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魔王で蟲の王  作者: カナリヤ
蟲の森編
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魔法の講義

長老に魔法の説明させたので、今回はほぼ会話です。

 エルフの村は最初に見つけた川沿いに作られることとなった。候補は幾つか他にもあったのだが、得られる水量や外と遺跡の位置関係の都合で決め手になった。その付近一帯は虫が入るのは禁じられ、安住できる場所となる。


 それでも、あくまで村の付近に近付かないだけなので村から出てしまえば普通に襲われる。それにあくまでクトセインの命令を受けた虫だけである。そのため、命令範囲外から来た徘徊性の虫は普通に侵入してくるので数が多かったりして手に負えない場合は、蟲の王たるクトセインを頼らざるおえないので遺跡から遠すぎてもいけない。


 自由などほとんど無かったが、エルフ達は村作りに精を出していた。クトセインはやる事がないが、自分だけ村を作られていくのを見ているだけの気になれず、かと言って何か問題が起きた際にはエルフがくるであろうから遺跡から離れる訳にはいかずに屋根に登って空を見上げていた。


「自由気侭、堕落に身を任したような生活をしておるようですのう」


「ん、あ~…長老?」


 エルフ達に長老と呼ばれていた老エルフが屋根に登ってきた。クトセインは名前で呼ぼうと思ったが、その肝心の名前を知らなかったのでとりあえず長老と呼んだ。ソレに対して長老は顔を顰める。長老と呼ぶのは敬意をも表しているので、明らかに目上にあたるクトセインにそう呼ばれるのはなにか違うと感じたからだ。


「クトセイン殿、わしはゼムと呼び捨ての方が呼びやすいでしょう」


「ではゼム、何か用か?エルフは全員で森を切り開いて家や畑を整えている筈じゃなかったのか?」


 いつまでも遺跡で寝泊まりしているのは肩身が狭いと常々思っているエルフ達は、猫の手も借りたいくらいに家を建てるのを急務にしている筈である。


「衰えた老骨は無理をするなと若い奴等がいうものでな。暇を持て余していますとこよ」


(んな事言って、実際は監視だろうね)


 ゼムは陽気に「ッホッホッホ」と笑っているが、愛用の長弓は左手に握られていざという時にはすぐさま弓を引けるようにしている。ゼムは黒蛇百足を一撃で殺す魔法の使い手だ。エルフの中で真っ向勝負して手傷を負わせられる可能性が最も高い存在、クトセインは当然警戒している。


「暇か、暇なのか。俺も暇でな。どうせだから魔法を教えてくれないか」


「……使えないのですかな?」


 一瞬だけ探るような目になったが、元の好々爺のような雰囲気に戻った。


「逆に聞くが、生まれた時から使えるモノか?」


「そうですな、知らねば誰も使えますまい」


「そういうことだ。教えられる奴などいなかったからな。丁度良いと思ってな」


 意地悪くクトセインは嗤う。選択肢は2つに1つ。多少は信用したが、未だに不信感がある相手に魔法という新しい牙を与えるか、与えずに機嫌を損なうか。しかも、その選択は自分だけでしなければならない。その選択で起きる不利益は全てが自分だけの責任であり、言い逃れのしようがない。


「無理に、とまでは言わんが」


 口の両端を更に吊り上げてクトセインは嗤う。さっさと決めろと言外ににおわせて急かす。


「ッホッホッホ、ではクトセイン殿にご教授しようとしましょうか」


 ゼムはどちらに転がろうがろうが厄介な事になると考えて、エルフ全体を巻き込む事にした。おそらく自分が断っても、別の誰かにおはちが回るだけだ。それならば最初である自分が人身御供になれば済む話しだ。


「では、まず魔法を使うのに魔力が必要というのは知っておりますかな?」


 クトセインが黙って頷くの見て、ゼムは続ける。


「魔法は魔力を使って起こす事を指す概念です。生きとし生きるあらゆる者が魔力を持っており、そのほとんどが無意識に魔法を使っております」


「無意識だと?」


「ええ、無意識ですのでまず意識できませんが、ほとんどの生き物が身体能力の強化を使って生活しているのが普通です。ですので、身体能力の強さは無意識に使っている強化によって変わると言っても過言ではありません。見た目に不釣り合いな怪力を誇る者のほとんどは、強化に魔力を割いていると考えてよろしいでしょう」


「成る程な、しかし、俺が知りたいのはソレではないと解っているのではないか?」


「重要な事です。意識して使えるのは、無意識に使っていない魔力の残りになります。ソレを知らずに魔力を使い過ぎると無意識に使っている分にまで手を出してしまって場合によっては日常生活に支障が出てきてしまいます。それが魔法の練習で村に近い場所ならいいのですが、もしも魔物の前ですと簡単に殺されてしまいます」


「危険ラインは判るのか?」


「ええ、使いすぎますと体が重くなったように感じます。そう感じた時には既に無意識に使っている分に手を出してしまっているので、魔法は打ち止めと考えてよろしいかと。

 肝心の魔法ですが、大別しますと肉体魔法と放出魔法に別れます。肉体魔法は自身の体内で完結している魔法を指し、放出魔法は体外で魔法を起こすのを指します。一般的な認識では、放出魔法の方しか魔法と言いません。解り易く、肉体魔法と違って人を選ぶ物ですから。

 肉体魔法は一時的な強化や、動作を魔法でさせるのが主です」


「動作を魔法でさせる?」


「ええ、動作を自分に強制させるのです。利点としてましては、体が本調子でなくとも安定した動きができたりします。ボウムの大斬破がコレにあたります。

 放出魔法は水を出したり、風や火を起こしたりするのが主です。放出魔法は肉体魔法と違って、魔力を放出する才覚が必要です。尤も、これはあくまで体の外に出せる効率ですのでまったく無い限りは使えます」


「才覚はやっぱり個人差があるものなのか?」


「あります。ボウムはエルフだというのに才覚がまったくないので、放出魔法を使いません。エルフは魔力を放出する才覚がある種族ですので、放出魔法は十八番なのですが……」


「個人の事情などどうでもいい。で、才覚はどうしようもないとして、魔法を使うコツとかはあるのか」


「肉体魔法にしても放出魔法にしても、重要なのはイメージです。イメージが明確であれば、魔法もまたハッキリとした形になり消費も少なくなります。イメージの補助として詠唱をしたり、技名を付けてそれを言うなどの方法がよく行われます。詠唱にしても技名にしてもイメージを明確にすべきモノですので、自分にとって解り易いするのが一般的となっています。

 基本的には詠唱したほうが強力ですが、肉体魔法ではイメージを明確にしすぎて威力や速さがイメージを明確にした時期のままでそれ以上強くできないこともあります。またボウムですが、大斬破がその例になりますな。技名を言わない方が速く、重い一撃になっておりますから。

 魔法の注意点としてましては、自然に起きない事は起こせないという点です。死者蘇生の魔法など存在しませんし、傷の治りを速くできても無くなった手を生やす事はできません」


「逆に言えば、自然で起きる事は魔法で起こせるということか?」


「そう思っていただいて間違いありません。魔力さえ足りれば、天変地異を起こせるでしょう」


「しかしだ。お前は雷を矢の代わりに射ったな。自然であればあのような事は起きない筈だが?」


「魔法で起こせるのは自然現象だけですが、ある程度は操れます。雷を直進させるだけという風に。

 操る場合は当然ですが、必要とされる魔力もイメージも多くなります。他にも、自然とは違う動きをさせようとすればする程に魔力が必要です」


 魔法は魔力を燃料に起こす現象。

 無意識に魔力は常に強化に使われている。なので使い過ぎると弱くなる。

 魔力は体内で完結させるか、体外に放出するかで別けられている。

 放出する方は才覚が必要。ただし、まったく使えない訳ではない。

 魔法で重要なのはイメージ。詠唱や技名はイメージを補完する為のモノ。

 消費もイメージによって抑えられる。

 魔法で起こせるのは自然現象のみ。

 魔法は操作できるが、その分必要とされる魔力とイメージが多くなる。自然に反すれば更に多くなる。


「結局、一番重要なのは魔力量ということか」


 教えて貰った事を反芻して行き着いたのは簡単な答え。


「あり体に言ってしまえばそうなりますな」


 髭を撫でながらゼムもその答えを肯定する。かつて自分も同じ答えに行き着き、色々と無茶をした事を懐かしんでいた。


「やはり、増やす方法は研究されているのか?」


「簡単な方法が実証されておりますゆえ、今は楽して魔力量を増やそうとする研究は人間の間では研究されていると風の噂で聞いたぐらいですな」


「簡単な方法?」


「簡単な方法です。魔力を持った生き物を殺せば、その持っていた魔力を奪えます」


「これはまた、簡単で判り易い方法だな」


「尤も、余程魔力量に差がなければすぐに強くなったと感じられませんし、1日で増やし過ぎると魔力酔いと言われる症状がでてしまいます。そもそも、魔力の多い魔物程強い傾向にありますので、相応の実力がなければまず狩れません」


「方法は簡単だが、実行は難しいと言ったところか。

 魔力量を量る方法とかはあるのか?」


「正確に量る方法などございません。肉体魔術では判断が難しく、放出魔術では才覚で消費が変わってしまうので、基準自体が決められておりません。

 まあ、誰も基準を必要としてないからというのが実情ですな」


 そもそも、個数以外で数値化自体は基準を設けなければ数値にできない。しかし、誰もその基準を必要としないのでもの好きでなければ作ろうとはしないのだ。


「それは人間も同じか?」


「…それは判りかねます。寿命が短いからか進歩は速いので。

 少なくとも、この間までは狩人組合ではそのような話は聞きませんでした」


「狩人組合?」


「狩人組合は国営で魔物の情報の共有や、問題になっている魔物の狩りをするのを斡旋している人間の組織です。一応は人間以外でも利用できるようになっています。

 なにかと情報が集まる場所です。尤も、合っている保証はありませんが……」


「ほぉ~、昔はそこで幅を利かせていたか、ゼムよ?」


「まあ、それなりには」


「さて、今日は魔法に関する情報はためになった。褒美を取らせてやってもいいが、どうする?」


「ッホッホッホ、ためになったと言うのなら悪い気はなりませんな。褒美なら、今度村に家畜を入れる際に運ぶを手伝ってもらえると皆が喜びます」


「それがお前への褒美でいいのか?」


「ええ、それで結構です」


「了承した。せいぜい多くの家畜を買いつけておくのだな」


「それでは、そのようにしておきます」


 2人は笑うと、日が暮れてきたので遺跡の屋根から降りるのだった。

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