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カイトのやり方

「フンッ!」


「……ふむ」


 俺達探索隊三班は廊下側から真っ直ぐ行っていたが、最初に出会ったモンスターは三メートル程の巨体の二足歩行をする体格が良く筋肉隆々の猪だった。オークとやらだろう。


「……まあ残酷なことをするようで悪いが、俺が麻痺させるから一番弱いスキルでずっと攻撃し続ければ良い。で、敵に回復をかける。俺が居る限り攻撃されることはないからな」


「……そうやってスキルランクを上げるのね。でもそれだけじゃ強くなったとは言えないんでしょ?」


 あなたがそれを証明したんだじゃない、と俺の言葉に対して少し考え込むようにした美夜が言う。


「……ああ。だがスキルランクが高くなることで更なる技や効果や威力の増加が起こる。そのためスキルランクを上げてモンスターを一撃で倒せるようになってから一人でモンスターを狩った方が効率が良い」


「確かにそうだけど、それじゃあ何かあった時危険じゃない?」


「……常に危険と隣合わせなんだから、そんなこと気にしなくて良い。それにいざとなったら俺が『紫電』で身体強化して一秒で駆け付ける」


 何かと煩い美夜に言う。


「……それなら良いけど」


 美夜は渋々納得してくれた。因みに今はオークみたいなモンスターと対峙している最中である。


「ブゴオオォォォ!」


 そいつが手に持った槍を突き出して攻撃してくる。……ウザいな。

 俺は何の動作もなく『紫電』の落雷を使ってモンスターを麻痺させる。


「……因みに手加減の方法だが、心を込めずに魔法を唱えることだろうか。力抜いて適当にやると威力が弱まると思う」


 『紫電』によって麻痺し動けなくなったそいつに対し、八人は弱く弱くを心掛けて地道に攻撃を重ねていく。


「……飽きたから次行こう」


 俺は一時間ぐらい一方的な攻撃をさせた後飽きたので『紫電』一発落雷させて始末する。


「スキルランクが上がってるわ」


 美夜がカードを確認して言った。……そりゃそうだ。段々やっていく毎に手加減が上手くなっていくからヒール一発でかなり回復出来る。回復が出来る女子が一人居るのでその女子には遠慮なく回復してもらえば続く。麻痺が切れても俺が直ぐに再び麻痺させるので安全だし、もしモンスターが寄ってきても俺が対処出来るから問題ない。


「……この調子なら、あと三回ぐらいすれば全員一人でモンスターを倒せるようになるだろうな。まあもう倒せるヤツも居るから二人ずつに分けても良いんだが、もう少し様子を見るか」


 俺は言って、次の獲物を探すため九人で歩き出す。


「……『浮遊』か」


「は、はい。あんまり重いモノは動かせないのであんまり役に立たないかな?」


 俺がその間に呟くと、そのスキルを持つ女子が慌てたように聞いてきた。


「……そんなことはないだろう。木の枝を折って飛ばして突き刺せばダメージになるし。まあでも武器が必要になるな」


「……そっか」


 俺が言うと女子がシュン、と肩を落としてしまった。……これからその武器を作ってやろうとしてるのに。


「……ちょっと待ってろ」


 俺は言い、『紫電』の磁力で砂鉄を集める。スキルランクが上がっていて一気に集められるので、直ぐに電熱を使って融かす。磁力と電熱を上手く使いながらナイフ程度の刃物をいくつも形成していく。


「……凄い」


 他八人が感心するが、そんなに凄いことじゃない。


「……大したことじゃない。良い武器は作れないからな。それに脆いから一発しか使えない」


 俺は言って、『浮遊』が使える女子に全て渡す。


「えっと、どうしたら……?」


「……慣れない内はポケットに入れておいて、数本手に持っていれば良い。それと慣れない内は投げてから『浮遊』で補助すると良いかもしれないな。慣れれば手から放すだけで『浮遊』させ自由自在に飛ばせると思うが」


 俺は戸惑う女子に主な用途を教えてやる。


 ……『浮遊』とは、念力のようなスキルだ。対象を浮遊させることが出来る。勢いよく飛ばすことも出来るが、スキルレベルが低いと重いモノは無理。ステータスの筋力も加算される。因みに回復と『浮遊』のスキルを持ってる女子が同一人物。


「あ、ありがと」


 女子は礼を言って鉄ナイフをポケットにしまう。……ポケットを貫けたりしないかな。

 俺は少し不安になったので再び砂鉄を集めて融かし、ナイフの鞘を作る。


「これは?」


「……鞘だな。ポケットに穴が開くと面倒だろうし」


 俺はそれらナイフと同じ数の鞘をまとめて渡す。女子はいそいそとそれらに半透明なオーラを纏わせて『浮遊』させると、ナイフを収めていく。……便利なスキルだとは思うんだがな。


「ありがと」


 女子が微笑んで礼を言う。だから大したことした訳じゃない。今のだって俺が渡したナイフで怪我したとかは、無駄ないざこざを生むから作成しただけで。面倒なことはなるべく避けたいし。


「私には何かない訳?」


「……『暗黒女神』があれば武器作成ぐらい出来るだろ」


「それもそうね」


 ムッとしたような美夜に対し素っ気なく答えると、直ぐに論破される。……何だよ。やけに突っかかってくるな。まあ良いけど。


 それから俺達は四度の長い戦闘を経て、全員が一人でモンスターを瞬殺出来るまでになった。一人ずつ試したので問題ない。


 その間飽きていた俺は木の実採りに勤しんでいた。大量だ。


「……廊下側は前方に山左側に山、右側に何もなしか」


 俺は木の上に立って独り呟く。もう俺がこの班を指揮する必要はないだろう。油断しなければ問題なさそうだ。


「灰人、ちょっと良い?」


 周辺を警戒しつつ、木の実の収穫に勤しんでいた俺達だが、木の下から美夜が話しかけてきた。何やら話があるらしい。俺は仕方なく木から飛び下りる。


「……どうした?」


「来て」


 俺が聞いても美夜は答えず俺の袖を引っ張って他の七人が居る場所から少し離れる。……何だろうか。人に聞かれるとマズいこととか?


「……何だ?」


 俺はしばらく行って放してくれたので、聞く。すると美夜はいきなり、


「……っ」


 俺に抱き着いてきた。……は?


「……やっと灰人をギュッて出来た……」


 美夜は少し感慨に浸るような、嬉しそうな声音で言う。……いくら血の繋がった姉とは言え、抱き着かれるのは色々とマズい。いくら心が死んでいても三大欲求である性欲は消えないのだ。身内贔屓(びいき)抜きで言って、美夜含む四人は魅力的すぎる。意識させられる状況になれば尚更マズい。

 ……性格などの感情的部分で相手を判断しないが故に、身体的な魅力は俺にとって重要な要素となり得る。


「……美夜姉……?」


 俺は流石に実の姉にそんな欲求を発動させる訳にはいかないので、そんな性的な動揺が口に出ないようにしながら聞く。


「……灰人。私ずっと我慢してたのよ? 幼い頃からずっと」


 美夜は俺を潤んだ艶やかな瞳で見上げてくる。……近いし可愛い。


「……何を?」


「灰人をギュッてするのを、よ。だって私が一番上のお姉ちゃんなんだから、ちゃんとしなきゃって思ってたのに、他三人が灰人をギュッてするから」


 ……俺はそんなに抱き心地の良いぬいぐるみみたいだったんだろうか。


「それで我慢してたから、今日やっと二人きりになれてギュッて出来て嬉しい」


 美夜は心底嬉しそうだ。……嘘で闇討ちされることはなさそうだ。


「気付かなかった?」


 そして聞いてくる。……当たり前だろう。


「……だって美夜姉が一番俺のことどうでも良さそうにしてたし」


「どうでも良い訳ない!」


 美夜は俺の言葉を否定しギュウ、と抱き締める力を強める。


「……悪い」


「ううん。私が冷たい態度を取ったからいけないのよね。これからはいっぱいギュッてさせてもらうから」


「……」


 出来れば遠慮したかったが、遠慮出来る雰囲気ではなかったので仕方なく頷く。どうせもう直ぐ別れる。

 だが姉達や書記の白咲雪音が何やら画策していたのは、知っている。それはそうだろう。中学に入ってみたら生徒会の中心となってイジメ撲滅を掲げていたのだから。あの時は素直に嬉しかったと思う。感情が薄れ始めていて、あまり確かなことは言えないが。

 結果として何も変化しなかったものの、イジメを黙認していた最初の担任が退職したのも、姉が関わっていることは知っていた。偶然だったが見ていたからな。

 結局何も変わらなかったが、何もしないだけの傍観者とは違った。

 俺が突き放したりしなければ、支えになったかもしれない。……まあ、今となってはどうでも良い。過去を悔やんだところで過去には戻れない。大体、そうなったかもと言うだけで俺は悔やむなどと言う感情を表すことさえない。


「……」


 その後しばらくして美夜が離れてくれたので、俺は更に木の実を収穫しつつ、今日は一旦お開きとした。道中両腕が塞がった状態ではあったが、遭遇したモンスターを狩っていく。『紫電』があれば余裕だった。と言うか素手でモンスターに挑む者などそうそういなかったため、特に問題はない。


 真っ直ぐ歩いていたので元来た道を引き返し、教室へと戻っていった。

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