なんかします
「……『人形火葬』!」
色とりどりの弾幕をとてもじゃないが人間とは思えない身のこなしで避けながら接近してくる雲竜に、アリスは人形を投げつける。
それは投擲武器として弾幕よりも比較的緩やかなスピードでカーブを描いて雲竜目掛け飛んでいく。
が、弾幕にすら当たらない雲竜には簡単に避けられてしまう。
しかし、その人形が雲竜の足元の地面に触れた時、人形が一瞬輝いてーーー
「はい、これで私の37勝目~」
巨大な爆発によって土煙が舞う中、アリスは余裕をもった表情でそう言った。
『人形火葬』は中に爆薬が仕込まれた人形を投げつける技である。
土煙が徐々に薄れ
「また負けた…」
その中から悔しそうな顔をした雲竜が姿を現す。
そして再戦を望むかのようにアリスの正面で戦闘の構えをとる。
だが、アリスはそれを抑止するように手の平を前に出して雲竜を制した。
「もうお昼よ」
「まだ俺が勝っていない」
「意外に負けず嫌いなのね、貴方…でも、これ以上戦っても結果は変わらないわ」
何故分かる?と問いかける雲竜に、アリスは家に向かいながら律儀に答える。
雲竜は仕方なく構えを解きアリスを追いかけながら話を聞く。
「勝てないのは当然よ。貴方は魔力を『使えていない』」
「使えていない…魔力は身につけても使わなければ魔力を持っていないのと同じ、という訳か」
「まぁそういうことね。午後は貴方に魔力の使い方を教える…といっても教えるのは私じゃないわ。私は生まれた時から魔力を持っていて、別に意識せずとも使えるからね」
「へぇ…」
「貴方には、『魔力を持った人間』と会ってもらうわ」
「魔力を持った人間?人間は免疫が如何の斯うの言って持てないんじゃあなかったか?」
「基本わね。でも、魔力が漂ってる魔法の森で長時間過ごしてたりとか、小さい頃から魔力、魔法と触れ合っていれば長い時間をかけて自然に免疫が付いたりすることもあるそうよ」
私はその辺は詳しくないんだけどね、とアリスは補足し家の中に入っていく。
雲竜はそれに続く。
キッチンで食器やアリスが作った料理が、人形によって雲竜の居るダイニングルームへと運ばれてくる。
この人形、アリスが戦闘に使う物と同じなのだが、人形自体は意思を持っておらず、何十体といる人形、全てアリスが魔力を込めた極細の糸で操っているというのだから驚きである。
自我を持つ人形も作ることが出来るが、アリスが一定のペースで魔力を送らなければならないので、大量生産はしていないらしい。
雲竜は眼前にいる意思を持つ人形、『上海人形』と指で戯れながら料理が全て運ばれてくるのを待つ。
やがて全ての料理が出揃ったのか、アリスがキッチンから顔を出す。
料理は綺麗に盛り付けされていて、アリスの器用さが伺える。
「あら、上海のこと気に入った?」
「あぁ。可愛いモンだな、人形って」
雲竜が人差し指で上海人形を軽く小突くと、上海は怒ったように雲竜の人差し指をペチペチと叩いてくる。
「人形は喋って意思表示することが出来ないから、行動が分かりやすくて面白いのよ」
「成る程な…」
「良かったら、貴方の人形も作る?」
「いいのか?」
「えぇ。また今度ね…ご飯、食べましょう?頂きます」
「旨そうだ」
ーーーーーーーーーーーーーーー
アリスは魔法の森の中を確信を持った足取りで進んでいく。
だが、後ろから着いていっている雲竜には辺りの道や木が全て同じにしか見えない。
二人はどんどん奥へ進んでいく。
「(一人になったら絶対に迷う…)」
「着いたわ」
「ここは…?」
アリスと雲竜は、森の中にひっそりと佇む一軒の家の前に到着した。
家の前には大きな看板が掲げられており、その看板には雑な文字で『霧雨魔法店』と書かれている。
そしてその大きな文字の下に後から付け足されたように小さな文字で『なんかします』というなんとも間の抜けた広告が書かれているが…
「……店なのか?」
「そうよ。ここは霧雨魔法店。基本的には何でも屋で、妖怪退治から水道工事までやってくれるけど、正直言ってココに依頼するのはお勧めしないわ」
どうやら店の評判はあまりよろしくないようだ。
それに加えて人気の無く迷いやすい森の中に立地しているところから見ても、本当に商売しているのか怪しいレベルである。
「魔理沙ー、居るー?」
アリスは恐らくこの店の主人であろう人の名前を呼びながら、店の中へと入っていった。