弾幕ごっこ
御飯を食べ終わった雲竜は、アリスに連れられ、家の外に出る。
アリス宅は森(アリスやその仲間は『魔法の森』と呼んでいるようだ)の中にあるが、家の周辺の木は苅られていて、少し開けた場所となっている。
雲竜はここで初めてアリス宅の外観を眺める。
少し大きな西洋風の造り。
昔同居人でも居たのだろうかと思う程一人で住むには不釣合いな大きさだ。
最近建築されたのか、まだ新しい。
雲竜を外に連れ出したアリスは、雲竜と対峙するように立ち
「さて、先ずは『弾幕ごっこ』を覚えて貰いましょう」
「ごっこ?物騒な遊戯だな」
「まぁ、遊びというか、幻想郷での闘いのルールのようなものよ」
「ルール?」
「えぇ。幻想郷の力関係は至ってシンプル。『弾幕ごっこ』で勝った方が上、負けた方が下」
「へぇ…で、そのルールというのは?」
「相手を殺してはいけない。不可避の攻撃を繰り出すことは出来ない。基本的にはその二つよ」
「微温いな」
「飽く迄『ごっこ』だからね…他の細かいルールは、勝負前に対戦する両者が話しあって決めることになるわ」
「細かいルール?」
「勝利条件、攻撃の制限や報酬等ね。勝利条件に関しては事前に決められなかった場合、戦闘不能になるか降参すれば負けになるわ」
「ふむ…」
「まぁ、習うより慣れろって言うし取り敢えず私と弾幕ごっこしましょう」
「えっ」
「ルールは一度でも被弾したら負け」
「えっえっ」
「模擬戦だし、報酬は無しね」
「ちょ、待…「いくわよ!」
困惑している雲竜に構わずアリスは魔力で構成された光の弾ーーー『弾幕』を放射する。
赤や緑といった色とりどりの弾幕が雲竜を襲う!
「やるしかないのか…!」
感覚。
雲竜は弾幕一つ一つの動きを見て予測し、次々避けていく。
避け続けるだけでは埒が明かないと思った雲竜は、前に突っ切りながら弾幕の雨を掻い潜っていく。
一度でも当たれば負けーーーだが雲竜は怖気付くことなく遂にその弾幕を切り抜けた!
そしてそのままアリスの目の前まで距離を詰める。
アリスはそれに呼応するように右拳を前に出す。
が、弾幕の壁を無傷で擦り抜けた雲竜には右ストレートなど止まって見えたと言っても過言ではない。
雲竜は屈んで拳を避け、そのままカウンターをーーーーーー
「っ!?」
「私の勝ちね」
突如、小さな槍が雲竜の腹を後ろから貫いた!
アリスが自身の勝利を表明すると共に槍も引き抜かれる。
雲竜が振り返ると、そこには槍を持った小さな人形が浮かんでいた。
「(魔法で人形を動かしたのか?道理で殺気が感じられなかった筈だ)」
「…ねぇ、何か気づいたことない?」
「え?」
「『槍で刺されたのに傷一つない』」
「え、あっ……」
アリスが雲竜の腹を指差して指摘して初めて雲竜はその異変に気が付いた。
確かに、下を向けば槍先が見える程に豪快に貫かれた。痛みだって感じた。
だが、槍手も付いていなければ血も出ていない。オマケに服も破れていない。
「これが弾幕ごっこの凄いところよ。真剣勝負じゃない、只の『ごっこ』で手足を斬られるなんて冗談じゃないでしょ?」
「確かにな」
「死なないし五体満足で済むし痛みもかなり軽減される。戦闘を遊びにしたのが弾幕ごっこなのよ」
「…弾幕ごっこについては理解したが…どうして傷も付かないし痛みも軽くなるんだ?」
「傷も付かないし痛みも軽くなるという弾幕ごっこのルールを貴方が認識したからよ」
「…『幻想郷に常識は通用しない』、か」
「ふふ、もう一戦、する?」