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やつらの話は、まとめてみるとこういう訳だった。


メアリーがいつも召喚を失敗していたのは、ゲートの向こうで毛玉たちが「メアリーの召喚獣」になりたいあまりに、取っ組み合いの喧嘩をしていた、と。召喚の度に落ちていたヒゲや爪は、激しく戦い、お互いにお互いを牽制しあった故の副産物だったようだ。ゲートが開いているのに、毛玉たちが争って誰もゲートを越えることができないため、その場に落ちていたヒゲや爪がゲートからの引力に引き寄せられ。


結果、身体の一部だけががぽとん、という有り様だった訳である。



(どうりで…あんなにゲートの向こうに気配があったのに、此方に誰も来ないはずだわ。私にしたら、いい迷惑なんだけど…)


召喚が一度も成功しなかったことをかなり深刻に考えていたメアリーは、この話を聞いて落胆を隠せなかった。自分は何か欠陥があって、召喚できないのでは。そう思っていたメアリーなだけに、この打ち明け話はかなり堪えた。蓋を開けてみれば、原因は至極簡単。こいつらのせいだったのだ。呆れるやら、自分に落ち度はなかったという安堵の気持ちやらがごちゃ混ぜになって、叱り飛ばす気力も失せてしまった。


しかも、毛玉が何でできているか。そんな話をしたが、その答えもまたメアリーを何とも言えない気持ちにさせた。モジモジするザッシュを睨み付けながら、何とか聞き出したその答え。





“その… めありー が ほしい きもち が いっぱいに なって しまって… おさえきれなく なった ときに かたしろ を つくった”




可愛い口調で語っているが、内容は残念極まりない。恥ずかしすぎる形代の誕生秘話。そんなもの聞きたくなかった。ちなみに、初代形代……ザッシュは純粋に魔力でつくられている。二代目からのザッシュ(毛玉)はメアリーへの押さえきれない恋心(純情な感情・不埒な気持ち・嫉妬心・言えない劣情・単純に発情etc…)でできている。故に、多少個体ごとに個性(突然変異か、どぴんくの毛玉ややたらと毛むくじゃらな毛玉も)があり、人間臭さがあって、ザッシュよりも流暢に話し、会話をする。その数は相当数おり、ザッシュでさえ、毛玉がいくついるのか把握できていない。




メアリーは、氷の様な冷たい視線で正座する二匹に向き合った。

ザッシュと毛玉。見た目は全く同じだが、ザッシュは恥ずかしそうに耳をたらし、毛玉はそわそわと落ち着きない。メアリーは二匹を睨みながら、ふと気になって毛玉に尋ねた。


「ねえ、毛玉はどんな気持ちでできているの?」


その問いに、ザッシュがピクリと耳を立て、毛玉の口ににくきゅうを押し付けて塞いだ。


メアリーはそんなザッシュをきつい眼差しで射抜き、再び正座をさせると、毛玉に答えを促した。


“僕はね、メアリーに僕を知って欲しい!!っていう自己顕示欲のかたまりの10番目なの!自己顕示欲だけでまだまだいっぱいいるんだよ!!それでね、僕メアリーにはなんでも教えちゃう!今なら特別に僕の好きなメアリーの癖、三つまで教えてあげちゃう!!”


「結構です…」


聞かなければよかった。メアリーは後悔した。


(自分を知って欲しい気持ちか。だから呼んでもいないのに出てきたり、やたらとお喋りなのね)


ふむ、と納得してしまう自分が少し複雑であった。しかし。


(多分、他の毛玉に比べたらましな方なのかしら…)


自分に語りかけてきた毛玉たちの声を思い出しながら、メアリーは とりあえず ここにいるのがこの毛玉でよかったのだ、と思い込むことにした。




犬二匹を見つめながら、そういえば、とメアリーはふと思い付いた。


「なんで犬の姿のザッシュしか話さないの?それに人の方のザッシュはどうしたの?さっきから姿が見当たらないようだけど」


思えば、もっと早くに聞けば良かったのだ。本体は人の方の癖に、なぜかいつも犬の姿のザッシュを通して会話をしていた。最初から人の方が話せば良いのに。


メアリーの当然とも言える疑問に、ザッシュは

自分の足元に にくきゅうで の の字を書きながら口を開いた。


“は はずかしかった のだ … めありー が われの そばに いると つい …”


恥ずかしげに途切れ途切れに話すザッシュに、メアリーは胸がとくりと高鳴った。ほんの少しだけ、嬉しい と思ってしまった。そんな自分に、メアリーは胸がむず痒くなる。


「つい…なあに?」



それきり黙ってしまったザッシュ。続きを促すように、メアリーはザッシュをのぞき込むように膝をおり、優しく声を掛ける。もっと、ザッシュの言葉を聞きたいと思った。




初めてメアリーに優しくされたザッシュは、目を潤ませて答えた。





“つい… (ピー) が 反応 してしまう ゆえに そちら を おさえよう と しゅうちゅう して…”


「せいやぁあーっ!!」


メアリーはザッシュの前足をつかんでぶん投げた。ザッシュは「きゃんっ」と一声鳴いて白い空間に溶けた。


「一瞬でも優しくした私が馬鹿だった…」


ザッシュの姿が消えて、うなだれていると。


“ねぇねぇ、メアリー。本当はね、メアリーは落ちこぼれなんかじゃないの…僕らが悪いの…”


しょんぼりとした毛玉を見ていると、メアリーはムカムカした気持ちが少しだけ、治まってきた気がした。何にしろ、原因がわかったのだ。大きな進展と言えよう。




(私は召喚士として、問題がないことがわかったし。後は目的を達成するだけね)





覚悟を決めて召喚をした、あの時から。

色々ありすぎて、すっかり召喚士になりたかった本題から遠ざかっていた。



(ごめんね。お父さん、お母さん。たくさん寄り道したけど、娘はやっとやりたいことを思い出したわ)



両親の優しい笑顔を思い出し、切ない気持ちが胸に込み上げてくる。メアリーは今、やっと両親探しのスタートラインに着けた気がした。



「よしっ!絶対、お父さんとお母さんを見つけ出す!」



拳を握りしめ、決意に燃えるメアリー。その勇敢な姿を、うっとりとした眼差しでこっそりと見つめる男。彼女の知らないところでまた一匹、毛玉が生まれていた。





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