習うより慣れろ?
アリスが店長の名前を呼びながら奥へと入っていくと同時に、雲竜も入店する。
『魔理沙』という名前を呼びながら店の奥へ奥へと入っていくアリスを余所目に、雲竜は店内を少し見物する。
怪しげなキノコが山積みされていたり、手袋や靴下などの雑貨が散乱としていたり、巨大なキノコが置いてあったり、更には壁板の隙間からキノコが生えていたりと店内は混沌たる状態である。
値段は時価なのか、値札が貼られていない。
ここで雲竜は自分が何かを踏んでいたことに気付く。
手にとってみると、それは手触りの良い灰色の襟巻であるということが分かる。
「…なんだコレ、マフラー?」
「それは『マジックアイテム』だぜ」
雲竜の呟きに店の奥から答えが返ってくる。
雲竜が声のした方向を見やると、人影が二つ。
一人はアリス。もう一人はアリスと同じ美しい金髪を持つ少女。恐らくアリスが『魔理沙』と呼んでいた人物であろう。
そして魔理沙であろう少女もまた如何にも童話に出てくる魔女の様な格好をしていて、黒を基調としたその服装は、美しい金髪を強調させている。
少し魔理沙の方がアリスより髪が長いか。
アンタがこの店の主人か、と尋ねると、如何にも魔女らしい三角帽を人差し指でクイッと上にあげ、彼女は自己紹介する。
「そうだ。私が霧雨魔法店の店長、『霧雨魔理沙』。普通の魔法使いだぜ。よろしく」
「普通……?」
「どうした?」
「あぁいや、なんでも」
雲竜には何が普通の魔法使いで、何が普通でない魔法使いなのかはよく分からなかった。
雲竜は襟巻に付いている埃を払いながら質問する。
「マジックアイテムってのは?」
「マジックアイテムはマジックなアイテムなんだぜ」
「…?」
「マジックアイテムというのは魔法と関連性のある道具のことよ。魔力を込めると何かが起こるモノ、持っているだけで所有者に魔法が掛かるモノ…色々あるわ」
「成る程」
魔理沙の訳の分からない説明にアリスが横から補足を加える。
尤も、今の場合補足というよりはアリスが全てを説明したように見えるのだが。
雲竜はこの大雑把な魔女から魔力の扱い方を聞くことに一抹の不安を感じながらも、自己紹介をする。
「俺の名は雲竜。元外来人で、今はアリスの使い魔をやってる。よろしくな」
魔理沙は雲竜が差し出した手を取り握手を交わした後、ところで、何しに来たんだぜ?と首を傾げる。
アリスから言の経緯を説明された彼女は、魔力の扱い方を教育することを快く了承し、自信満々の教え顔になって店の外へ出て行く。
その後ろを不安そうについて行く男が一人。苦笑してついて行く女が一人。
「よし、じゃあ始めるぜ」
魔理沙はそう言って雲竜の前に立つ。
アリスは二人から少し離れた所に座り込む。
外はもう夕暮方になっていて、濃いオレンジ色の光が三人の肌を照らす。
輝くような橙の木漏れ日が、どこか幻想的で…
ーーキィ…ィン……
「…ん?」
少し景色に見とれていたが、聞きなれぬ高音の音源に目を向けると、魔理沙が此方に四角い箱のような物を向けていることに気付いた。
良く見ると、箱の中身が光っているようにも見える。
その光はどんどん大きくなって…
嫌な予感しかしない。
「お、おい…?」
「習うより慣れろ。取り敢えず魔力を直接身体に浴びれば何かが分かるかもだぜ!」
「いや、多分習うより慣れろってそういう意味じゃ…」
「恋符『マスタースパーク』!」
「!?」
四角い箱から放たれる光線。
『あの時』妖怪から受けた光線と同じようなものを想像した雲竜は咄嗟に回避行動を取る。
が、次の瞬間。その小さな回避は全くの無駄であったと痛感することとなった。
辺り一面を覆い隠す程の巨大な極太レーザー『マスタースパーク』。
それは木々を飲み込み、森を飲み込み、雲竜を飲み込んでーーーーーー
ノロイノカクセイ。