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4.5日目。

 実は、俊樹に内緒にしていることがある。

 彼を見かけた、と言ったのは敢えて嘘をついた。

 心配もするだろうし、もう本当に会う事はないとわかったから。



「あ・・・」

「あ・・・」

 お互い、顔を突き合わせて発した言葉が被る。

 もう10年は経つというのに、大人な印象を持ち合わせながらも変わらないその顔。

 向こうも、成長しない私の顔に気付いたのだろうか。

「久しぶり、木村君」

「・・・諒子ちゃん・・・。久しぶり」

 彼の側には見知った顔がもう一人。

「工藤、さん・・・?」

「お久しぶりです・・・詩織さん」

 彼らの間にはとても可愛らしい顔の、こちらを見上げてきょとんとしている女の子。

「・・・ご結婚、されたんですね。おめでとうございます」

 頭を下げると、二人は顔を上げてくれと慌てる。

 時間があるなら、という事で近くの広い公園に来た。

 詩織は子供を遊ばせてくるといって、アスレチックに向かったようだ。

 二人の子供はやはり天使のように可愛いんだなぁ、と顔のつくりの良さに感嘆の息を吐く。

 大人になった姿は、さぞや美しいものだろう。

 彼女達が見える位置で、諒子と貴也は芝生に座り込む。

「・・・諒子ちゃんを見つけたとき、びっくりした。

 きれいで大人な女性になってて」

「ふふっ・・・相変わらず、口が上手いのね。

 でも、ありがとう」

 諒子はお世辞ととって、吹き出しながらもお礼を言う。

 今や奥さんとなった詩織の方がどう見たって美人だし、貴也の方も洗練された大人の魅力が加わっていて美形に拍車がかかっているのに。

 そんな人にきれいと言われて、お世辞だと思う他はない。

「諒子ちゃんは今は地元こっちに?」

「ううん、大学出てからは都内にずっと住んでる。

 ・・・木村君、約束、守ったんだね」

 遠くにいる詩織を眺め、自然と笑みが出てくる。

 もう、あの痛みは全くない。

「うん・・・。

 詩織から諒子ちゃんが言った事を聞いて、そんな優しい子にオレはなんてことをしたんだって・・・目が覚めたよ。

 でも、だからこそ詩織だけは絶対手離さないって決心がついたよ。

 両親が許してくれなかったから、駆け落ち同然で家を出たんだ。

 ・・・今はもう、許してもらって初孫を甘やかす事ばかり考えてるけどね。

 ・・・諒子ちゃん、あの時は本当にすまないことをしたと思ってる。

 許してもらえないことをしたとわかってる・・・。

 あの時、すぐに謝りにいけなくてごめん」

 貴也は、謝罪にいきたかったけれど、と続ける。

 諒子にひどい言葉を投げかけた直後、二人の関係を母親に見つかり家庭内が荒れに荒れたそうだ。

 離れれば一時の気の迷いだったとわかるものだと、卒業後、大学もなかなか帰ってこれない地への進学を父親に半ば無理矢理に決められたのだそうだ。

 家にいても監視されるように、母か父がついてまわった、と呆れるように溜息をついた貴也。

「大学を卒業して、就職してから詩織を浚うように連れて行ったんだ」

「ほんと、駆け落ちだったのね・・・。大変だったでしょう?」

「俺のために、詩織にはたくさんの苦労をかけたと思ってる。

 でも、それでも諦めるなんてできなかったんだ」

「あら、いやだ。惚気?

 独り身には身にしみるわね~」

 諒子が冗談めかして笑うと、貴也は驚いたように目を見開く。

「諒子ちゃん、独身だったの?」

「え?なんで?ずっとおひとり様だけど」

「そっか・・・。オレ、てっきり上原とくっつくのかと思ってたけど」

「俊樹?今でもくされ縁は続いてる、けど・・・」

 それを聞き、ああ、と貴也は納得したように頷いた。

「一生、続きそうだよね。君達」

「言わないで、それ・・・。

 ・・・ねぇ木村君、約束は守ってくれたから殴らないことにする。

 私も、もう過去の事だし気にしてない。

 許してあげるから、詩織さんとお子さんと幸せになるって約束してね」

 心からの祝辞を述べ、立ち上がる。

「うん。

 ・・・多分、もう会えないかもしれないけど、ずっと忘れない。

 海外に出向することが決まってて、3人で来週にはアメリカに行くんだ。

 何年も向こうか、そのままか・・・」

 それでも、その約束は絶対に守る、と彼は幸せそうに微笑んだ。


「さよなら・・・」

 たぶん君が初恋だった、と諒子は3人仲良く帰っていく後ろ姿を見送り、小さく別れを告げた。

30代になってやっと初恋に区切り。

遅すぎる気が・・・諒子さん・・・。

貴也君のその後を書いてみました。

お疲れ様でした、貴也&詩織~

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