスターを狩るために歩き出した。……今日はかなり先に進もう。その方が強いモンスターが居る。