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東方愛怪異厄  作者: にゃぶや
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雲竜

完全に混乱してる青年の為に、アリスは少し間を置く。

彼は空になった紅茶のカップの中でスプーンをカチャカチャといわせながら考えるが、やはり全く分からない。

カチャカチャ。

その様子を見たアリスはタイミングを見計らい、空カップに紅茶を注ぎながら口を開く。


「…幻想郷は『認識』の世界なの」

「認識」

「そう。『現実が動かない』外の世界と違って、『認識によって現実が変わる』のが幻想郷よ」

「現実が認識で変わる?どういうことだ?」

「そうね、例えば…私が男装でもして、『私、アリスは男だ』と言い張って、私も含めた辺りの者が『アリスは男だ』と認識したとする。そうすると『本当に私は男になる』のよ」

「そんなことが…」

「出来るのよ。今回のもそれと同じ。『使い魔の契約は魔法使いを主人、魔物を従者として主従関係を結ぶもの』、と誰もが認識しているわ」

「…成る程。そこで俺を従者として使い魔の契約を結ぶことによって俺が魔物だと幻想郷に認識させ、『本当に』俺を魔物にしたのか」

「そういう事よ。魔物には魔力が宿る、と認識されている。後は簡単よ。魔力を持つ者にならどれだけ強い治癒魔法をかけても大丈夫だから」

「……にしても認識一つで種族まで変えてしまうなんて…」

「幻想郷に常識は?」

「通用しない。だったか?」


アリスの苦笑いに釣られて青年も笑みを零す。

無邪気な笑い。人間の笑いだ。

魔物が人間のように笑う。

それはまるで、無垢な悪魔のように。

青年がアリスによって再び汲まれた紅茶に手を付けると、アリスはやっと本題に入る。


「それで、貴方が自分の本名を喋っちゃいけない理由わけなんだけどねーーーーーー」











朝の日差しが森全体を照りつける。

夕方から深夜にかけての森に漂うどこか奇妙な雰囲気は消え去り、代わりに空空寂寂とした、けれども清々しい気配が朝の森には感じられる。

魔女の話によれば、夜は妖怪が活性化し、妖力が空中に多く漂うらしいので、それとも多少は関係しているのであろう。

そんな清々しい朝日の暖気はアリス宅にも届き、青年の肌に優しく触れる。


「……そうか、『幻想郷』か」


目を覚ました青年は数秒を要して状況を判断し、ベッドから身体を起こしながら昨晩のアリスとの会話を反芻する。


「『雲竜』…」







ーーーーーー







「自己紹介っていうのは、自分の事を相手に言い知らせることなの」

「…?」

「幻想郷風に言えば、『自己紹介は自分を相手に認識させる手段』の一つよ」

「あぁ」

「つまり、貴方が本名…『人であった時の名前』で自己紹介するということは、自分は魔物ではなく人だと主張することになるわ」

「……仮に、俺が人であった時の名前で名乗れば…どうなる」

「貴方が人だと認識され、使い魔の契約は破棄される。貴方も人間に戻るわ。だけど」

「だけど?」

「…だけど、貴方の体内の魔力は消えることはないから、人間に戻った貴方の身体は体内の強い魔力に耐えきれず、すぐに変死するでしょうね」




「…理解したよ。たった今。『認識の恐ろしさ』を」


不確実なモノ、不安定なモノに生を委ねている恐怖。

いつ、何がきっかけで契約が破棄されるのかも分からない。

『人間だと皆から認識されれば死んでしまう』恐ろしさ。


「貴方は私が決めた『使い魔名』で行動してもらうわ」

「魔物としての名前、か」

「良い?今日から貴方の名前は雲竜うんりゅうよ」

「………また凄まじいネーミングセンスだな」






ーーーーーー





「本名で名乗ったら死ぬ世界か…とんでもない場所だな」

「あら、そのとんでもない世界のルールで『死なずに済んだ』のは誰だったかしら?」

「…」


雲竜がベッドから半身だけ起こし、窓から外の景色を眺めボヤくと、丁度青年…『雲竜』が寝ていた部屋に入ってきたアリスが皮肉混じりの挨拶を飛ばす。

雲竜は眠り目を擦り、アリスの顔をチラッと見た後ベッドから足だけ降ろす。

アリスは部屋を見渡しながら


「どう?この部屋。急いで掃除したし、まだ埃っぽい?」

「いや、良く眠れたよ」

「そう。じゃあこれからはココが貴方の部屋ね」




「…『これから』?」

「幻想郷に行く宛があるの?」

「無い」

「なら此処に住めばいいじゃない」

「…だが…」

「使い魔が主人の傍にいるのは当然だわ。あまり自由に動かれて、変に契約を切られても『困る』し」

「…泊めてくれるのは有難いが、どうして赤の他人にここまでする?」


一瞬時が止まったかのように場が静まる。

だがそれは本当に、雲竜が気のせいだったかと思うほど本当に一瞬だけ静まっただけで、アリスはすぐ話し出す。


「…私は、あまり知らない場所で一人で生きていくことの辛さを知っているから…かしら」

「…」

「…朝御飯食べましょう、こっちよ」

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