表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王で蟲の王  作者: カナリヤ
蟲の森編
24/49

魔王の集会

 マデルが騒がしいから何事かと思って遺跡からでたら、蟲の王と鳥の王が殺し合っていた。マデルからすればなにをやらかしているであったが、まさかそのままにする訳にもいかずに止めに入った。が、あっさりと止めたのだから拍子抜けもいいところだ。


 最悪、三つ巴の戦いになるかもしれないと覚悟していただけに、尚更である。そんなあっさり止めるなら、初めから戦うなとすら思えた。

 だが、あっさり止めた理由がマデルも解らない訳ではない。どちらから仕掛けたとかは置いといて、戦い始めて途中で自分から止める提案などできなかったからだろう。


 先に言い出せば、その時点で自分の方が弱いと言ったと同然になる。そんなのは王としてまず認める訳にはいかないのだ。少なからず種族の王として自覚があるなら、そうしてしまうと自身と率いる種族が侮られる。ましてや、これから魔王の集会があるなら尚更だ。


 かといって、勝って殺してしまうのもまずいのだ。殺した者の魔力を奪えるのは世界の法則で、魔王とて例外ではないだろう。

 ならば、勝ち残ったほうは単純に考えて魔王2人分の強さになる。そうなってしまえば後は魔王同士で殺し合いの未来が残るばかりだ。何せ勝ち残った方は既に魔王殺しをやった後だ。もうやらないという保証はどこにもない。


 ならば殺される前に殺すしかない。魔王は全員が同程度の力を持っていると予想されているから、集会をやれるのだ。パワーバランスが均一であるから、平和的に話し合いをするという選択肢が出てきたのだ。


 崩れてしまえばもう元には戻らない。なぜなら、殺した者の魔力を奪えるとの法則で危険な魔王となった者にトドメを刺した者が新たな危険な魔王になってしまう。恐らく、それは魔王が1人になるまで続けられるであろう。


 クトセインとバドーもそれは解っている。だから、同じ魔王であるマデルがすぐ近くにいる状況で戦った。あわよくば、自分が有利な状況で止めに入ればいいと思いながら。

 どちらもまいったと言わないのなら、殺し合いで双方が生き残るには第3者の介入しかない。


 その辺にいる魔物であったのなら、言い訳として非常に弱いが、マデルは魔王だ。殺し合いをしていて消耗していたなどの理由も含めて、大人しく止めた言い訳としては十分すぎる。


「まったく、殺し合いしてたなんて他の魔王に知られたら目を付けられるわよ」


「目を付けられたって問題ないさ」


「まあ、その時はその時だ」


 もはや布きれになっていた服を着替えがらも返事をする。

 殺し合いをしていたのは事実であるので、2人とも知られたらそれは仕方ないとマデルの苦言を流す。殺す気で戦ってはいたが、最初からきっちりと決着が着くなど2人とも思ってはいなかった。


「……まあいいわ。それより、まずは自己紹介をしておきましょう。

 私は夢幻域の魔王にして、夢の王のマデル」


「僕は鳥樹の魔王にして鳥の王、バドーさ」


「それじゃあ、早速で悪いけど貴男には私たちを乗せて飛んでもらうけどいいわね?」


「わかっているさ、あらましは竜の王から聞いているから目的地まで一っ飛び、と行きたいんだけどねぇ……」


 ここにきてバドーは済まなそうに口ごもる。


「なにか問題があるの?」


「そいつにやられたのが結構痛手でね。しかも、羽を抜くなんて暴挙もやってくれたから……」


 そう言って見せたバドーの背中にある地肌の部分を見せる。そこは赤く腫れており、羽の色とのコントラストが痛ましさを倍増させている。


「……」


「いや、肉体魔法で治せばいいだろう」


 マデルに批判的な目線で射抜かれたクトセインは、なんでやらないとバドーに目を向ける。


「……ああ、アレか」


 返事をするまでの微妙な間、それは2人にバドーが肉体魔法がなんなのかを知らないと悟らせるのは十分であった。待ってても腫れはひかないし、新しい羽が生えなければ確信するのも当然というものだ。


 仕方なく、マデルとクトセインは内緒話を始める。


(ちょっと、貴男が怪我させたんだから、バドーに肉体魔法を教えてあげなさいよ)


(俺からすれば、放出魔法を使えるのに、肉体魔法を使えないのがありえないんだが。てか、さっきまで殺し合ってた奴に教えられてもやる気になるか?)


(…それもそうね)


 魔法を教えると言っても、言わば概念を教えるだけだ。手間はほとんどない。そもそも、自身の完全な状態さえ想像できれば、肉体魔法での治療は強化に次いで比較的簡単にできる。

 ただ、知ったかぶりをしているバドーに教えるのが少し気まずいのだ。


――――――


「さ、寒い……」


 バドーが身体を完治させ、当初の予定通りにバドーに乗せてもらって目的地に飛んでいる途中、クトセインは声を震わせながらそうこぼした。


 なにせバドー程の巨鳥が低空を飛んでいれば騒ぎになるので、竜巻が起きようともバドーは平然と飛べるのにわざわざ高い位置を飛んでいる。そのせいで、気温が低い上に羽の下に潜れないからしがみ付くような恰好で強風をその身で受けているのだ。


「そう?」


 それに対して、マデルは平気そうであった。


「種族の差、かしら?」


 自身とクトセインの幾つかの差を考慮し、マデルは最大の違いを指摘する。


「そう…かもな。寒さに…強い…虫を少なくとも…俺は知らない」


「ちょ、ちょっとぉ!? 大丈夫なの!?」


 ぶつ切りになるクトセインの言葉に、マデルは急に心配になる。滅多な事では死なないだろうとあたりを付けてはいるが、その言動は本当に寒そうである。


「大…丈夫…だ。ホン…トにヤバい…と、感…覚がなくなる…らしい…からな。ま…だ感…覚はある…その所…為で寒…いと感…じるんだが……」


 寒さが痛みにすらクトセインは感じれていたが、あえてクトセインは言わなかった。少なくとも、感覚が残っている内はまだ持ち直せる自信はあり、心配など無用であった。


 しかし、明らかにしゃべり方が大丈夫そうではない。そんなのでは逆効果にしかならない。


「こ、こうときは暖を取らせるべき……だったはず」


 様々な状況に対応できるようにと、夢幻域から出る前に教えられた知識を自信なさげに実行しようとして、マデルの動きは止まった。


(どうやって、暖を取らせばいいの……?)


 最初は放出魔法で火でも起こせばいいと思ったが、やったとしても無駄そうである。手のひらサイズの火ではあまり暖を取れそうにない。かといって、人様の背中で特大の火の玉などで出すのもどうかと思えた。


(毛布なんて持ってないし…)


 火が駄目なら、暖まりやすいように厚着されば良いとの答えに行き着いたが、肝心な必要なものがない。


(強風さえ防げば、多少はマシになるわよね?)


 何もしないよりはマシだろうと、マデルは紫の半透明の手を出す。この『手』は、クトセインが体の一部を虫に変えれるとの同じで、マデルが体の一部を変えたものだ。そのため、放出魔法ではなく正真正銘マデルの一部だ。


 それで風よけ代わりにクトセインを包み込む。その効果は劇的であった。

 寒さで目を開けているのも億劫になっていたクトセインであったが、強風がいきなり止んだを疑問に思って目を開けた。


「…?……悪いな。なにか礼をした方がいいな」


 冷えた体を治癒の応用ですぐに体温を平常に戻すと、荷物を詰め込んでいる背嚢はいのうの中をまさぐり始める。


「気にしなくていいわよ。私は平気だから」


「ふむ、これをやる」


「壺?」


 背嚢から取り出されたのは何の変哲もない小型の壺。変に特徴がある物を出されても引いてしまうが、中身不明の壺は少々微妙である。


「中身は蜂蜜だ。女は甘い物が好きなんだろ?」


「蜂蜜……」


 壺の中身は、クトセインは蟲の王と改めて意識させる物だった。蜂蜜を得るには、まず自然に営まれている巣を探し、それを採集し、砕いて、蜂蜜を絞り取るという手順が必要になる。


 その方法から、ハチに刺される危険は当然伴う上に、魔物が出るような場所に赴かなければならない。しかも、帰りはハチの巣を持っていくのだから、蜂蜜の匂いにつられて嫌なモノを引き寄せてしまうかもしれないのだ。


 そのせいで、魔境の近くでは殊更貴重品として扱われている。


 だが、クトセインにかかれば簡単に集められる。ハチは絶対命令が効くのだから、巣の場所など簡単に見つけられる上に、すぐさま明け渡させる事もできる。それに、どんな嫌なモノを引き寄せようとも、魔王としての強さからまず大丈夫であろう。


「ありがたく貰っておくわ」


 『手』に隙間を作らせて、そこからマデルは嬉しそうに蜂蜜壺を受け取る。

 女は甘い物が好きというのは偏見じみているが、純粋に甘い物は貴重であるので、虫系の魔物の素材よりかはかなり良い。


――――――


 魔王の集会。その会場はなんの変哲もない―――高級と最初に付く―――宿屋であった。そこで七種族の王が集会を開いているなど、当人達以外は想像だにしないであろう。全員で1つの丸テーブルをイスに座って囲んでいる様は、威圧感すら感じさせるモノがあった。


 全員が揃ったその場を沈黙が支配していたが、1人が立ち上がって全員の注目を集めた。


「さて、まずは初めに魔王の集会に参加してくれたことに礼を言おう。

 名は知れ渡っているであろうが、自己紹介をしておこう。竜山脈の魔王にして、竜の王のラゴンドだ」



 静かに、だが圧しかかるような声で竜の王のラゴンドは名乗った。その姿は、年期を感じさせる皺を深く顔に刻みつけた老人であった。

 白い節くれ立った杖を片手に、厚手のローブを着ているその恰好はどう贔屓目に見ても魔法使いそのもの。

 腹にかかるぐらいまで蓄えられた白い髭、腰まで一直線に伸びる白髪、顔の皺。どれを問っても老人と見るのには十分すぎるものだ。だが、老人だと言うのに、老いは感じさせない覇気があった。


 そう感じさせるのは、老いても曲がっていない腰だろうか。それとも、皺のある顔で鋭い光を持つ眼だろうか。

 その源がなんであれ、ラゴンドがまだまだ現役で戦えると解らせるのには十分であった。

 自己紹介が終わると、ゆっくりと再び腰を下ろした。


「そんじゃ、次はアタイが自己紹介しようじゃないか。

 名前は全員知ってるだろうけど、海湖の魔王にして、水の王のラウェティとはアタイの事さ」


 ラゴンドの隣に座っていた短髪の蒼い髪を持った女性が、ラゴンドと違ってカラカラと笑いながらラゴンドに倣って立って自己紹介をする。

 フリルが螺旋状に付けられていることで、どことなく流れを感じさせる髪と同じ色のドレス。そんなドレスに合わないが上に、自己主張の強いゴーグルがその胸元に鎮座している。

 ハッキリ言えば、なんだその組み合わせはと言いたくなる恰好であった。


 そんな恰好の女性は、一言で言えば大きかった。身長が、胸が、尻が、どこも大きかった。どれもつり合いの取れるの大きさではあるが、先ほどのラゴンドよりも明らかに全てが大きかった。胸など、立つだけで揺れるほどだ。


「それじゃあ、次は僕だね。鳥樹の魔王にして、鳥の王のバドーはこの僕さ」


 次に自己紹介するのは隣の者でいいだろうとして、バドーは羽と同じ紅い色の髪を掻き上げながら立ち上がった。

 その姿は鳥ではなく、人であった。どの魔王も、魔物と人の双方の姿をとれるのだ。そうでなければ、宿屋に集合など到底できなかったであろう。


 バドーの人としての姿は、軽薄そうな顔つきの青年であった。その他の特徴は、肩下12cmまで伸びている髪を束ねているのだが、鳥が飛ぶ時の尾羽のように広がっていることぐらいであろう。


 それと、恰好もなかなか目立っていた。

 どこで調達したか、燕尾服によく似た灰色の地味目な色の服を着こなし、髪をより際立たせている。


「蟲の森の魔王にして、蟲の王のクトセインだ」


 クトセインは、ただ立ち上がって自己紹介するとすぐに座る。


「私は、夢幻域の魔王にして、夢の王のマデル。よろしくね」


 マデルも、妖艶に笑うだけでとどめて自己紹介を終える。


「白銀氷土の魔王にして、獣の王のトービスだ。最初に言っておくが、オレは怒りやすいぞ」


 刺々しい茶色の短髪の大男は、警告を言うと粗々しく再びイスに座る。

 大男と言うだけあって、さっきまで一番背が高かったラウェティよりも頭1つ分は確実に高い。しかも、目を見張るほどの筋肉で体が引き締められている。顔はそこまで怖くはないのだが、その他が明らかに攻撃的なので、見てくれでは明らかに強そうであった。


「最後は~、わたしね~。

 肉食樹林の~、魔王にして~、花の王のヲロフェリ、フェリーって呼んで~」


 最後に名乗ったのは、明らかに他の魔王と比べて異質と言うか、浮いている魔王であった。

 間延びしたしゃべり方もそうだが、問題はその姿であった。一番背が高いトービスの後だから、尚更その姿は解りやすかった。


 ヲロフェリのその姿は、髪が長いだけの少女にしか見えなかった。緑の髪で、三つ編みにして絡み合う蔦のように見える髪型や、目が完全に隠れている前髪も十分に印象的だが、やはり浮いている原因は唯一の子供にしか見えない姿だ。

 来ているのは白いワンピースだと質素かつ子供の服とのイメージが大きい恰好なのも、子供っぽさを引き立てている。


 それに、背が低いのを気にして1人だけイスの上に立ったのも大きい。


 何はともあれ、集った魔王は自己紹介を終えたのだった。

誤字脱字、意見などをお待ちしています。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ