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「聞いているのか!コリンズ!!」
今までより更に1トーン高くなった怒鳴り声に、メアリーはびくりと肩をすくませた。
(いけない。お説教の途中だったんだ)
メアリーは目をぱちぱちさせて、ええ、聞いていましたとも。と言わんばかりの視線を教師に投げ掛ける。
そんなメアリーをじろりと睨みながら、教師は鬱陶しそうに口を開いた。
「とにかく。お前には今月限りで自主退学してもらう。」
メアリーはぎょっとして、目を見開いた。そんな馬鹿な。いつそんな話になっていたというのか。
「そんな、困ります!!私は学院を辞める訳にはいかないんです!!」
焦って、叫ぶように教師に詰め寄る。
「ええい、うるさい!!こっちこそ、落ちこぼれにこれ以上資金の援助をする訳にはいかんのだ!」
「それは、そっちが…学院側が言い出したことじゃないですか!今さら打ち切られても困ります!!」
学院はメアリーの才能を買って、一年前にメアリーの学費を全額免除すると申し入れてきたのだ。そこまでする程に、彼女への期待は大きかったのだ。
だが、いざ育ててみると、とんだ期待外れもいいところ。学院は早々に援助の打ちきりを決定付けた。しかしこれに異を唱える者がいた。学院の理事長である。この理事長、まるで自らが探し回って、あたかも自分がメアリーという原石を発掘したかのように吹聴していたのだ。ここで実はただの変わり種でした。などとは口が裂けても言えない。
そこで理事長は一年を観察期間と称してメアリーを泳がせておき、その期間のうちに彼女が召喚士よりも心惹かれる何かを見つけ、あくまでも自分の意思で、学院の恩恵を蹴って理事長のもとを去っていった。そんなシナリオを用意していたのだ。
全ては理事長の名誉と、自尊心を守るため。一人の少女の夢が潰えようとも、理事長には些細なことであった。
それはこの教師にとっても同じこと。メアリーを苛めて苛めて苛め抜いて、自ら学院を去る道を歩ませれば、理事長に気に入られるだろう。そんな打算的な考えのもとに、指導・説教と銘打った苛めが行われていたのだ。
そんななかで、唯一救われている点といえば、彼女がそこまで深刻に考えていないところだろうか。酷い言葉で罵られても、同級生たちに無視されても。メアリーにはそこまで辛いことではなかった。彼女は、能天気が売りで、能天気をとったら何も残らないというくらいのポジティブな人間だったから。
だが、いかに能天気なメアリーでも、学院を辞めさせられるなんて事態になれば焦ってしまう。
「ええい、うるさい!!これは査問会議にかけられ、理事長も既に承認しているのだ!今さら覆すことなどできん!」
「本人に何の説明もなく、いきなり援助打ちきりで、しかも自主退学しろだなんて…納得出来ません!おかしいですよ!」
顔を真っ赤にさせて唾を飛ばしながら怒鳴る教師。メアリーも、負けじと声を張って睨み付ける。
殺伐とした空気が職員室に満ちる。二人のあまりの鬼気迫った様子に、職員室にいた他の教師はおろおろとするばかり。
そこに職員室の扉をガチャリと開けて、第三者が割り込んだ。
「学院に入って二年目のくせに、犬一匹も満足に召喚できない生徒。退学させるに十分足る素質を持っているだろう。そうは思わないか?ミス・コリンズ」
でっぷりとした体を嫌味な程のお高いスーツで包み、メアリーをまるでゴミクズを見るような視線で見やる壮年の男。
彼こそが、メアリーの最大の敵にしてこの学院の最高権力者の理事長である。
メアリーと教師の騒ぎを聞きつけ、それに便乗しようとやってきたのかもしれない。
メアリーに決定打を下すために。