能力
博麗神社は人里から少しだけ離れた所にあった。
そこは高い所にあり、幻想郷が見渡せる。美しい所だ。
神社は人里からは遠いが、道はしっかり作られていたので迷うことなく辿り着くことが出来た。
恐らく、参拝客が来やすいようにという配慮であろう。
しかしその割には少し寂れている気もするが…
と、鳥居の近くで博麗神社の全体を見渡していると、境内の隅の方から何故か腋の空いた特徴的な紅白の服を着た少女が箒を手に近付いてくる。
「何か用かしら」
「アンタが博麗の巫女か」
「そうだけど………それ以上近付かないで」
「?」
話しかけながら歩を進める雲竜を巫女は諌める。
巫女は箒を固く握り、雲竜を睨めつけている。
どうやら『警戒』されているようだ。何故だかは分からないが。
雲竜はその場に留まり両手を上げる。
自身に害意が無い事を伝えるのだ。
「えっと…何か俺、いけない事でもしてしまったか?」
「…………」
「…」
「…まぁ、いいわ。お茶でも飲む?」
「えっ?」
巫女は先刻とは急に変わって警戒心のカケラもないように背を向け神社の方に歩いていく。
そればかりか、かなり親しげに話しかけてくる。茶を勧めてくる始末だ。
雲竜は巫女の急激な態度の変化に戸惑いつつも、断る理由もないのでその背に着いていく。
青年は縁側へ腰掛ける。
少し待つと、巫女が奥の部屋から茶を運んでくる。
彼女は雲竜に茶を手渡して
「はい、お茶」
「ありがとう……えーと…」
「霊夢よ。博麗霊夢。『博麗の巫女』って呼ばれ方はあまり好きじゃないから、霊夢と呼んで頂戴」
「あぁ、それはすまなかったな。俺の名は雲竜だ。よろしく」
『博麗の巫女』と声を掛けたのが原因で警戒したのだろうか?
雲竜にはよく分からなかったが、何にせよ霊夢は『それ』が嫌いなようだ。
少し冷えてきたので、温かい茶がありがたい。
雲竜は、何の用かと改めて尋ねられたので、妖夢の事。力と能力の事。その二つの事象を説明する。
「成る程。聞きたいのは『力』の様々な使い方と『能力』についてね」
「あぁ、よろしく頼む」
「そうね………力の使い方は…なんとなくよ」
「なんとなく?」
「まぁ、勘?っていうのかしら。なんとなく、こんな事出来るかなーってやれば出来ちゃった。みたいな」
「…」
神社に招かれた時から薄々勘付いていたが、この少女、どうやら頭のネジが何本か抜けてるらしい。
先程警戒心を解いたのも、『勘』で敵ではないと判断したからなのだろうか?
もしかすると、能力についても大したことは聞き出せない…かと雲竜は思ったが、意外と能力については真面目に教えてくれた。
「能力は、そうね…力の強化版、みたいな感じかしら。源があり、それを大勢の人が扱う力とは違って、能力はDNAのように個人によって違うのよ」
「皆違う能力を持っているんだな」
「ええ。例えば私なら『空を飛ぶ程度の能力』を持っているわ。力を放出するよりも少ない燃費で宙に浮くことが可能になるわ」
「便利だな」
「そうね。能力は持っておくに越したことはないわ。そしてその能力は力を持つ者にだけ身についている…可能性がある。大体、力を持つ者の3割程度が能力持ちよ。能力の有無は潜在的なモノなのよ」
「とすれば、俺も持っているかも知れないんだな?」
「そうよ。私が調べてあげましょう。きっと妖夢もそういう意味で貴方を此処へ招待したんでしょうね」
霊夢はそう言うと雲竜に近付き能力を調べる準備をする。
準備といっても、彼女にとっては少し気合いを入れる程度にしか考えていないかも知れないが。
ざっと10秒くらいだろうか?もっと短かったかも知れないが、恐ろしい程の早さで、測定が終了したのか、霊夢が雲竜から離れる。
「良かったわね。能力あるみたいよ」
「おおっ、どんな能力か、分かるか?」
「ズバリ…『ありとあらゆるモノを飛ばす程度の能力』ね」
「飛ばす…?」
「飛ばす」
随分大雑把な説明だな、と雲竜は苦笑する。
だが霊夢によると
「いいじゃない。私の『勘』では貴方の能力、かなり強いと思うわ」
ということらしい。
シンプルな能力は使いやすく、汎用性も高くて戦闘面だけでなく日常でも役に立つのだそうだ。
しかし、そんな能力を既に持っていたなんて言われてもイマイチ釈然としない。
「能力は身に付く場合力の取得と同時に起こるけど、大体は力の方に意識がいってるから気付かない人が多いのよ」
「そんなものか…能力はどうすれば使える?」
「んー…力を少し込めて、飛べー!!って思ったら飛ぶと思うわよ?ちょっと飛ばしてみてよ」
雲竜は魔力を意識しながら強く念じた。
飛べ!飛べー!!
すると…
近くにあった博麗神社の賽銭箱が遥か彼方へと飛んでいった。
「……わ……………」
「…わ?」
「私の賽銭箱があああああああぁぁぁああぁぁぁっぁあぁっぁあぁぁああああああ!!!!!」
雲竜は、木霊する悲痛な叫びと背に受ける強大な殺気から、生命の危機を感じ取った。