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8/23

yesterday ~過ぎし日の青春は塩辛い3~

「諒子ちゃん・・・どうしたの?映画、つまらなかった?」

 気遣わし気に貴也に顔を覗かれ、はっと我に返り無理矢理笑顔を作り出して首を左右に振った。

「ごめんね。ストーリーのシナリオにちょっと曖昧なとこがあったから気になって・・・」

 もちろん、嘘である。

 気になっていたのは、俊樹の事。

 あれから昼休みの他に、家の前でばったり会っても気まずい雰囲気から脱することができずにぎくしゃくした毎日をただ過ごしていた。

 友達とは言っても家族のように過ごしてきた俊樹と離れつつあることに、心にどこかぽっかりと穴があいてしまった感覚と寂しさに気持ちがついていかなかった。


 映画鑑賞はぼーっとしたままいつの間にか終わっていて、今は映画館に隣接しているショッピングモールのカフェテラスでティータイムをしているところだった。

 その後加南子が言った通りにモール内をウィンドウショッピングして散策し、陽も傾いてきたことから帰ることにした。

 帰り道。談笑しながら歩いていると、諒子の横を自転車がブレーキもかけずに通過しようとしてきていた。

「諒子ちゃん危ないよ」

 咄嗟に貴也が手を握って引き寄せる。

 自転車とはぶつかりはしなかったが、手を繋いだことに心拍が急上昇した。

「あ、あの・・・手」

「あ、ごめんね。危ないと思ったから・・・このまま、繋いでていいかな?」

 そう聞かれると返答に困る。

 でも、貴也と手を繋いでも嫌な気持ちにはならなかった。

 戸惑いながらも頷くと、ほっとしたように貴也は笑った。



 週明け。

 加南子は貴也と二人で話している諒子を見て、頬杖をつきながらおもむろに口を開く。

「あんたたちさぁ・・・付き合い始めたの?」

 ぶっっっ。

 紙パックの牛乳に差したストローを口に含んでいた諒子は、ストロー内に牛乳を逆流させる。

「気付いたの、君位だよ。さすがだなぁ」

 照れた顔で加南子を褒める貴也に、顔を真っ赤にさせて俯く諒子。

「へぇ・・・おめでと。でも、諒子はあたしのだから貸してあげるだけだからね。

 後で返してよね」

「・・・ちょっと、加南。私は物じゃないんですけど」

 加南子の頬をむにっとつまんで、諒子は真っ赤な顔のまま軽く睨む。

「返す気はないんだけどなぁ」

 朗らかに笑って、食べ終えた弁当を片付け始める貴也。

「・・・そういや、いつも気になってたけど。それ、作ったの貴也の母?」

 それ、と加南子の指が指しているのは貴也の弁当箱だ。

 確かに、毎日バラエティに富み、栄養も考えている完璧な弁当の内容。

 それを毎日作るのは結構な手間だろう。

「・・・いや、違うよ。オレの姉さんなんだ。自分の作るついでだって持たされてるんだよ」

 そう言った貴也の顔が、一瞬歪んだ様に見えた気がしたがほんの瞬きの間だったせいで気のせいだと自分に納得させた。

「お料理上手なお姉さんなんだね。いいな、そんな優しいお姉さんがいて。

 うちは可愛げのない弟しかいないもの」

「さらにシスコンだしね~?」

 諒子の言葉にすかさず加南子が追加事項をおどけて付け足す。

 覚えておこう、と乾いた笑みに変わった貴也は席を立ち、

「じゃあまた放課後、ね」

「うん、またね」

「ばいば~い・・・。・・・・・・・

 ちょっと、諒。顔貸しなさい」

 貴也が教室から出るのを見計らってから、加南子は怖い顔で諒子に顎をしゃくった。

「次の授業は・・・?」

 恐る恐る諒子が加南子を窺う。

「あ、ちょっと幸佑こうすけ。あたしたち次は保健室サボりだから先生に伝えといて」

 加南子のただ事ならない雰囲気に負けたのか、田中は無言で頷くだけだった。




 授業中に最適なサボり場といえば、鬱蒼と茂る植物が管理されている温室というのがこの学校の生徒だけのセオリーだった。

「さ、週末にデートした時になにがあったのか、は、な、す、わ、よ、ね?」

「うぅ・・・加南が怖い・・・」

「なんで、1回目のデートでそんなことになってるのかがひっかかるからよ。

 あんた、貴也のこと好きじゃないじゃない」

「それは・・・」

 相変わらず痛いところを正確についてくるなぁ、と返答に困る。



「このまま、繋いでていいかな?」

 嫌ではなかった感触に、つい戸惑いながらも頷いてしまった諒子だったが。

 ・・・恥ずかしい。

 誰かに見られているかも、ということと、慣れない行為に対して多いに気恥ずかしさを隠せずに貴也を見ることができずにいた。

 公園が目に付いた貴也は、少し寄って行こうか、と優しく微笑む。

 手を繋いだまま、公園内のベンチに腰掛けた。

 まだ、彼の方を向けずにうつむいた視線の先はスカートからのぞいた自分の膝頭。

「・・・ねぇ、諒子ちゃん。手、繋ぐの嫌じゃなかった?」

「あ・・・うん」

「じゃあ、オレにもチャンスあるかな?」

「チャンス?」

「そ。諒子ちゃんが、オレのこと、好きになってくれるチャンス」

「なっ・・・そっ・・・う・・・」

「かわいい。真っ赤だよ、諒子ちゃん」

「かわいい・・・?私が?嘘」

「諒子ちゃんはかわいいよ。そう思ってる奴結構いるんだけどなぁ。

 あ、でもオレが一番だからね」

「嘘。・・・男の子にそう言われたこと、ないもの」

「じゃあオレが初めてなんだ~。嬉しいな。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 ・・・諒子ちゃん、オレと付き合ってくれないかな?

 少しずつでいいから、オレのことも知って好きになってくれたらもっと嬉しい」

 きゅっと握った手に力が込められ、はっとして顔を上げると貴也がいつにない真剣な眼差しで諒子を見つめている。

 心臓が悲鳴を上げそうな程にばくばくと音を立て、その鼓動が彼に聞こえてしまうのではないかと思ってしまった。

 どうしよう、告白なんてされたことないし。

 でも、素直に嬉しい。

「う・・・うん。・・・こういうの、慣れてないから・・・ゆっくりで、いいかな?」

「やった!」

 返事を返した途端、貴也は顔をぱっと綻ばせ繋いでいた手を解いたかと思うと、諒子を力いっぱい抱きしめた。

「あっ・・・ごめんね。嬉しくてつい・・・」

 我に返ったのか、彼の腕はすぐ離れた。

「・・・ううん。あの、これから宜しくお願いします?」

「ぷっ・・・なんで疑問形なの?面白いね、諒子ちゃん」

 お互い目が合って笑いあう。

「わ、もう結構暗くなってきた。・・・帰ろうか」

 家まではあと少しという帰り道、二人の手はしっかりと繋がれている形で後ろに長く影を作り出していた。



「・・・へぇ~~。意外とやるわね、スマイル王子」

 感嘆しつつ、納得といったように頷く加南子。

「なによ、そのスマイル王子って・・・」

「いつも笑顔振りまいてるじゃない?だからスマイル王子。

 ・・・あたしさ、諒は俊のことが好きなのかと思ってたけど・・・。

 ま、スマイル王子とくっついたならそれはそれでいいか」

 少し、思案顔を見せた加南子に、訝しみ眉を顰める。

「だから、なんで俊樹が出てくるのよ」

「・・・なんでもな~い。あ、ほら5時限終わったみたいだよ~。

 6時限目の準備、諒の当番じゃない?教室戻ろ・・・あ。

 ・・・あたし学食の自販機寄ってくから先行ってて~」

「ん、わかった。先行くね」

 ぱたぱたと走っていく諒子を見送り、加南子は振り返ってずんずんと温室の奥へと歩いていく。

「・・・御機嫌よう、盗聴王子。趣味悪い~」

 加南子が仁王立ちし、見下ろす先には。

「・・・お前らが後から来るからだろ。おかげで俺も5時限サボらされた。

 それに、変なあだ名をつけるのやめろ」

 俊樹が小さな芝生スペースに寝転んでいた。

「・・・いいの?愛しの諒子ちゃんが馬の骨に持ってかれても。

 今まで大事に大~事に野郎どもから守ってきたのに、とんびに油揚げなんて情けないわね」

 容赦のない言葉が頭上から降ってくると、むくりと上半身を起き上がらせて俊樹は言った。

「最後にはいつもここに戻ってくる」

「ほ~、言うね~。・・・まぁ、でも貴也あいつにはなんか引っかかるのよね。

 あまりにも突然だったし、さ。

 諒の恋愛ごとはとりあえずあたしに任せといて、あんたはいつまでもいじけてないで少しは諒のこと構ってあげなさいよ~。最近の昼はあんたがいないせいで寂しそうよ~」

貴也あいつを見るのが不愉快なだけだ」

 子供ね~、と加南子は笑いながら教室へ戻っていった。

 俊樹は立ち上がり、制服についた芝を軽く払うと温室の天井ガラスから透けて見える空を見上げた。

とんび、ね・・・」




 学校の帰り、貴也と本屋に行ったりファーストフード店でお茶をしてから帰っている最中。

 商店街のアーケードを歩いていると、前方から見るからに華奢そうな女性が一人で鞄と大きな買物袋を手に持ち、歩いてくるのが見えた。

「あ!」

 声に驚いて横を見ると、隣に並んで歩いていた貴也の姿がなくなっていた。

 当の彼は今、その彼女に走り寄っている。

 見たこともない、彼の焦った顔。

「貴也・・・今帰り?偶然ね。

 あら・・・・・・その子、彼女さん、かしら?」

「うん、そう。・・・姉さんまたそんな重いもの買って・・・。

 帰ってからオレに頼んでくれたらよかったのに」

 貴也が買物袋を強引に奪いとり、諒子へ向き直る。

「諒子ちゃん、ごめんね。今日は、ここまででもいいかな?」

「あ、うん、私は大丈夫だよ。それ重そうだものね。

 こんにちは、はじめまして。工藤諒子と申します」

 諒子が彼女に向かって頭を下げると、

「こんにちは、貴也の姉の詩織しおりです。・・・弟が、お世話になってます。

 貴也、いいのよ。工藤さんを送ってあげて?」

 と、詩織も頭を下げてから貴也の買物袋を取り返そうとする。

 うわ~~~~~、本当の美人ってこういう人のことを言うのね~。

 内心、諒子は詩織を見てそう思った。

 艶のある黒髪は少しウェーブがかかり、それが腰まで続く。

 顔は小さく、鼻筋はすっと通り、高すぎない形のいい鼻、顎は小さい。

 瞬きをする度にぱさぱさと音がしそうな長くカールのかかったまつげ。

 それに負けない程大きいアーモンド型の瞳は、わずかに垂れて優しい印象を見る者に与える。

 ほのかな色気を感じる唇は桜色に艶めき、少しぷくりとした肉厚さに女の諒子でもつい触れたくなってしまう。

 まるでビスクドールのようにつるりとした肌は、シミもニキビ跡すらも一切ない。

 その完璧に近い顔が乗っている身体もオードリーヘプバーンを彷彿とさせる、華奢すぎる肩にほっそりとした手足。身長も諒子より10センチ以上低そうだ。

 まさに美しい、としか言いようがない。

 そう諒子がしげしげと詩織を眺めている間、押し問答を続けているままの貴也と詩織。

 二人を見ていると、間に入ってはいけない空気を感じる。


「はっ・・・。す、すいません。私、帰りますから二人で帰って下さい。

 それじゃっ・・・」

 我に返った諒子は二人に慌てて声をかけ、走り始めた。

「ちょ・・・諒子ちゃん!?」

 後ろから貴也の声が聞こえてはきたが、振り返らずに全力疾走した。

 もう完全に見えないだろうというところで、足を止め大きく肩で息をする。

「はっ、はっ、はっ・・・っ。

 はーっ・・・」

 息を整え、さっきの二人を思い返す。

 絵になるような二人。でも、なぜか物悲しい、切ない気持ちになる二人だった。

 只の姉弟のはずなのに。

 空を見上げ、最後に一つ荒く息を吐いた。

「逃げちゃった・・・」

絶世の美人て表現が難しいものですね。

伝わるといいけど。

ちなみに私の絶世の美人?はネバーエンディングストーリー1の幼ごころの君です。

美しい・・・

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