表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
東方愛怪異厄  作者: にゃぶや
呪い
11/17

爪痕

雲竜は空高く舞い上がる。

まるで竜のように。

彼は人里へ行く前に寄りたい所があった。

霧雨魔法店。

見覚えのある看板の前に綺麗に飛び降りて、店の中に入る。


「魔理沙、居るか?」


返事は無く、雲竜の声が店の中に虚しく響くのみ。

彼は少し店内を見渡し魔理沙がいないのを確認すると


「(仕方ないな…『これ』を返しに来たんだが)」


店を出て、飛び上がり、再度上空へ。

魔力を上手く後方へ放出し、前に進む。

前に進むと爽やかな風が顔に当たり、心地が良いものだ。

雲竜は既に空の飛び方を会得していた。

手足を扱うかの如く、いとも簡単に人里まで飛んでいき、その隅に降り立つ。


改めて人里を見ると、やはりそこも『爪痕』が残っていた。

寧ろ、アリスや魔理沙の家に『それ』が無かったのが不思議なくらいかも知れない。

だが、人里全体の活気はそれを忘れさせる程賑わっていた。

往来を沢山の人が行き交うその光景は、外の世界を彷彿とさせる。

とは言っても、外の世界程人がいる訳でもないのだが。

それでも活気付いてると思ってしまうのは、里人一人一人がとても楽しそうで、幸せそうで。

昼食にはまだ早いが、他に行く宛もないので、雲竜は人里の一人に団子屋の場所を聞く。


「あぁ。そこなら丁度其処の角を曲がった所にあるさ」

「有難う」


ーーー団子、二本貰えるかな。

和菓子など、食べるのは久しぶりかも知れない。

雲竜は注文を終えた後、長椅子に腰掛ける。

店は古びてはいるがしっかりと掃除されていて、どこか小綺麗な空間を醸し出していた。

そんな店の中から賑わう外をボンヤリ眺めていると、やがて団子が二本運ばれてくる。

串に刺さった団子だ。三つ刺さってる。

三色ではなく、全て同じ色の団子。

雲竜は三色団子の方が好きだった。三色違う色の団子が鮮やかに食事を彩るからだ。

食事というものは目で楽しみ舌で楽しむ。それこそが真骨頂なのではないか。

そんな事を考えながら団子を頬張る。

美味い。

団子が完全な丸い形になっていないのが、逆に手作り感を出している。

彼は不恰好な二個目の団子を食べ、茶を啜る。

もちもちとした食感の団子を噛みながら串に刺さった最後の団子を見る。

串に団子を三つ刺す決まりでもあるのだろうか?

団子は串に三つ刺さっているものと『認識』されているから『串に三つしか団子が刺さらない』、という風に幻想郷の認識のルールが働いている可能性がある。


その時。

急に。

何故か。

ふと。



ーーー貴方、呪われてますよーーー


平和な思考に、突然トラウマのように蘇る記憶。

雲竜は人里に降り立ち、団子屋へ行く前に、一人の女性と会っていた。

名を東風谷こちや早苗さなえ

緑髪が特徴の、自称巫女。

その巫女に出会い頭に言われた言葉だ。


「貴方、呪われてますよ」


そう言われた時は怪しげな勧誘やら宗教やらの臭いもしたので数回言葉の応酬を交わした後適当にあしらった。

だが…

彼は団子屋の向かいにある家の『爪痕』を見る。

『爪痕』を見る度に思い出す。


「(あの日がなければ、俺はまだ殺しをやってたろうな)」


彼は過去に人を殺している。

何人も。残虐に。

いつ、どこで、だれに呪われていてもおかしくはない、と彼は思う。

強ち、巫女の言うことも信用出来るかも知れない…




最後の団子を口に含むと同時、里人の小さな男の子が近くからこちらを見ていることに気が付いた。

少年は羨望の眼差しで雲竜と皿を見る。

雲竜は皿に残ったもう一つの串団子を無言で少年に差し出す。

無言というのは雲竜は口に団子を含んでいたからだ。


「いいの?」


ぱあっと顔を輝かせる少年に、黙って頷き串団子を渡す。

少年は礼儀正しくペコリとお辞儀をして、団子を持って去っていった。

その後ろ姿をボンヤリ眺めていると


「優しいんですね」


そう言って長椅子の隣に腰掛けてくる少女が一人。

雲竜は彼女をチラと見た後、釘付け、といっても良いかも知れない。

ともあれ、目が離せなかった。

何故ならば。

まず一つ。彼女は地味な色合いの里人の服を着ていなかった。

彼女の服は緑と白からなる少々目立つ色合いで出来ていた。

次に、彼女の髪の色。

銀。

銀髪。

太陽の光が反射し、綺麗な銀髪が鈍く光る。

ショートヘアにカチューシャというファッションはアリスのそれと同じだ。

最後に、腰に掛けてある二本の刀。

刀自身から殺気を感じてしまう程、よく出来た刀だ。

鞘に収められていても、そのくらいのことは分かる。


「……物騒だな」


その刀のあまりの威圧感に、ついついそう呟いてしまった。

小さな囁きのつもりだったが、彼女には聞こえてしまったようだ。

彼女はしかし、特に怒った様子もなく


「すみません。刀は携帯しているんです。危害を加えるつもりはありませんので」


怒るどころか、逆に謝ってきた。

こうなると団子の味も悪くなる。

雲竜は慌てて


「あぁいや…剣士にとって刀は魂のようなものだからな。外せないのも分かるさ」


そう弁解し、気まずそうに顔を逸らす。

すると彼女の方からドタドタと騒がしい音がした。

雲竜は気になって視線を戻すと、彼女が急接近していて、顔がドアップで視界に飛び込んできた。


「!?」

「貴方、もしかして剣士ですかっ!?」

「え…!?ちょ、顔、近…!」

「あっ………すみません。少し興奮してしまって」


彼女は少し頬を朱に染めて顔を離す。

雲竜が少し戸惑いつつも、一体どうしたのかと尋ねると、少女は苦笑しつつ


「すみません、知り合いに剣士があまりいないもので」

「ふむ、そうなのか……悪いが俺は剣士じゃあ無い。剣術は多少嗜んでいるが」

「成る程。多少でも、理解者がいるのは嬉しいです……あっ、私は妖夢と言います。よろしくお願いしますね」

「俺は雲竜という。よろしく……ところで、よくそんな細腕で刀を振り回せるな」


妖夢と名乗った銀髪少女は団子を一つ食べる。

そして雲竜の言葉を聞き、団子を頬張りながら何か考える素振りを見せる。

彼女は口の中のものを飲み込むと、語りだす。


「力というのは知ってますか?」

「あぁ。最近身に付けたよ」

「あぁ、なら話が早いです。実は、力を持つと身体能力や筋力が向上するんです。雲竜さんは気付いてないかも知れませんが」

「そうなのか?まぁ、言われてみれば身体が軽くなってる気も…」

「元々身体能力が高ければあまり変化は感じないかも知れませんね。筋力は使わないと気付かないですし」

「ふむ、力にはまだまだ知らないことがあるな」

「んー…力と言えば、『能力』は知ってますか?」

「能力?力とはまた別の何かか?」


妖夢はいつの間にか団子を全て食べ終えていた。

雲竜の目には彼女は常に喋っていたように見えたのだが、いつ食べたのであろうか?

彼女は何も刺さっていない串を皿に置き、立ち上がる。


「『博麗神社』にいる『博麗の巫女』に会って下さい。あの人なら、力や能力について詳しいことを教えてくれると思います」

「分かった。ありがとう」

「いえ。機会があれば剣術について語り合いましょう!私は買い出しの用があるのでこれで失礼します」


彼女は最後まで礼儀正しく接した後、雲竜に背を向けて歩いていく。

恐らく買い出しとやらに行くのだろう。

人里の中で目立つ彼女の緑の背中を眺めながら雲竜は思った。


「(……また巫女か…)」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ