1
“私の名前はメアリー・コリンズ。召喚士の資格を得るべく、日々学院に通う17才の才能溢れる少女。
学院で3ヶ月に一回行われる、召喚術についての知識テストを受ければ1位の座を難なく射止め。実施テストの召喚を行えば、誰も彼もを驚愕させる召喚獣やモンスターを、思いのままに喚び出せる。
全てに恵まれた少女。人は私を、学院始まって以来の奇跡と呼ぶ。”
ノートに書きだした文章を、メアリーは羽ペンで、グリグリと塗りつぶす。
「…むなしいなぁ」
はぁ。とため息がこぼれる。
自分で書いた文章ながら、なんだか恥ずかし
くなって、文字をつぶすペンに更に力を込めた。
ビリリリッ
「あっ」
グリグリしまくった紙が摩擦によって、薄くなってしまっていたらしい。
やたらと派手な音を立てて、裂けてしまった。
「コリンズ!!」
「はっ、はい!」
召喚術の知識の授業真っ只中、広い講義室に先生の怒鳴り声が響きわたる。部屋の広さゆえに魔法で拡声された先生の声は、キーン、と耳に痛い程突き刺さる。
返事と共に起立したメアリーを見ると、他の生徒達は顔を寄せあい、口々にささやく。
「また、あの子?」
「いっつも怒られてるよな」
「聞いたー?あの子、知識のテストビリらしいよ」
「え?召喚のテストがビリって聞いたけど?」
「じゃあ、どっちもなんじゃないの?」
「ていうかさ、前の召喚のテストの時、デビルサーヴェント(魔犬)喚んだら、犬のヒゲだけ魔法陣に落ちてたっていう話、コリンズだろ?」
「それやばくない?犬すらまともに喚べないとか才能ゼロじゃん!!うけるー」
「知識もビリで召喚もビリ。まさに奇跡の落ちこぼれだよねぇ」
クスクス、とクラスメイトの嘲笑がメアリーの胸を突く。
「静かに!!…コリンズ、後で職員室に来なさい。…静かに!!授業を続ける!」
先生はメアリーを一瞬だけ視界に入れて、何事もなかったように授業を再開した。
「はい…」
メアリーは小さな声で返事をしながら、力が抜けたように席につく。
この学院で落ちこぼれとされているメアリーが、教師に呼び出されない月はない。職員室で教師に怒鳴られる自分の姿を脳裏に浮かべて、メアリーはうつむいた。
目線を落とした先に、裂けて大穴の開いたノートがある。
メアリーは破れたノートの、ぽっかり開いた穴の横に、小さな字で文字を書く。
“落ちこぼれのメアリー。”
メアリーはペンを机に置いてその文字をじっと見つめた。もう一度、文字を塗りつぶそうとしてペンを持って、
そのまま、ペンを置いた。