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魔王で蟲の王  作者: カナリヤ
蟲の森編
25/49

話し合い

「花の王?植物の王じゃねえのかよ」


 魔物の種族は、竜、水、鳥、虫、夢、獣、植物に分けられている。当然、魔王はそれぞれの種族の王と名乗った。ヲロフェリ以外は。それが気になったトービスは、隣に座っていたのもあってすぐさま突っ込む。


「だって~、植物の王だと~、1人だけ語呂が違うよ~」


 植物の王と名乗ると、他の魔王は2、3文字なのに対して、1人だけ5文字になる。別に悪い事ではないが、やはり1人だけ違うというのは気になるものだ。


「ところでさ~、この集会って意味あるの~?」


 コテンッと、頭を丸テーブルに乗せながらつまらなさそうに言う。


「同程度の力を持つ者同士での顔合わせだ。お互いに顔を知っていれば、無用な問題も避けられよう」


 ラゴンドの言葉に、ヲロフェリ以外がうなづく。無論建前だが、全員がその理由で集まったのだ。しかし、本来の目的は存在を知る事で、互いに牽制しあうことだ。


 生物において最大の難敵は同種になる。ほぼ全てが同じ同種は、敵にするとなると非常にやりにくい。

 なにせ多少の違いがあるにしても、圧倒しもされもしない。勝てないわけでも、負けないわけでもない。勝敗がつくなら、確実に満身創痍になりかねない。勝てば相応の旨みがあるわけだが、その勝敗が完全に五分ともなれば迷ってしまう。


 唯一の魔王となるか、それとも現状維持でいくか。


 そういった迷いが生まれても、思いとどませる要因を作るのがこの集会だ。

 自分以外の魔王を敵に回してまでやる価値があるかどうか。本当に勝てるかどうか。

 そういった疑念を生じさせ、自分の意思で諦めさせる。そうして、魔王の間は平和にしようというのが、ラゴンドの考えだ。


「じゃあ~、もう帰ってもいい~?」


 もう終わったんでしょ?そう続けて、ヲロフェリは大きくあくびをする。


「折角の機会だぞ? 話し合う事もあろう」


 絵面は孫を窘める祖父のようたが、ラゴンドは厳格な雰囲気は漂わしている。


「来るのもめんどくさかったんだも~ん。早くねた~い」


 来るのもめんどくさかったと言うが、ヲロフェリは引っ張られて来たクチだ。

 ラゴンドが魔境に現れるまでは何をするでもなく、植物らしく大輪の花を咲かせて日光浴をしているだけだったのを無理矢理に連れて来たのだ。その際に一悶着があったが、それはべつの機会に語られるだろう。


「話し合うっていうけどさ~、なにを話し合うの~?

 勇者をころすの~?」


 笑いながら、ヲロフェリは冗談めかして提案する。

 勇者とは、かつていた魔王を殺した人間。流石に当人は死んではいるが、その子孫は勇者を称号として襲名しており、人間を取りまとめている。実質上、人間の王だ。尤も、絶対命令は現在の勇者は持っていないようだが。


 その勇者が住まう城がある場所は、首都ヴィゼルニア。魔王が集ったこの街だ。


「そんな何時でも出来る事など、話し合う意味すら無かろう」


 所詮は人間だと、ラゴンドは歯牙にもかけない様子で言う。

 勇者は幼い頃から鍛えているらしいが、飲まず食わずに眠らずで何日も戦える訳ではなく、同族に助けられようとも数でも質でも上の軍勢を揃えられる。

 魔王であれば、個人だろうと集団だろうと普通に勝てる。


「そうだけどね~」


「そうだな」


「確かにそうね」


「確かにな」


「まあ、当然だね」


「そんくらい出来て当然さね」


 全員が全員ラゴンドの言葉に頷く。本気を出せば同じ魔王以外にはまず遅れを取らない。

 尤も、プライドが邪魔をするなどして本気が出せなければ、魔王以外にも敗れる可能性が無い訳ではない。


「そんなどうでもいい事は置いといて、発言いいか?」


 誰も魔王のいない人間を歯牙にもかけないので、クトセインは取り仕切っているラゴンドに発言の許可を得ようと発言する。


「よかろう、蟲の王よ」


「実は、やりたい事がある。そこで協力して欲しい訳だ」


 文句を言おうとしたトービスとヲロフェリを手で制止ながら、クトセインは続ける。


「なに、別に難しい事ではない。俺が魔境に出入りするのを黙認して欲しいだけだ」


「目的を聞かせてもらおうか」


 何やら凄味が増したラゴンドの質問に、クトセインは淡々と答える。


「他の魔境にいる虫がどんなのかを直接見て回りたいだけだ。

 勿論、魔境を荒らすつもりなどない。黙認してくれるなら、蟲の森に来たときはこちらも黙認しよう」


 あくまで対等な条件をクトセインは出した。謙る必要も、偉そうにする必要もない。

 なにを考えていようが、この場にいる全員が平等なのだ。体格差や、性差などなんら意味をなさない。同じ魔王である、その一点さえあればそれだけで対等には十分すぎる。


「わたしはいいよ~」


「私もいいわよ」


「アタイも構わないよ」


 女性陣はすぐに返事をしたが、男性陣は少し考えているようであった。果たして、クトセインの言葉は嘘か真か。そこが気がかりであるのだ。

 特に、一番最初に他の魔王に喧嘩を売ったラゴンドは真剣であった。喧嘩を売ったラウェティはサバサバしている性格で、既にラゴンドの事を許している。


 しかし、他の魔王の胸の内など解らない。傍目には特に警戒などされていないが、それだけで何も無いだとと速断もいいところだ。穿った見方ではあるかもしれないが、クトセインの提案はどれだけの戦力を持っているかを見に来るのかもしれない。


 今日会ったばかりの他人の心など、早々図り切れるモノではない。


「来るのは構いやしねえが、勝手に凍死しても知らねえぞ」


 来るくらいならいいだろうとして、トービスも許可を出す。


「まあ、いいさ」


 行こうと思えば大抵の場所に行ける虫を入れないなんて不可能なので、隠れて侵入されるよりも堂々と出入りされた方が監視なりしやすいとして、バドーも許可を出す。

 これで、許可を出していないのはラゴンドだけになった。


「いっそのこと、全員で、魔境巡りにでも洒落込むってどうだい?」


 ただでさえ老人ということで顔の皺が多いのに、考え込んで更に皺を増やしているラゴンドを見かねてラウェティは妥協できそうな案を出した。

 ラウェティはラゴンドと殺し合いをした仲だが、傲慢で自尊心が高くて考えすぎる人物であるくらいは理解している。


 己が魔王で最強と傲慢にも思い込んで他の魔王を襲撃。自尊心の高さから未だに謝っていない。事態を楽観視できないから、魔王の集会なんて開いた。

 巻き込まれた方からすれば面倒ではあるが、やすやすと頭を下げられないのは解らなくもない。


 嫌なことなどとっくに水に流しているラウェティは、助け舟を出すくらいなら吝かで無い。


「…全員でというのは、お互いに都合が良いであろうな」


「俺はそれでも構わない」


 直接に虫さえ見れればそれでいいクトセインは、了承の意を示す。


「全員での魔境巡りは少し日を置いてから行うとして、この場で何か話しておきたい事がある者はいるか?」


 ラゴンドの言葉に全員が首を横に振る。ほとんどが魔王が集まる折角の機会だから、顔を見ておくのも悪くないだろうとの理由で参加したのだ。有り体に言ってしまえば、誰もが暇だったのだ。


「それでは、解散のその前に、皆に渡しておくものがある」


 ラゴンドがそう言って出したのは、6個の金属製の手に乗る程度の小さな箱であった。


「これは鍛鉄の一族と知られるドワーフに作らせた箱だ。

 中に声石せいせきと呼ばれると特殊な石が入れられている。それによって、魔力を込めればどれだけ離れていようと、対になっている石を持っている相手と話ができる」


「対になっているって、つまりは、1人としか話ができないって事かい?」


 物珍しげにラウェティは、小箱を手に取って鑑賞しながら質問する。箱は頑丈そうな鉛色で、ラウェティが手に取った箱には魚の絵が浮き彫りにされていた。


「本来ならばそうなる。しかし、これは特別だ。

 その事を説明するには、声石の特性を教えておこう。声石は魔力を込めれば声を伝える性質がある。原石であればなんら意味の無い性質だが、加工して切り離してもその性質は損なわれない。

 2つ以上に別ければ、声を別の場所に声を届けることができる道具になる。それと性質はもう1つ。対になると言った理由になる性質になるが、同じ原石から削り出された石にしか伝えない性質だからだ。

 そして、声石は希少な鉱物だ。原石でも小石程度あればマシと言える程だ。そうなれば、2つに別けるのが限界だ。

 だが、これは声石にしては特大の原石によって作られている。どの箱も同じ原石から削り出された声石が入れられている」


(うわぁ……)


 ラゴンドの箱の説明にクトセインは頭痛がした。

 なにせ自身が作った虫である共振虫とまったく同じ能力である。魔力量を削ってまで作った虫は、自然に存在する鉱物の下位互換に近い。

 声石は希少なのだから、手に入れるのは難しいので用意なんてできなかったであろう。それでも、やはり必要無かったのではないかと考えてしまう。


「これさえあれば、連絡が簡単に取れるって訳か。まあ、良い物だね」


 バドーも1つ箱を手に取って、マジマジと鑑賞する。


「言っておくが、既にそれぞれどの箱を持つかが決まっている。浮き彫りにされている絵が、それぞれの統べる種族の絵になっている」


「確かに1つ1つ絵が違うみたいだな」


 彫られている絵は、魚、鳥、狼、木、カマキリ、よくわからないナニカとなっている。


「ちょっと、私のだけ変よ」


 靄のような絵を指差しながら、マデルはそれを持ち出したラゴンドに抗議する。


「仕方なかろう、夢系の魔物はカタチが在って無い。代表とも言える魔物もおるまい」


「いや、確かにそうなんでしょうけど……」


 改めて、マデルは浮き彫りにされているよくわからないナニカを見る。

 夢系の魔物は不定形だ。他の魔物とは違った特殊な生まれ方で一応は形もあるのだが、本質はそうではない。


 そこに在ってそこに無い。そうとしか言い表せない夢現ゆめうつつのような存在だ。

 そんなモノに定型の絵を付ける訳にもいかずに、わからないナニカとしか思えない絵になったのだろう。おそらく、彫った本人ですかナニカを答えられないであろう。


「それでは、誰を乗せて行くかを決めて解散をするとしよう」


 飛んだ方が圧倒的に速いので、ラゴンドとバドーが誰を乗せて行くかを決める。奇数なので、必ずどちらかが1人分多くなるのでその配分を決めるのだ。


「ちょっと待って~」


 その話し合いをする前に、ヲロフェリが待ったを掛ける。


「わたし~、このまま蟲の森にいくから~」


「…は?」

誤字脱字、意見などをお待ちしています。


次に閑話が少し入ってから、新章に入ります。

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