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東方愛怪異厄  作者: にゃぶや
呪い
17/17

少しお腹が空いた。

雲竜は紅魔館にはもっと長居する予定だったのだが……

少し予定を変更することになった。

パチュリーが何を『企んで』いるのかが分からない以上、これ以上あそこに居座るのは危険だと雲竜は判断した。

人里へ向かいながら、彼は呟く。


「二つの情報を手に入れた……」


一つは、パチュリー・ノーレッジが雲竜に嘘をついているという事。

何故かは分からないが、彼女は雲竜に呪いに関することで嘘をついている。

というよりも、『隠し事』をしている?

だとすれば、何を隠しているのか……そして何故嘘をついているのか……そこまでは雲竜には分からない。

だが、嘘を吐いているのは明白であった。


「貴方のその呪いも種類が分からないから解呪することは出来ないわ」


この発言が雲竜に不信感を与えた。

先刻「呪われているかどうか知らない」といった彼女が、あたかも雲竜が呪われているかのように話したのだ。

だが、これは『雲竜が仮に呪われていた場合』の話なのかも知れない。

そこで彼は確認を取った。


「俺は呪われているのだろうか」

「分からない」


案の定彼女は分からないと答えた。

そして彼は時間を置いてから彼女の『意識』が『本』に集中した時を見計らって、聞いた。


「俺にかかった呪いはどんな種類のモノなんだろう?」


これは『雲竜が呪われている』という前提の話であり、本当に呪いに関することで分からないのなら、これの返事も「分からない」で返してくる筈だった。

だが、彼女は直ぐにボロを出した。

この質問に乗っかってきたのだ。

彼は何度か質問を繰り返し矛盾を見出すつもりだったが、こんなにも早く嘘を見破ることが出来るとは思ってもみなかった。

おそらく、それだけ読書に集中していたのだろう。

何故嘘をついているのかは分からないが、彼女はあまり信用出来ないことが分かった。


二つ目の情報は、雲竜が呪われているという事だ。

これもパチュリーとの会話で聞き出したことだ。

『雲竜が呪われている』前提の話で会話を進めることが出来た。

雲竜が呪われているというのも、やはり確定だろう。



この二つの情報は確証はなく、もしかすると誤りかも知れない。

全て雲竜の気の所為せいかも知れない。

そしてその可能性は十分に存在しているのだ。

では何故、彼は『自分は呪われていて、騙されている』という『真実』に勘付いたのか。

それは、それこそが彼にかけられた『呪い』の為に他ならないのだ……


「はぁ……」


彼は思わず陰鬱の溜息を吐く。

『事態』は一応には進展している。

だが……もう『アテ』がなかった。

アリスには知られたくない。

魔理沙は何故か居ない。

霊夢は詳しくない。

パチュリーは信用ならない。

残っているのは……妙に協力的だったあの女。

東風谷早苗。自称巫女。

彼女にはあまり会いたくはない、だからこその溜息であった。


『行くな』という本能と『行かなくてはならない』という理性が頭の中で葛藤している。

彼は悩みつつ、人里に戻ってくる。

仕方ないので取り敢えずはアリス宅に帰ろうかと考えた矢先に、道端で上白沢と出くわす。


「雲竜じゃないか」

「慧音」

「どうやら無事のようだな」

「なんとかな」

「ところで、昼はまだか?」

「え?」




寺子屋。

昼食の予定が無かった雲竜は、奇妙な縁で慧音と再開し、何故かそこで昼を呼ばれている。

アリスがよく作る手料理は基本的に洋食が多いのだが、慧音から出される料理は全て和食である。

雲竜が質素でありつつも美味しい昼食を味わっていると、おもむろに慧音が話を切り出す。


「午後は暇か?」

「ん?あぁ、まぁ」

「少し手伝って欲しいことがあるんだが」

「……その為の昼食か」


雲竜は苦笑する。

呪いは進行する。





昼休憩が終わり、時間通りに生徒達がそれぞれの席に着く。

それまで教室で騒いでいた生徒達がしっかり時間通りに着席するところを見ると、普段から慧音の教育が行き届いていることが分かる。

生徒は全員小さな子供で、小学校のとある1クラスのような光景を、雲竜は『正面から』眺める。


「今日だけ特別に授業をしてくれる『雲竜先生』だ。皆仲良くしてあげて欲しい」

「よ、よろしく(どうしてこんな事に…)」

「はいはーい!うんりゅーせんせーはけーねせんせーのカレシですかー?」

「馬鹿言うな。なんでこんなヒョロヒョロしたのと付き合わなければならないんだ」

「えっひどい」


雲竜の嘆きを慧音は無視して児童達に授業の準備を促す。

次の授業は体育だそうで、子供達がはしゃぎながら外に出て行く。

寺子屋の敷地内にある小さな運動場だ。それでも、十数人の子供が遊ぶには十分な広さである。

児童達が全員教室を出てから、雲竜と慧音は教室を出る。


「なぁ、本当に俺なんかで大丈夫なのか?」

「教えるにも術多し。偶には私以外の教室から教えて貰うのも勉強になるだろうし、それに、体育は女より男が教える方が都合も良いだろう」

「そんなもんか」

「そんなもんだ」

「雲竜先生と呼ばれるのは違和感があるな……」

「それも経験の内さ」


二人が運動場に出ると、児童達が既にグラウンドのあらゆる場所に散開して各々で遊んでいる。

授業が始まれば集められるというのに遊ぶのは、子供は少しでも遊びたい、いや、少しの時間でも遊びに変えることが出来るということだ。

そんな元気な子供達全員に聞こえるように、慧音は大きな声で号令をかける。

途端にワラワラと虫のように集る児童達。


「今回の体育は雲竜先生が指導してくれるらしい。皆、雲竜先生を私と思ってしっかり言う事を聞くように」


慧音がそう忠告すると、生徒達は元気良く返事する。

そこで雲竜は今更気が付いた。

人間の児童の中に妖怪の子供もチラホラと混ざっている。

もっとも、先生が妖怪の寺子屋なので驚くこともないのだが。

その子供達の中から一人が手をあげる。


「うんりゅーせんせー何するのー?」

「……って言われてもなぁ……サッカー……はボールがないか。ボールが不必要な遊び…………缶蹴り?」

「カンケリ?」

「あぁ、缶がないから別のもので代用しないとな…硬くて見分けが付きやすい物ならなんでも」

「それならアタイに任せなさい!」


雲竜が思案していると、児童の中から一人が立ち上がって手をあげた。

立ち上がるか手をあげるかのどちらかだけで良い気もするがそれは気にしないでおこう。

青い髪の女の子だ。

背中に氷で出来た羽のような物がある。

その姿から、おそらく妖怪であろうと想像が付く。


「えーと……チルノちゃん、だっけ?」

「うん!アタイのさいきょーな能力を使えば……!」


チルノがそう言った瞬間、周りの気温が一気に下がる。

寒い。まだ秋であるのに冬のような寒さだ。

雲竜はピキピキという音がしたのでその方向を見やると、寒さのせいもあるが、それ以上に。

恐怖と驚きで肩を震わせた。


空気が凍っているーーーーーー


『気温を下げる程度の能力』であろうか、『ありとあらゆる物を凍らせる程度の能力』であろうか。

空中に氷の結界が現れていた。

人間が食らえば一溜まりもない。

そんな能力を目の前にして、他の子供達は


「ちるのちゃんすごーい!」

「すげー!」


……無邪気なものである。

雲竜はチルノに氷を適度な大きさに作らせる。

そして、慧音を含めた興味津々の生徒達に、缶蹴りのルールを説明する。







子供達がチルノ特製の氷の缶(何故か児童達は略してコカンと呼んでいる)で、楽しくコカン蹴りをしている光景を、雲竜と慧音は隅の方で眺める。

既に開始して一時間以上経つが、子供達はまだ元気に走り回っている。

あの無尽蔵なスタミナはどこから来るのであろうか。

雲竜がそんなことを考えながら生徒達を見守っていると、隣の慧音に声をかけられる。


「大盛況じゃないか、雲竜先生?」

「その呼び方はやめろ」

「体力だけでなく判断力や瞬発力も楽しく鍛えられる。スリルもあるし、いいゲームだな、コカンケリ」

「その呼び方はやめろ」

「晩飯はどうする」

「いや、自宅に帰るよ」

「そうか」

「…………」

「……どうした?」

「いや……俺は子供の頃、こうやって遊ぶ相手がいなかったからな。少し羨ましいだけさ」


雲竜はそう言って楽しそうに遊ぶ子供達を見る。

夕焼けがそんな雲竜の瞳を照らし、光の反射で彼が泣いているようにも見える。

だが実際に彼は泣いていない。その瞳に残っているのは諦めの眼差しだけである。


「……雲竜、お前は気配を消す癖があるな」

「……」

「小さい頃から気配を消すような事をしていた証拠だ。それに、外来人なのに『力』を持っている……お前も苦労してきたんだろうな」

「……お前『も?』」

「…………私は妖怪と人間のハーフだ」

「っ」


思わず雲竜は息を飲んで慧音を見る。

慧音は子供達を眺めたまま、語り出す。

雲竜も顔の向きを戻す事にした。

空が赤い。


「幻想郷の管理者、『八雲 紫』と先代の『博麗の巫女』が『協定』を結ぶまで、幻想郷では妖怪と人間が対立していた」

「『博麗の巫女』は人間だから…先代というとかなり最近だな」

「あぁ。『協定』が結ばれるまでは『弾幕ごっこ』もなかった。妖怪が人を無差別に喰らい、人間や巫女が無差別に妖怪を殺す、そんな世界だった…………私はその中で生まれた」

「……」

「私は人間としても妖怪としても受け入れて貰うことは出来なかった……『協定』がなかったら、今頃どうしてたか分からん」

「そうか……」

「『協定』で私を含めた何人もの人が助かっている。『弾幕ごっこ』によって人が死ぬ事も少なくなった……まぁ、妖怪の中にもこの状態に不満を持つ輩も多数いるし、未だに妖怪を怖がって近付いてこない人間もいるんだが」

「まだ、完全な平和には遠いんだな」

「あぁ……だけどあの教え子達を見ていると、人間と妖怪が打ち解ける日もきっと来る……そう私は思うんだ」

「…………」





生徒達と慧音にお別れをして、雲竜は寺子屋を離れる。

随分遅くなってしまった。

もしかしたらアリスが心配しているかもしれない。

雲竜は夜の空を翔ける。

幻想郷は今日も平和だ。

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