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ものを書くのがこんなに難しいとは…
決して、忘れてたわけじゃありませんよ(震え声)
ここは、VRMMOを開発した会社の所有するホテル。
その一室に、一組の少年少女がいた。
ベッドに座り頭を抱える俺と、その隣に仁王立ちする奏。
「ゆーくん、もう時間だよ?」
奏が少々呆れたように言いながら俺の顔を覗き込んだ。
そう。バス内で説明を受け、俺たちが案内された部屋はツインの一部屋。男女を一部屋に入れるのはどうなのだろうか…
閑話休題
「あ、あぁ。そう…だな。すまない。」
俺のその言葉を聞いた奏は、ヘルメットに似たVR用のハードをかぶって、隣のベッドに入った。
「早く来てよ。いっっぱい楽しむんだから。」
そう言うと、ハードの電源を入れて…どうやらゲーム内に入ったようだ。
早く入らないとまた呆れられそうだ。
俺は奏でと同じように、ゲーム内に入ったのだった。
◼︎
VRとは、ヴァーチャルリアリティーの略であり、おそらくほぼ全てのゲーマーにとっての夢である。
今日、バイザー型のVR機器は発売されている。
しかし、完全没入型のものは全くなかった。ーこのゲームが発表されるまでは。
”Another World”
その初の完全没入型VRゲームのβテストは、募集人数500に対し応募人数は一万以上。
ペアとソロの二種があるようだ。ペアに奏が応募。
俺達はテスト会場であるホテルに来ているのだった。
◼︎
目を開けると、そこは空と空を写し出す鏡の大地に挟まれた無限に広がる空間だった。
一人、女性がぽつんと立っている。どうやら彼女に案内してもらうようだ。
女性が言葉を発し始めた。
ー汝、変革を促すもの。
ー汝、これより生まれ落ちるもの。
ー汝が名と姿を求め、示し、定めよ。
…つまり、名前とアバターを作れってことだろうか?
などと思っていると、目の前にウィンドウが表示される。
ーーーーーーーーー
名前:未設定
種族:人族▼
アバター▼
・
・
・
ーーーーーーーーー
どうやらアバターはかなり詳しく設定できるらしい。
特にやりたいネタとかもないので、ーーーーーーーーー
名前:ユウ
種族:人族
アバター▼
変更点:髪 黒→白
目 黒→白
ーーーーーーーーー
だけ変更し、ウィンドウを閉じた。
ー汝の姿は定められた。
ー汝の可能性は無限です。
ーあなたの願いは叶うでしょう。
ーあなたの道行きに幸多からんことを。
その声を聞いてなぜか、自分の頬に涙が流れた気がした。
◼︎
気づくと、広場にある噴水の近くにいた。
少し大きな公園ぐらいの広場だ。また、その周りには石やレンガ造りの家々が並んでいた。
周りを見渡してふと思う。
何処かで見たことが有る、と。
既視感ではなく、記憶の中の確かな1ページ。
ー絶対に思い出さなければならない。
どうしてそう思ったのだろうか?
ーあなたの願いは叶うでしょう。
ふと、ここに来る前の一言が思い出された。
もちろん、海外に行ったことなどなく、俺が知っている街並みは、現代日本と…
「あぁ」
そうだ、俺の元いた世界、故郷の近くの街。あそこはこんな街並みではなかったか?
「うん」
そうだ。
蘇ってきた記憶が、同じものだと叫ぶ。
何の偶然か、全く同じ世界が作り出されたのか。
もしかしたら、故郷の跡地までもが再現されているかもしれない。
そうだ。
そうだ。
そうだ。
今が何年なのかはわからない。
だが、俺にとってはするべきことに思えた。
そして、走り出す。
視界ないに表示されたタブの内容を確認することもせず、Yesを押し、ただひたすらに。