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「下がって」


いざ、魔界へと息巻くメアリーを片手で制すると、ザッシュはメアリーから数歩離れて、パチンと指を鳴らした。すると、ザッシュのすぐ横の空間が ぐにゃりと歪み空間に亀裂ができる。そこから七色の光が差し込んでいる。


メアリーは、やはり ふざけていても ザッシュは紛れもなく魔族なのだと再認識した。呪文の詠唱も、道具も使っていない。ザッシュの魔力が動いた気配も無かった。人間があれこれと準備をして多大な魔力を費やして開く魔界へのゲートを、ザッシュは 指を鳴らしただけで こなしてしまった。改めて、人間と魔族との力量の差を思い知る。


しかし、そんな魔族が自分に惚れ込んでいるというのは 何ともおかしな話だ。とメアリーは思う。人間なんて魔族からすれば虫けらの様な存在だろう。なのになぜ、ザッシュは自分に好意を寄せるのか…。思い当たるのは、一時の戯れ。魔族が拐った人間をペットの様に扱い、興味が薄れれば殺すか、放逐する。よく聞く話だった。


今回はメアリー(人間)が飼い主、ザッシュ(魔族)がペット、といった役回りか。ザッシュは主従逆転を楽しむ変わり者、といった所なのだろう。今は契約をしていてメアリーが従わせる形になっているが…どういうわけか、ザッシュは 契約に縛られてはいない。契約者の命令は絶対であるところを、魔界に連れていけ、というメアリーの言い付けをはねのけた。契約の括りが甘いのか?――――しかし、しっかりと契約印は掌に刻まれている。





(不可解なところは あるけれど…魔界に行くためには、ザッシュが必要だったんだもの。あれこれ考えていても仕方がないわ…。これからは、ザッシュの扱いには注意しなくちゃ)


メアリーに変態行為を見せつけ、最早ただの変態男と認識されていたザッシュだったが、ゲートを開いたことで、やっとメアリーの脳内で、「ザッシュ=魔族」が結び付いた。


取り扱い注意、とザッシュを散々痛い目にあわせておきながら 言えた台詞では 無かったが、それはそれ。これはこれ。とメアリーは気持ちを切り替えた。――――よし。もう少しだけ、ザッシュに優しくしよう。







開いたゲートが閉じてしまわぬよう、七色に光るゲートを手で押さえて待っているザッシュ。


その主人に尽くす健気な犬の様な姿を見て、(なんて言って誉めてあげようか)と思案しながら、メアリーは地面を蹴って、ゲートに飛び込んだ。

































その頃、とあるシェルターにて。


「…あれ、ここはどこ?」



一人の少女が目を覚ました。まず、真っ白な高い天井が目に入った。視界に入るのは白一色だけだった。しかし、隣に人の気配を感じた。頭を動かして見てみれば、見知らぬ女の子が目を閉じて、倒れていた。気を失っているらしい。もしや、と思い 反対を見れば。今度は男の子が同じく気を失って倒れていた。なぜ?何があったの?と記憶を辿るが、覚えているのは、いつもと変わらない日常だけ。


不意に、冷たい床の感触に ぶるりと体を震わせた。絨毯も何も敷かれていない床に体温を奪われた様だ。

少女は、上体を起こしてみる。すると、床に 人が倒れている。それも、何百人もの人間が倒れているようだ。足の踏み場もないくらいに、床は人で埋め尽くされている。男女の区切りなく、床に転がる人。人。人。



現実離れした光景に、これは夢か。と ぼんやりと沢山の人を見ていると、少女は ある共通点に気付いた。





全て、学院の関係者だ。学院の生徒に、教師。


そして少女たちは今、広いドーム状の建物の中にいるらしい。天井は高く、横にも広い。

その中で、意識があるのは少女だけのようだ。皆、意識を失ったままのようで、動く者は一人もいない。



呆然と する他なくて、少女は上体を起こしたまま、ただ倒れ伏す人々を見つめていた。





いつまでそうしていたのか。時を知る物がないから、数分か数十分か分からなかったが、閉じられていた扉が、慌ただしく開いた。

扉から現れたのは、白い服を着た人たちだった。その人たちは、次々と倒れる生徒や教師に声を掛け、介抱をしている。



ああ、助けが来たのか。と少女は安堵した。





















その日、全国に衝撃が走った。優秀な召喚士を何人も排出する名門の魔法学院が、一瞬の内に廃墟と化したのだ。


その時 学院にいた生徒、教職員は緊急時に発動する転送術によりシェルターに避難し、怪我人も無し。しかし、学院の女子生徒一人が行方不明に。


救助隊による懸命の捜索が行われたが、彼女の消息は全くつかめなかった。


一部情報では、彼女がゲートに飲み込まれたという目撃談もあったが、情報提供者の錯乱が酷く、真偽のほどは定かではなかった。


また、学院の崩壊と同じくして理事長による学院の生徒への暴言や経営上の不正な金銭のやり取りを示唆する声が内部から上がり、理事会は理事長を解任、刑事告訴を検討している。


学院の校舎は 全壊のため、生徒や職員は仮設校舎で授業を行うことになった。



行方不明の女子生徒の一日も早い発見と、校舎全壊の真相究明のため、政府は今日も全力を尽くしている。











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