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yesterday ~過ぎし日の青春は塩辛い2~

 いたたまれない空気の中、田中は平然と購買で買ってきた定番のやきそばパンとコロッケバーガーとコーヒー牛乳を食しながら加南子や貴也と話に花を咲かせている。

 ある意味、田中がいてよかった。

 と、内心ほっとする諒子であったが、隣の席で黙々とハムチーズベーグルサンドを咀嚼している俊樹をチラ見すると。

 なんか・・・壮絶に機嫌悪・・・。

 目が合えば眼力だけできっと射殺いころされるに違いない。

 そう、俊樹だけは和やかムードの輪に入らずに憤怒の表情で黙ったままなのである。

 それにしても、なんでこいつこんなに不機嫌マックスなんだろ・・・。

 持参してきた弁当のから揚げを頬張り、俊樹の不機嫌の理由について考える。


 あ、きっといつものメンバーにいきなり貴也が入ってきたからかな。

 人見知り程ではないけど、俊樹は他人にずかずかテリトリー踏まれるのきらいだからなぁ・・・。


 などと、明後日な方向に思考が歩いていく諒子。

「ねぇ諒子~。・・・どうすんの貴也こいつ

 いつの間にか田中と貴也の話からけ出した加南子が、諒子に小声で話しかけてきた。

「どうするって言っても・・・どうしよう」

「今日の放課後、話聞かせてもらうからね~」

 加南子は有無を言わせないとばかりに、にっこりと微笑んだ。




 微妙な雰囲気なままランチタイムが終了し、身が入らなかった5,6時限目があっという間に過ぎて今はもう放課後になっていた。

「諒、呆けすぎ」

 ぽこん、とノートを丸めた筒で加南子に頭を軽く叩かれて、初めて我に返る。

「あ・・・あれ。今何時?」

「もう放課後~。ほら、邪魔が入らないとこいくよ~」

 やれやれ、と溜息を吐かれて、諒子は慌てて鞄にノートや筆入れをしまい込んだ。

 加南子の手に引かれて教室を出たところで、

「あれ、諒子ちゃんと加南子ちゃん。一緒に帰ろうと思ったんだけど・・・」

 と、貴也とばったり会ってしまった。

 もちろん彼の、一緒に帰ろう、という相手は諒子に向けて言ったものだ。

「ごめんね~。今日は私が先約~、ばいば~い」

「そっか・・・仕方ないな。

 じゃぁ、また今度ね。バイバイ」

 加南子がひらひらと片手を振り、貴也の横をさっさと通り抜ける。

 加南子と一緒でよかった。

 諒子も気まずさを隠せずに「・・・バイバイ」と、加南子の後を追うと耳元で囁かれた。

「後でメールするね」

「・・・っ!」

 咄嗟に耳を片手で塞ぎ、誰かに見られてないかきょろきょろする。

 こんなとこ見られたら、女子達にえらい目にあってしまう。

 俊樹のことで懲りてるのに、貴也のファン達まで敵に回すようなことはなんとしても避けたい。

 誰にも見られてはいなかったらしく、睨んできたり騒ぐ女子は見当たらなかった事に心底から安堵の息を吐いた。

「そういうこと、しないで。じゃあ」

 貴也を軽く睨んで、急いで加南子に追いつく。


 二人の後姿を面白そうに見送りながら、貴也は小さく肩をすくめた。

騎士ナイトは一人じゃなかったか・・・。思ったより、手強いなぁ」

「そこ、どいてくれないか?教室から出られない」

 低い、不機嫌な声が貴也の頭上から振ってきた。

「ねぇ、上原。諒子ちゃんって可愛いよね?」

 身長173センチの貴也から185センチの俊樹は見上げるような形になってしまう。

 少し下から覗き込まれ、俊樹は眉間の皺が更に深まる。

「何が言いたい?」

「諒子ちゃんに聞いたら君とは付き合ってないって言ってたから、諒子ちゃんに告白したんだ。

 君にそのつもりがないなら、昼みたいな邪魔、しないでね。

 諒子ちゃん、君の不機嫌ムードにだいぶ困ってたしさ」

 にっこりと笑みを絶やさずにそう言ってのけた貴也を、射抜くように見下ろす俊樹。

「幼馴染みなだけなんだよね?

 ・・・はっきり言わせてもらえば、好きじゃないならくっつきすぎなんじゃない?

 まあ、今日は喧嘩しにきたんじゃないから」

 と、貴也はさっさと教室を出て行ていってしまった。

「・・・」

 ドン!!

 無言なままの俊樹は、ありったけの怒りを教室の壁に拳でぶつける。

「・・・器物損壊すんなよ」

 いつの間にか後ろには田中の姿。

「うるさい」

 やれやれ、といった様に肩をすくめると、田中は俊樹の肩に手を置いた。

「お前もさぁ、獲られたくなきゃ幼馴染みから進んだ方がいいんじゃねぇの?

 ああやって牽制してくる奴にいちいち構ってないでさ」

田中おまえに心配されるとは、俺もまだまだだったな」

「ひどーい、俊樹くん。心配してあげてるのにーぃ」

 俊樹の手刀がすかさず田中の脳天に直撃する。

「心配アリガトウ」

「棒読みな上にありがたくなんて思ってねぇだろっ。

 ・・・あー、マジ痛ぇ」

 田中は俊樹を涙目で睨むと、痛みを誤魔化すべく自分の頭を撫でる。

「そんなに大事なら獲られんじゃねぇよ?」

「・・・あぁ、わかってる」

 俊樹は一瞬口角をあげ、次の瞬間には無表情に戻り帰っていった。

「・・・どいつもこいつも、青春してるねぇ」




 一人追加された昼食は、あの次の日から俊樹だけが抜けてしまった。

 諒子はなにかあったのだろうか、と俊樹や田中にに尋ねるが上手くはぐらかされて終わってしまった。

 相も変わらず貴也は毎日アプローチしに教室に通いに来て、それを加南子が冗談でひやかす。

「諒子ちゃん、今度の土曜か日曜に映画観に行かない?チケット貰ったんだ」

 ぴら、と2枚の映画鑑賞チケットを手に持ち、貴也が週末の予定を聞いてきた。

「うー・・・ん。映画、かぁ」

 最近は映画も観てないな、と最後に観た映画を思い出す。

 確か最後に観たのは俊樹に誘われ、いや強引に連れて行かれたアクションものだったか。

「諒子ちゃんが観たいものでいいからさ、行こうよ」

 貴也の屈託のない笑顔が眩しい。ある意味、言い方やニュアンスが違えば強引過ぎる誘いだが、なぜか断りにくい雰囲気を醸し出す彼につい頷いてしまった。

「じゃあ、家まで迎えに行くね。今日帰り一緒に帰ろうね」

 午後の授業の予鈴が鳴ったところで、ばいばい、と手を振り自分の教室に帰っていく貴也。

「・・・いーのぉ?諒、あいつのこと好きになっちゃったのかしら~」

 うぷぷ、と口に手をあてて面白がる加南子に、こつんと軽く拳骨をする。

「加南~?映画行くだけでしょ」

「その映画を観て、きっとウィンドウショッピングやらお茶やらに勤しむ行為を一般では『デート』と言うのではないかね?諒子君」

 はた、と加南子の言うことに気付いてみれば、デートの誘いだったのか、と愕然とする。

 中学時代に数人と、あとは俊樹に付き合わされることを除き、デートなんて高校に入って以来していない。

 さらに自分にそういった類の誘いがあるとは思ってもみなかったせいか、デートだの好いた惚れただの等の甘酸っぱい思いにとんと疎くなっている気がする。

 つくづく枯れてるな、私。

「俊が知ったら不機嫌どころか突き抜けて閻魔様だね、こりゃ」

「なんで俊が怒るのよ?」

 諒子が怪訝な表情で加南子を見やると、あちゃー、と彼女は自らの額をぺしっと叩き、

「・・・これだもんね」

 と呆れた顔で呟いたのだった。


 放課後、貴也が教室まで迎えに来て一緒に校門を出る。

「諒子ちゃんちってオレの家と方向同じだったんだね。中学とかで会ってたりしなかったのかな」

 諒子よりも若干背が高い貴也は、歩幅も違うのに何も言わずとも歩くペースを合わせてくれている。

 そのスマートな気遣いに、女の子にモテるのもわかるな、と一人ごちた。

「あぁ、私塾も遊びもこっちとは反対方向に行ってたから、生活圏違うんじゃないかな?」

 そんな会話を交わし、時には貴也の軽いジョークで笑わせられたりしながら歩くこと20分。

「私の家、あれだから。ここでいいよ」

 T字路に差し掛かったところで諒子が立ち止まる。

「うん、じゃあまた一緒に帰ろうね」

 と、貴也は来た道を戻っていった。

 彼は、こんな地味な自分の何がいいんだろう、と帰る背中を見つめ溜息をついた。

 他にもっといい子がいっぱい学校にも、きっと他校にもいるのに。

 考えても仕方ない、と家に帰るため、庭先の門を開ける。

「あいつと付き合うことにしたのか?」

 隣の家の玄関に俊樹が立っていた。さっきまでの貴也と一緒にいるところを見ていたのだろう。

 私服に着替えているところを見ると、また図書館か本屋にでも行くのかもしれない。

「俊樹、帰るの早かったね。・・・まだそんな関係になんかなってないよ」

「ふぅん・・・まだ・・、ね。満更でもなさそうだな」

 素っ気無い俊樹の態度に、違和感と幼馴染みという関係から離れていきそうな不安を漠然と感じ、諒子は少し俯いた。

「・・・最近、なんでそんな態度なの?私が誰かと付き合っちゃいけないわけ?

 それこそ・・・俊樹には関係ないじゃない」

 言うだけ言い切ると、玄関ドアを開けて家の中に駆け込んでしまった。

 これじゃ言い逃げだ。

「子供のときはこんなバカな言い合い、しなかったのになぁ・・・」

 ドアに凭れ掛かり、小さく微笑いながら呟いた。

 昔はもっとシンプルだった。男女の分別もなかった。

 俊樹は初めて会ったときから小憎たらしく口が達者すぎて。

 私はそれに振り回されて。

 でも、怒ってもすぐまた一緒に笑いあって遊びまわって。

 ずっと、そうじゃいけないのかな。

 誰かを好きになったり、つきあったりしたら俊樹とは離れてしまうのかな。

 当たり前に隣にいた存在がいつかぽっかりなくなってしまうという感覚に、物悲しく寂しい気持ちが諒子の胸を痛ませた。

 その日以来、俊樹と気まずくなってしまって口もあまり聞かなくなった。










すいません、右腕負傷?中のため少し停滞してしまいました。

字数も少ないことに大いに反省中です。


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