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東方愛怪異厄  作者: にゃぶや
呪い
13/17

kneel down : HOLD

「おかえり…って何その顔」

「博麗霊夢にやられた」


夕方、雲竜がアリス宅に帰ると、出迎えたアリスが雲竜の顔を見て怪訝そうな顔をする。

アリスは雲竜の応えを聞いて少し驚く。


「霊夢に?何かしたの?」

つまんで説明するとだな………」


変な剣士に出会い、その勧めで変な巫女に会いにいき、変な能力に気付き、変な方向に賽銭箱を飛ばしてしまった為、怒った霊夢に殴られたことを簡単に説明する。

アリスはくすっと笑って


「ドジねぇ…なるほど、『ありとあらゆるモノを飛ばす程度の能力』ね、少し練習してみましょうか」

「そういえば、アリスは能力を持っているのか?」

「えぇ。私は『人形を操る程度の能力』。少ない力の消費と低い集中力でもかなりの人形を動かすことが出来る能力よ」

「だから人形を使って戦っているんだな。能力に合わせている訳だ」

「そう。貴方も能力を駆使した闘いが出来ればかなり強くなれるわ」


そのためにまず能力を良く知ること。

アリスはそう言いつつ、例の修行場へと足を運ぶ。

修行場と言っても、ただの家の前の開けた場所なのだが。

アリスは茂みの中から小石を幾つか拾ってくる。

その中の一つ以外を地面に置き


「もう大分暗くなったし手短に済ますわよ。この小石を飛ばしてみて?」

「分かった…」

「………」

「………」

「………」

「飛ばないな」

「飛ばないわね」

「うーむ…」


小石はピクリとも動かない。

どことなくシュールな感じがした。

もうすぐ夕陽も沈み夜になってしまう。

雲竜にとってはせめて明日までに能力を使えるようになりたかった。


「『賽銭箱』を飛ばした時、どんな感覚だった?」

「『捉えた』…というか、『掴んで飛ばした』ような感じだった」

「んー…もう一度、賽銭箱を飛ばした時のようにやってみて」


雲竜は再度集中する。

あの時のように、強く、強く想って。

…飛べ!


すると。

アリスが置いた小石ではない、雲竜の足元に落ちてあった。葉っぱ一枚が上へ飛んでいった。


「コントロールがまだしっかりしていないわね」

「いや…今のは」

「?」

「今のは、『届かない』って感じがした。手を伸ばしたが届かず、結局近くの落ち葉を飛ばした感覚」

「まさか、その能力は『射程距離』が存在してるってこと?」


雲竜はアリスに近付き小石を拾う。

そしてアリスから離れ小石を足元に置き、小石を飛ばすように念じる。

すると、小石は真上へとかなりの速さで飛んでいった。


「やっぱり、『射程距離』があるみたいだな」

「詳しい距離の範囲を知っておいた方がいいわね。色々やってみましょう」




------------------

-------------

-------





朝日が眩しい。

雲竜は今、とある山の方へ向かっていた。

里人に聞いた限り、先日吹っ飛ばしてしまった賽銭箱はこの辺りに飛んでいったらしい。

何故昨日アリス宅に帰れたかというと、『明日探す』ということで、昨日は帰してもらったのだ(ボコボコにはされたが)。

『射程距離は半径2m』。

それが昨日出た結論だ。

正直、雲竜からすれば短いが、能力が無いよりかはマシだろう。

ちなみに、意識すれば飛ばす方向を決めることも出来る。

他にも…


「そこのアナタ!」

「ん?俺?」


雲竜が歩いていると、突然少女に声をかけられる。

声を掛けた少女は背は低く、大きな盾と剣を持っている。

剣の種類は太刀であろうか?

美しい白髪に映える綺麗な紅の瞳。

その両眼が雲竜を『睨んでいる』。


「この先は『妖怪の山』です。部外者は立ち入ることは出来ません」

「物を探しているだけだが…通ることは出来ないか?」

「ダメです。特に今は『天狗』の会議中なので、お通しする訳には」

「そうか…」

「お引き取りください」



「だが断る」


引く訳にはいかない。

あの巫女をこれ以上怒らせると、恐らく命が危ない。

探して見つからなかったのならともかく、注意されたのでおめおめと引き下がった…なら許されないだろう。


「弾幕ごっこだ。俺が勝てばココを通してもらう」

「…いいでしょう。私が勝てば帰ってもらいますからね」


白髪の少女はそう了承すると少し後ろに下がる。

そして距離をおき、剣と盾を構える。


「急いでいる。ルールは一度でも先に被弾した方が負け、でいいな?」

「構いません…いきます!」


少女は弾幕を展開する。

女仮名の『の』のような形状の弾幕だ。

弾幕を張ったのは様子を見る為であろう。

だが…


「急いでいる、と言った筈だ」


雲竜は前に突っ込んだ。

弾幕ごっこで避けられない攻撃は繰り出すことが出来ない。

つまりそれは、『適切な行動をすれば回避出来る』弾幕を繰り出さなければならないということ。

逆に言えば、弾幕というものは基本的に適切な回避をしなければ被弾してしまうということだ。

少女が放った弾幕は、密から疎になっていく弾幕。

つまり、後ろに下がれば簡単に回避出来る弾幕で、逆に前に上がれば回避は困難な弾幕だ。

これは相手と自分の距離を離すのが目的でもあり、様子見に相応しい弾幕構成なのだが…

そう、雲竜は前に出たのだ。

これは明らかなミス。


「(勝った…っ!)」


少女はそう思った。

だがその勝ちを確信した時の一瞬。

その一瞬、気を逸らした一瞬に、『何かが起きた』。

気を逸らした為にその何かを見逃した。

気が付くと、雲竜が被弾せずにこちらへ向かって来ている!


「!?…ですが、私が得意なのは寧ろ接近戦…!」


少女は向かってくる雲竜に自分からも走っていき太刀を振りかざす。

雲竜はそれを避け、少女の左側へ回り込む。

少女は左手で大きな盾を持っているので、左が死角になるのだ。

だが、彼女は慌てずに右に飛び左にいる雲竜から距離を離す。

そして身体の向きを変え標的を視界に捉え、太刀を軽々と振り回す。

雲竜はなんとかギリギリで躱しながら思う。


「(なるほど、かなりの太刀筋だ…妖夢に教えたら喜びそうだな)」

「はぁあ!」


次に少女は真上から大きく太刀を振り下ろす。

攻撃が全て躱されていた為に自棄やけになったのか、彼女の動きはやや単調になっていたのだ。

元殺し屋はそれを見逃さなかった。


「…なっ!?」

「真剣白刃取り…なんてね」


雲竜は両手で力強く太刀を挟む。

少し掌に魔力を込めているので、簡単には抜けないだろう。

少女は雲竜を蹴り飛ばそうとするが…


「やっと…『捉えた』……『()()()():()()()』」


突如、少女は地面へ叩きつけられる!

前のめりに倒れたまま、起き上がることが出来ない。

雲竜はそんな少女の背中に一つ弾幕を当てる。


「勝負、あったな」

「………悔しいです…この謎の現象は能力ですか?」


少女が起き上がりながらそう尋ねるが、雲竜は適当に誤魔化す。

敵に自分の情報を漏らしたくはなかったからだ。

そんな雲竜を少女は見て


「なら…情報交換しませんか?貴方の『ニールダウン:ホールド』。その仕組み、気になります。教えてくれるなら私の能力や知ってる情報を教えますよ」

「ふむ………(知っている情報…賽銭箱のことが聞けるかも知れないな)」

「どうですか?」

「…他言しないのならOKだ」


少女は服に付いた土を落とす。

綺麗な白髪をなびかせて


「いいですよ。私の名前はいぬばしり もみじ。白狼天狗です。能力は、『千里先まで見通す程度の能力』。この能力で貴方を見つけ、止めに来ました」

「便利な能力もあるもんだな。俺は雲竜。使い魔をやっている。能力は『ありとあらゆるモノを飛ばす程度の能力』。『()()()():()()()』は『相手を連続で下に飛ばし続ける』ことで擬似的に拘束する技だ」

「なるほど…抑え付けられてたのではなく、飛ばされ続けていたんですね…」

「ちなみに最初の弾幕は上に『飛ばし』て強引に乗り切った」


小さな弾幕なら『半径2mの領域』に入っただけで飛ばせるが、威力の強い弾幕などは、『領域』の中に入れたまま能力を使い続けなければ飛ばすことは出来ない。

人体のような強いエネルギーを持つモノに対してもそれは同様であり、椛を真下に飛ばすのに少し時間がかかったのは彼女が妖力を持っていた為だ。

もっとも、人体であろうが動いていなければ直ぐに『捉える』ことは出来るのだが、動いてる相手に能力を使い続けるのは難しい。

だから雲竜は彼女の太刀を掴んだのだが、彼はそこまで言う必要は無いと判断した。


「ところで椛、さっき知っている情報なら話すと言ったな」

「はい」

「この辺りに『賽銭箱』が『飛んで』きたという話はないか」

「……何をやらかしたんですか」

「聞くな」

「そのような報告は聞いてないですけど、そういうことなら私の『千里先まで見通す程度の能力』で探しましょうか?」

「いいのか?」

「はい。早く見つけてさっさと帰ってもらった方が助かりますし」

「頼む」









椛の先導で二人は妖怪の山を歩く。

妖怪の山はその名の通り妖怪が蔓延るのだろう。

椛は白狼天狗という種族らしいが、天狗はこの山を支配している種族のようだ。

そんな天狗の一員の椛がいなければ、沢山の妖怪に襲われて賽銭箱どころじゃなかったかも知れない。


「これですよね?」

「ああ、これだこれだ…よっと」


雲竜は博麗と書かれた賽銭箱を持ち上げる。

意外に重いが、中には賽銭が全く入っていない。

飛ばされた時に中身が零れたのだろうか?


「それでは私はここで。失礼します」


椛は一礼して飛び立つ。

哨戒の続きをするのだろう。

雲竜は賽銭箱を担ぎ、空高く飛び上がる。

そして博麗神社に向けて…


「貴方…止まりなさい」


下から別の少女の声に留められる。

やれやれ。またか。

雲竜はそう思い下を見ると、赤い服を着た緑髪の少女がそこに居た。

不思議なオーラのようなものが少女の周りに見えた気がした。

とりあえず上から話すのは無礼だろう。

雲竜はそう思い地上へ降り立つ。


「何か用か?」


雲竜の言葉に緑髪の少女は全く反応せず、彼女は降りてきた雲竜に向かって歩を進める。

そしてたじろぐ雲竜に触れ、


「私は鍵山かぎやま ひな。貴方…厄いわね」

「は?厄?」

「えぇ。貴方、何者なの?」

「何者って言われても…ただの使い魔、名は雲竜」

「魔族…いいえ、それにしては多すぎる厄…私では制御出来ない程の…」

「厄って言うと、災いとかそういう類の?」

「『厄』は人を不幸にするエネルギーよ。貴方は大量の厄を持っている」

「…………済まないが急いでるんだ。日も暮れてきたし、急いで博麗神社へ行かないと」

「待ちなさい、話を…」

「『()()()():()()()』」

「!?」


雲竜は雛を引き離し空へ飛び立つ。

日が暮れてきたといっても、まだ夕方で夜になるまでは時間がある。

少なくとも彼女の話すことを聞く時間は。

だが、本能のような何かが、彼女から離れたがった。

だからそうした。

()()()():()()()』は『領域』内の対象しか持続効果は無い。

従って、雲竜が真上に飛ぶと同時に拘束も解除されるのだが、雛は雲竜が聞く耳を持たない事を分かったからなのか、諦めて追っては来なかった。

そして何故か、くるくる回って山の森の中へと消えていった。


雲竜は飛び立つ。

博麗神社に。

複雑な想いを抱えて。

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