72話 全てを背負って。
それは悪魔が水蒸気爆発で動きを止められている間こと。
1つの影から何やら詠唱の声が聞こえていた。それは爆発の煙が晴れると同時に終えている。
悪魔がその姿を見せた時、少年はまるで何か大切な者を失ったかのような悲しみを瞳に宿していた。
「これがいい選択じゃないかもしれない・・・けど、後悔はしない!ごめんな」
その謝罪は誰に対して言われたのか・・・悪魔に対する謝罪かそれとも・・・。
尚也以外のメンバーは尚也から30メートルくらい後方まで下がり、それぞれ治療をしているが、シェラの腕もロックの腹部の傷も深く容易に治せるものではなく時間がかかっていた。
紗菜は焦っていた。
今もまだ2人の治療も終わらず、尚也をまた1人で戦わせてしまっている。
また学校の時のようになってしまわないか不安で仕方が無かった。
「もう少しだから・・・ま、間に合って・・・え?」
そんな事など知る由もなく状況は変化して行く。
煙が晴れてうずくまっていた悪魔が立ち上がり、尚也へ黒い視線を送る。
尚也も悪魔をしっかりと見据え、ゆっくりと悪魔に方に向かって歩き出し始めた。
その動きに警戒し黒剣を構えた。
「そう警戒するなよ、痛いのは最初だけだ」
「ガァアアアア」
「おお怖い!すぐ終わるから静かにしてろっ」
その言葉の後に尚也の体が光だし、悪魔に向けて一直線に走り出した。
そして、持っていた神威を勢いよく投げつけた。
まさか投げてくるとは思わず、黒剣の持っている腕で投げられた剣を受け止めた。
ザシュっと音を立て腕に突き刺さる。
「グアアアァァァ」
「こっちだ!」
尚也はもう目の前まで接近していた。
両手を伸ばし垂直にし、勢いよく悪魔の腹部にそのまま突き刺す。
「ごめんな・・・。ーーーー空間消滅術ーーーー」
空間消滅術、それは禁呪の中で最も使用してはいけない魔術。
使用者いる空間で魔力の圧縮を作り出し、広範囲のものをすべて無に帰してしまう。
その威力は使用者の魔力に比例すると言われている。
空間消滅術が発動し、黒き悪魔の腹部が急激に膨れ上がりバンッと音を立て破裂する。
黒き悪魔の体は上下を分断されながら断末魔の叫びを耐えることなく叫び続ける。
しかし、空間消滅術の威力は凄まじく球体の様に膨れ上がり、黒き悪魔との尚也を容赦無く包み込んで行った。
紗菜は突然の事で理解が追いついていなかった。
尚也が黒き悪魔との戦いで何か大き爆発を起こしたあと、こちらに向けて何かを語りかけていた。
そして、強制転移していた。
情景が変わり、ロックも何が起きたのか周囲を見回していた。
「紗菜!一体何が・・・」
「多分・・・強制転移したと思う・・・。」
「何で急に・・・」
紗菜は気絶しているシェラを介抱しながら、頭の中で今の状況を懸命に整理していた。
「そんなの・・・なおやくんしか考えられないよ!」
「おい!無事だったのか!」
「「え?」」
二人は後ろを振り向くとそこには、将軍カイルをはじめとした魔術師達数名がいた。
レイス達も紗菜に駆け寄り、大丈夫か無事か?とそれぞれ声をかけて行く。
そして、ロックとシェラの状態を見て、急いで治癒魔術をかけていた。
「ドゴォォォォン」
山頂付近で物凄い音の爆発と物凄い魔力の圧縮を魔術師達は感じた。
その音と魔力で気絶していたシェラが目を覚まし何が起こったのか状況を確認していた。
「何だこのすごい爆発は!」
「物凄い魔力の圧縮を感じます。まさか・・・これは・・・」
「う・・・戦いは・・・ナオヤはどこよ?」
カイルとレイスの言葉を気にすることなくシェラはナオヤの名前を呼んだ。
紗菜はハッと今起きた爆発と魔力の事が一瞬で頭によぎった。
そして、急に走り出して行こうとした紗菜をレイラが止めていた。
「ちょっとアンタどうしたんだい?」
「離して!なおやくんが、なおやくんが!」
そう叫びながら紗菜は泣きながら必死で尚也の元へ行こうとした。
シェラとロックはその姿に今の状況を理解し、レイラに離せと促し紗菜の手をとって走り出した。
「ちょっとアンタ達・・・」
「レイラさん私達も追いましょう。私の予測が正しければ・・・いえ、今は合流することを考えましょう」
レイスは何か感じ取っていたようだが、それよりシェラ達を追うことを優先した。
山の中腹まで強制転移で飛ばされていたらしく、紗菜達が頂上に着くのにしばらくの時間を要した。
「はぁはぁ・・・だいぶ下まで飛ばされたらしいな」
「そうねっ・・・でも・・・あれは、ロック、紗菜、前を見て爆風がくるわよ!障壁を・・・水障壁」
「はぁはぁ・・・早く、早く」
「紗菜!一旦爆風が収まるまで・・・待つわよ」
「シェラちゃん、ごめん今回だけはダメなの!お願い!」
「仕方ない、このまま進もう」
紗菜の鬼気迫る言葉にシェラとロックは何かを感じ取り一刻も早く頂上へ行かないといけないことを悟った。
「無茶をしますね・・・」
「俺らでは無理だ!爆風が収まるのを待とう!」
「・・・仕方ないね」
レイス達はカイルや兵士も連れており無理な行軍をすることが出来なかった。
「起きよ、汝はまだ死してなかろう」
・・・何かの声が聞こえる。それは何だか暖かくそして、安心させる何かがあるように感じた。
いつの日にか呼ばれた懐かしい記憶・・・そして、二度とは呼ばれないだろう記憶。
そう、まるで母親の暖かさに似ている。
尚也はその声にゆっくりと目を開けた。
「・・・ここは・・・」
目を開けた途端飛び込んできたのは優しい光、その光は優しく何もかも包み込むような空間であった。
「やっと目覚めたか」
尚也の前に現れたのは、今さっき戦いをしていた、黒き悪魔となる前の女性だった。
女性は尚也を見つめるそして何故だか嬉しそうな雰囲気を漂わせていた。
「ここは我が創り出した儚き空間、そう長くは持たぬが話をすることくらいできるであろう」
「・・・一時的に時を止めているんですね」
「理解が早くて助かる、汝とこうして合間見えるのをずっと楽しみであった。永きに渡り彷徨うていたからな。・・・1つ問おう、何故汝は死に急ぐ、汝を待っている者がいるであろう」
「・・・アリッサさんにもそんなこと言われたような気がする。なんて言ったらいいのか分からないけどさ、この世界の俺っておかしいと思わない?シェラ、紗奈、ロック・・・あいつ等も確かに普通の魔術師に比べたら強い。でも、俺って自分で言うのもおかしいけど規格が違いすぎてないかな?」
「・・・」
「・・・」
「遥か昔、我が人だった頃には、神がいたとされる。神は自分の力と寵愛を与えた者に輪廻転生を与えた。そして、能力も引継ぎ神の使途として人々を導かせた・・・。思えば我も使途とだったやも知れぬ。知らぬ間に魔術を使い、魔力は最初から膨大にあった。そのおかげでこの有様ではあるがな。」
「輪廻転生か・・・今度生まれ変わるなら普通に産まれたいな」
「普通を望むか・・・人は愚かで残忍で無知である。・・・力あるものは時に、畏怖をされ、嫉妬され、利用される、だが、人は暖かさを持ち合わせているな。汝然り」
空間にピキピキとヒビが入り出していた。
すでに黒き悪魔が創り出した空間は崩壊へと近づいていた。
「この空間も間も無く終わりを告げよう、まだ話していたかったがな」
「あ・・・レンは?」
「あの娘なら安心するがよい、我が違う空間に移動させておる」
「そっか、じゃあ俺の役目は終わったかな」
黒き女性は目を細め、安らかな顔をしている尚也をしばらく見つめ考えていた。
本当にこれでいいのか?本当に彼が望んだ結末なのか?
我も助け、他の者も助け、汝だけが全てを背負って・・・そんな終わり方でいいのだろうか?
目をつむり自分の心に問いかけていた。
空間が徐々に消失を始める。
「そろそろ刻限か。汝は我を解放してくれた。深き感謝を。そして、 ・・・汝がよき道を選ばんことをーーーー時の扉」
「何を・・・?」
尚也は不思議そうな顔し、顔を傾けていた。
空間の崩壊と同時に扉が出現し、空間ごと尚也と黒き女性を飲み込んでいく。
扉に飲み込まれた時、尚也すでに意識を失っており、深い底へと落ちて行くようだった。
黒き女性は尚也を大事そうに抱え、一緒に暗闇に溶け込むのだった。




