歯車が回りだす日
これは、『呪い』の物語。
二重の呪い。
プラスとマイナスの呪い。
いや、何を持ってプラスとするか、マイナスとするかは彼次第なのだが。
彼にかけられた呪いとは、魔の呪いと鎖の呪い。
呪いを解くか利用するか…はたまた呪いに飲み込まれるか。
それは分からない。誰にも分からない。
これは選択ではないが…運命でもないのだ。
ーーーーーーー
ーーーーー
ーー
「ん………」
カーテンの隙間から程好い暖かさの日光が青年の肌を照りつける。
その心地良さと眩しさに、青年は目を覚ました。
見覚えのない天井、カーテンの色。
青年が不思議に思いつつも重い身体を起こすと、隣から声をかけられる。
「やっと起きた」
「……………ここは…」
「私の家よ」
青年が寝転んでいたベッドの横に小椅子を置き、そこに掛けている少女を青年は見る。
眩い金髪に少し派手なレッドカチューシャ。
整った顔立ちに青年が見たこともない服装は、かなり印象深い。
「お前は…?」
「私はアリス。アリス・マーガトロイド。倒れていた貴方を拾ってここに連れてきたの」
「倒れて……っ!そうだ、俺…!」
青年はアリスから視線を外し、自分の腹を触る。だがそこには『穴どころか傷一つさえなかった』。
まるで夢であったかのように外傷がない。
痛みも感じず、気分も悪くない。
混乱している青年を見て、アリスと名乗る少女が話を続ける。
「貴方の傷は私の『治癒魔法』で完治したわ」
「治癒………魔法…?」
「そう、私は魔法使いよ」
「(妖怪の次は魔法使いか…一体どうなっているんだ?)」
「ーーーーーーと、言う訳なんだ」
「成る程ね。だとすれば、私が駆けつけたのは貴方が気を失った直後ね」
一連の出来事を説明した青年に、アリスはあまり表情を変えずに納得した素振りを見せる。
そしてその後彼女は安心したように小さく笑う。
「兎も角、治癒が『間に合って』良かったわ。それでも一応、まだ動かない方がいいわね。えっとーーー」
「あぁ、自己紹介が遅れたな。俺の名前はk「あ、待って!」ーーー何だ?」
自分の名前を言おうとした青年に、アリスは『血相を変えて大声で』それを抑止する。
青年はキョトンとしながらも、名乗ることを留めた。
少しの沈黙。
それがあってから、アリスは忠告するように、ゆっくりと、口を動かす。
「…今…貴方が…自分の本名を名乗ったらーーーーーー『貴方は死ぬわ』」
「…え?何故?」
「理由は今から話すわ。とりあえず、今は本名を名乗らないで。今もこの先も、ずっとよ……わかった?」
「あ、あぁ…」
はっきりしない返答だが、一先ず了承の返答を得たアリスは少し安心し、ようやく落ち着きを取り戻す。
それから、ふぅっと肺の中の空気を全て出し切り、軽く呼吸をして、少椅子から立ち上がる。
「少し話が長くなるわ。『紅茶』…飲めるわよね?」
「…戴くよ」