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魔王で蟲の王  作者: カナリヤ
始まりと四将獣編
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賢亀フォア

 賢亀のフォア。ベルと同様に人間とは―――魔物にしてはとの前述が必要であるが―――友好的である。

 どの四将獣もそうであるが、その巨体はそれだけで力であり、そこに分厚い皮膚と甲羅によって護りを固めているフォアは『歩く岩塊』とも呼ばれる存在だ。

 戦う為の牙や爪を持たないので攻撃性には欠けるが、それを補って有り余る防御性を持っているのがフォアであった。

 生き残る。その点に関して言えば、間違いなくフォアは四将獣の中でも秀でていた。


 大会を無事に終えたクトセイン達は、そのフォアを狩るべく行動していた。

 大会の優勝賞金で懐が随分と膨らんだので、色々と入用なものを買い替えたりとしたが、大会に出てこれといって何かが変わったとう事は無かった。

 気になる事があったとすれば、負けたヴァランセ達が何かから逃げるように足早に闘技場から去ったくらいであろう。


 怪我など一切しない完勝もすれば、多少なりとも浮かれるべきであろう。しかし、クトセイン達にそいった空気にはならなかった。

 勝って当然の相手。ヴァランセ達に対する大会での認識などその程度であった。ルールなどあってないような大会であっても、人数制限と隠れる場所の無い舞台はお行儀よく一対一をするのには御誂え向きであった。


 そんな場所で戦えば、地力からして格下の相手に負けるなど余程手を抜かなければ無い。わざわざ一対一の形になるようにお膳立てもしたのだから、自分の相手を一方的に倒しても当然という空気すら流れた。


 可もなく不可もなく、対人戦の経験ができたくらいが大会で得たものであろう。


――――――


 フォアが住む場所は湖が近くにある森である。フォアは水生の亀ではなく、陸生の亀に近い水陸両用という変わった亀の魔物である。

 これまで食事を目にした者はいないが食性は雑食であろうと予想され、甲羅と分厚い皮膚による竜系の魔物に匹敵する守りから挑んだ狩人は少ない。性格は穏やかであり、喋り方と声から雌とされている。


 これが現状でのフォアの情報である。四将獣クラスになると、力の差から番いが可能かすら怪しいので、性別の情報は蛇足のように思えるのだが。

 そうだとしても、その情報を元に多少なりとも対策を考えなければならないのだ。と言っても、クトセイン達の答えはほぼ決まっていたのだが。


 『轟雷弓』。ヲロフェリ、ラゴンド、マデルの3人の協力で発動させるこの放出魔法は、コールを倒した実績がある。雷を矢として撃ち出すので、大抵の魔物はその肉を焼き食い破られて致命傷を負う。

 もうこれ一個でいいんじゃないのかと思うくらいに、『轟雷弓』は強力な放出魔法である。


 しかし、どれほど強力であろうと中らなければ意味が無い。威力だけでなく速度も申し分のない『轟雷弓』でも絶対に避けれない訳ではない。直線的な動きは見切り易く、射手たるマデルはどちらかと言うと大雑把な性格なので狙いも甘い。

 その2点から、『轟雷弓』は知恵ある者なら避けるのは十分可能なのだ。


 尤も、フォアになら避けられる心配は皆無であった。亀は元々鈍重で、水生の亀なら水中では見た目よりも速かったりするが、陸上なら水生陸生関係無しに動きは鈍い。

 これまで狩られなかったという事実を見れば、亀は動きが鈍いとの常識を捨てて掛かるべきかもしれない。そうであったとしても、初手が『轟雷弓』になるのは変わらないが。


――――――


 そこは穏やかな雰囲気が流れている場所であった。魔物が蔓延る街の外では、そんな雰囲気など錯覚か余程の手練れが集団で動いての慢心からくるような良い物などではない。

 その穏やかな雰囲気の中心にいるのは、四将獣賢亀のフォアであった。

 獣道と言うには―――フォアによって―――しっかりと踏み均された道をゆっくりとしたペースで歩くその姿は、無防備極まりないのと同時に平和さを彷彿させる絵になっている。


 ソレを見て、ヴェラビは一瞬だが躊躇った。コールとベルは問答無用で襲い掛かってきたが、フォアは情報通りに穏やかな性格なのは見て取れた。

 人畜ではないが、その無害さを端的に見れば狩るべきか?との疑問が頭の中で一巡した。そう、一巡はした。しかしそれだけであった。


 既に四将獣を狩ると決めているのだ。土壇場になってやっぱりやめますなど言える覚悟ではない。命も賭けられないそんな半端な覚悟であったのなら、魔王討伐の旅に出る事すらできなかったであろう。

 それに、四将獣は確認されている魔物で最強の一角に数えられているが、それすらも統べるであろう魔王に何時かは挑む事になるのだこんな所で尻込みなどしていられる訳が無い。


 視線を仲間と交わしてからヴェラビは隠れていた木陰から飛び出して、一直線にフォアに向かって駆け出す。『轟雷弓』を撃つヲロフェリ、ラゴンド、マデルの3人と補助として存在の隠蔽をするバドー以外は、フォアをなるべくその場に釘付けにする役割を担っている。


 「倒せるのなら倒してもいい」とも言われて、そのつもりはあるのだがフォアは単独では倒せないのではないかと思えるくらいに大きい。その大きさも厄介ではあるが、情報通りの防御に適した体の方が厄介であった。

 硬い甲羅は論ずるまでもなく刃物とは相性が悪く、甲羅以外の場所である皮膚も歳が歳だからか伸びきって弛んでいる。弛みのある皮膚は、動くことでコールの鱗ほどではないが衝撃を周りに伝播させて軽減させる。基本的に、魔物相手に使う刃物は叩き切るのを主眼に置かれているので、衝撃を逃がされてしまうと斬れないのはよくある事だ。


 それだけでなく、フォアの皮膚は弾力に富んでいた。切ろうとしてもゴムのように変形して張った状態でなければ斬りにくいとい特性は弛んでるとの状態と相乗効果によって打撃にも斬撃にも高い水準で防御性能を発揮する。

 これは厄介とは一言で済ませられる物ではない。針なら刺さりそうであるが、そんな極小な点攻撃は正確に急所を狙わねば意味が無いし、針など持っている仲間はいない。


 直接斬りつけて実感したヴェラビは、すぐに攻撃方法を放出魔法に切り替える。


「敵焼く灼熱、我が剣包み、触れし者を区別無く焼き葬れ!」


 剣に炎を纏わせて、再度ヴェラビは斬り付ける。通常の斬撃に加えての熱攻撃は無視できるようなものではない。流石に大輪血華のように燃え上がりはしないであろうが、ある程度はその威力を期待できる。

 しかし、フォアはその攻撃を受けても悠然と立っているだけであった。長い年月をそこで過ごした、岩山のように……


「まったく、気概はあるけど礼儀知らずな連中が来たもんだねぇ……」


 老婆のようなしゃがれた声で喋りながら、フォアはゆっくりと頭を動かす。その声で、ふとコールが言った言葉が脳裏を過った。


―――キザにババア、それとアイツはまだ生きているのか―――


 特に振り返りもしなかった言葉であったが、ベルがどこかキザぽかった気がしなくも無いのであの時の言葉は他の四将獣を指したものだと思い当たった。尤も、フォアはババアではなく婆さんと言うべきように思えたが。


「攻撃してきたんだ、そのまま帰れるなんて思ってないだろう」


 踏み潰そうと持ち上げられた足は見た目通りに緩慢な動き。避けるだけなら何も苦労はしないだろうという攻撃を見て、ヴェラビは大きく距離を取る。動きが見た目通りなら、その攻撃力も見た目通りであろう。

 動きが遅くても、重量があればぶつかった時の衝撃力は計り知れない。遅い攻撃ならギリギリで避けれるだろうと高をくくって、自分の首をくくったのと同じ結末を迎える狩人は少なくない。


 様子見を兼て大きく避けたヴェラビは、足を降ろされた地面に亀裂が入ったのを見て目を見開く。速さだけでは測れないその威力に、近くにいただけでもアウトなのは明らかであった。

 直接的な戦果を上げなくと構わない役割であったが、流石に『轟雷弓』を中てても倒せないのではないかとの懸念が胸に広がった。


 質量によってもたらされたその破壊は、中れば必殺のように見える。その必殺を繰り出す身体がどれだけタフかを考えると、コールのように頭を吹き飛ばすなどできないかもしれない。平気な顔をして耐え切るその姿を容易に想像できた。


「…憶えよ、我が剣速」


 ヴェラビの放出魔法は剣を起点にした物がほとんどだ。放出魔法と言っても、剣に炎を纏わせるなどといった付加が基本にして実際の攻撃は剣による斬撃が主だ。

 そうしたスタイルになっているのは、どれだけ大型の魔物でも出血は無視できるものではないのと、磨き上げた剣術に信頼があるからだ。


ほうするはただ一点」


 今迄の鍛練によって剣を介しての放出魔法が普通になったヴェラビは、剣が放出魔法を使う重要な要因となった。それは剣に関係する放出魔法に特化するということで、逆に言えば剣を使わない放出魔法が苦手になったということでもある。

 故にヴェラビは使えそうな剣を使った放出魔法を貪欲に集めた。自分が1から組み上げるより簡単と言うのもあるが、何よりも理論など考えずにそういうものと捉える事で段階を踏まずに放出魔法として使える。


「鎌居断!」


そして、魔法に関してなら真似に忌避感を持っていなかった。真似に忌避感は無くとも、自分用に最適化は必ずするのも付け加えておこう。

 スティルトンの放出魔法である『鎌居断』は剣が感じた風を一瞬で放ってカマイタチを発生させる。ヴェラビはそれを改造して、剣先の一点から放つようにしてさながら針で刺すような魔法にした。一点集中にしたことで貫通力が増し、フォアの皮膚に穴を開ける。


「ほぉ」


 僅かに付けられた傷にフォアは感心したように声を漏らす。この地に居を構えてから、ただの一度も皮膚にすら傷を付けられていない。ヴェラビが初めて傷を付けたのだ。


 開けられた穴を取っ掛かりにされて、更に傷を広げられてもフォアは悠然とした構えを崩さない。確かに皮膚に穴が開いたが、それではフォアの命までまだまだ遠い。再生させようと思えば一瞬で元に戻ってしまうかすり傷程度でしかない。


 それでも傷を付けたのは間違いない。その行いに敬意を表して、フォアは自身の鎧を披露する。


 ドロリと粘着性の高そうな液体がフォアの体から滲み出す。ソレがよくないモノだと判っていても、止める手立てが無ければただ見ているだけしかできない。


「敵焼く灼熱、我が剣包み、触れし者を区別無く焼き葬れ!」


 液体なら蒸発させられるだろうと、ヴェラビは再び炎を剣に灯らせる。開けられた僅かな可能性を広げるべく、再度傷口に剣を突き立てる。

 だが、それは出来なかった。フォアの体より排出された粘液が剣に絡みついて威力の大半を飲み込んでしまう。その状態で無理に押し込んでも、元より叩き切るのを前提にされているヴェラビの剣では大したダメージは見込めなかった。


 さらに上がった防御性に、ここで詰みかと思えた。その空気を察したのか、轟音を上げて矢が射出される。

 『轟雷弓』。それなら全ての防御を一度に平らげて、フォアを一撃で殺せるとの確信があった。

 突然の矢にフォアは反応する事も無く矢が喰らい付く。

 勝った。誰もがそう思った。


「今のは良かったよ…。だけど、液の鎧とあたし自身を倒すのには威力不足だねぇ……」


 最初の時となんら変わらずに、フォアはそこに悠然と佇んでいた。

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