エンドロールの始まり
世界は二大大陸。81カ国。人々は、国家の為に命を賭し戦った。49年前、6回目の世界大戦終結の時に、ある国家元首が言った。
「もう止めにしないか」
世界の人々はその時始めて、平和を知った。それまで戦うことしか知らなかった人々は、鍬を持ち、網を持ち、土に埋れ、海に沈み、生きた。平和の素晴らしさを知った。
いつしか人々は、戦うことを忘れ、当たり前の平和を信じた。
しかし-
轟音、閃光、豪炎。
仮初めの平和を信じた人々の夢は、たった一発の銃弾によって、打ち砕かれた。そして、人々は知った。この平和は、この戦いのために、造られたのだと。
戦いを忘れた国々は、戦いを狙っていた国に次々と呑み込まれていった。決して、誰かが言ったわけで無い。しかし、人々は、この平和が永遠であると信じて疑わなかった。今の永続-を信じて疑わなかった。
やはり、あり得ないのだ、と人々は知った。今という一瞬は、永遠の継続を望まないのだと。
僅か3ヶ月という期間で、多くの国が滅びた。圧倒的軍事力の前にどの国も絶望し白旗を揚げるよりどうしようもなかった。
そもそも、軍というものが堕落しており、軍事技術もとうの昔に忘れてしまった国々は、戦う術さえも失っていた。
欲にまみれた人間は、恐怖に震える人間を殺した。なんの、躊躇いもなく。
それは、小さな国の、小さな人の、小さなユメの話。
とうとう、ガロウの足音が近づいてきた。
と、新聞に書いてあった。
俺は、とうとう来たか、と、思った。
でも、街の人々は信じてない。自分の殻に閉じこもってしまった。
たくさんの人の血を吸い続けた大国、ガロウ。
農業国家で争いごとの嫌いな小国、ルーナ。
マトモに戦って勝てる相手じゃない。でも、搦め手を使う程知恵もない。普通に考えれば、勝機なんて巡って来ないだろう。じゃあ、黙って踏み潰されろと。そんなのは御免だ。
ルーナは人口300万人程度の小国だ。他に誇れるものといえば、良質な農産物と、鉱山資源、堅牢な軍用馬、そして、人々の気概。
攻め込んでくるガロウは、人口2100万人程の超大国。軍事技術は、他国を凌駕していて、軍事規模はルーナの15倍以上ともいわれた。その要因の大部分を占めるのは、『自律兵器』。人が操ることなく、敵を殲滅する悪魔の権化。聞けば、パルスなる動力で動いているらしい。想像の及ばない世界のように感じる。
ルーナに退路はない。人は、生きている以上、生きたいと願ってしまうから。国を踏みにじられ、皆殺しにはさせない。そのための、軍だ。
ルーナ軍は、義勇兵によって、かつてない規模にまで、膨れ上がっていた。向こうの大陸から輸入した技術で、兵器を作ることができるようになった。軍令部は、義勇兵と正規兵を編成し直し、28の大隊、19の特殊部隊を作り上げた。10万頭の馬が徴収され、全員に歩兵銃が支給された。
ルーナは徐々に避けられない戦いに引きずられて行く。
全国各地に防衛拠点が敷設され、それぞれに部隊が配属された。それに伴い、軍事工場の数も累乗的に増え、軍備が進んでいく。その流れの中で、国民の中には、勝機は有るという思いが広がっていた。
宣戦布告まで、まだ3ヶ月あると軍令部は予測して、それに沿った軍備計画を立てた。しかしながら、ここまで3ヶ月で進んできたガロウがそれほどまで、待っているという予想は、今となれば甘いと言わざるを得ない。しかし、皮肉なことに、この計画は順調に進んでしまう。躓いて、計画の見直しをするタイミングが巡ってこなかった。
徐々に、ルーナ国内は戦争一色に染まり始めた。軍事従事者が増加する中で、軍令部は、農家と鉱山主は保護した。国家を支える、生命線だからだ。着々と進む準備の中で、反発する者はいなかった。