62話 郷愁の戦地
叫びがあった次の日…。
合衆国のエミリー中佐から尚也は連絡を受け大統領の面会と条件の承諾の受け入れを聞いていた。
TVでは新たな援軍として尚也とシェラ達の写真が写っており、尚也は日本の魔術師を代表として向かう予定を伝えていた。各所でまだ中学生の派遣を認めるのは人道的にどうなのかと討議が繰り返されているが、先日の叫びの件が重なり能力があるなら緊急時には仕方がないと判断されていた。
そのニュースを朝一で見たシェラ達と美咲にユウも尚也の家に集まっていた。
「今朝、エミリー中佐からの連絡で現地で大統領との話合いをすることになった。
今日、用意が出来次第合衆国へ行こうと思うけど大丈夫?」
「俺達はいつでも行ける」
「「うん」」
3人は昨日別れた後近いうちに旅立つと予測をし準備をしていた。
「え?待ってよ…私達も行くよ?ね?ユウちゃん」
「みさきちゃんダメだよ…足手まといになっちゃうよ」
「美咲ごめん。ユウと残ってくれ…何が起こるかわからないし」
「そんな…」
実際美咲は自分が行ってもどうしようもないことも判っていた。
でも…そばにいるのが自分の役目だったのに…。
尚也にはもう必要無い様に…美咲には思えてしまった。
強い友が付き、可愛い女の子もいる、そしてその2つはいつもそばに付き添っている。
美咲は自分の存在価値を見失ってしまった。
「私帰るね…」
「おい…美咲?」
急に立ちあがり美咲は玄関へと走り出してしまった。
尚也はその後ろ姿に声を掛け、後を追った…アパートを出て曲がった角のの所で美咲を捕まえ振り向かせた。
「美咲どうしたんだ?」
「わ…私はもういらないでしょ…貴方にはそばにいてくれる人がいるじゃない!」
「美咲落ち着けって」
尚也は美咲を落ち着かせようと涙を片手の人差し指で拭おうとしたが手で阻まれていた。
「もう放っておいてよ!」
美咲は尚也からプレゼントしたネックレスと外すとそれを投げつけた…。
チャリン
尚也の胸に当たりそれは体を這うようにして落ちて行った。
そして、美咲はやってはいけないことをしたことに気付き…後悔した様な顔をしながら走り去っていった。
尚也はただその姿を見つめるしかなかった。
「ハアハア なおや達はやいよー」
「ユウか……なんか…行く前に振られちゃったな」
尚也はネックレスを拾って作った時の気持ちを思い出し見つめていた。
ユウはそんな尚也に抱きつくと…。
「なおや…みさきちゃんは違うんだよ?」
「いや…これで良かったのかもしれない……これはユウにあげるよ」
「なおや…」
尚也はそのまま家に帰宅し、仲間にはちょっとイライラしてたみたいだと告げ深い内容は話さなかった。
そして出発の準備に各々荷物を取りに宿泊先のホテルに戻り、空港で待ち合わせをした。
そのことがTV局に伝わり(情報を流したのだが)空港には報道陣が詰め寄っていた。
ユウは水嶋家に帰って美咲を説得したが受け入れられず、伊織と共に尚也の見送りに駆けつけていた。
尚也達が空港に現れると一斉にシャッターが切られフラッシュの光が止まることなく続く。
応援する言葉やいつの間に作ったのか横断幕まで掲げられている。
尚也達はその声援に手を振り答え出発ロビーを後にした。
飛行機に乗る直前にユウが現れ最後の別れをする…。
「ユウ…ごめん。1つ言ってないことがある。
これは秘密にしといてくれ、多分俺は帰って来れない…だから美咲をみんなを頼むな…」
ユウは大きな粒の涙を目に溜めながら精一杯の笑顔で尚也を抱きしめ見送った…。
そして、飛行機は離陸していった。それを見つめる1人の少女が屋上にいた…。
空港から降り立ち200㎞の道のりを車で移動すると施設が見えてきた。
5年振りにその大地に足を降ろした尚也は空を見上げここを離れる時を思い出している。
施設はそのままだが人が慌ただしく行き交い、裏山が無くなっていることに気づく。
そして終わることのない地響きが永遠と続くように足元から上がってくる。
空港から案内役の兵士が一室に案内しノックして中へと誘う。
中には3人の男が待っていた。
「よく来てくれた。私は合衆国軍大将カイル・サンダースだ。
こちらは合衆国魔術管理省、魔術師を統括してもらっているレイス・ラミレス殿。
そして、こちらの方が…」
レイスが会釈をし、カイルが次の紹介をしようとするが…。
「私から名乗ろう合衆国大統領リチャード・ブッシという。
TVなどで見たことはあるだろう?」
「はい、何度か拝見しています。新堂尚也です」
シャラ達も続いて自己紹介をしていく。
ロックは出身国だけあって大統領は実に嬉しそうだった。
ソファーに座るよう促されコーヒーが運ばれてくるのを待って話が続けられた。
「尚也君と呼ばせてもらうよ。君の提案だが一人10億は多すぎやしないか?
君達だけに報酬を払っては他の者に示しもつかないだろう」
「大統領少し勘違いを為されているようですが…いいですか?私達は貴方達を救って上げようと提案しているのですよ?示しとかそう言った問題ではありません」
リチャードはは尚也を値踏みするように見つめている。
そして、何かを決心したかのように頷いていた。
「なるほど…若いのに大した度胸だな」
「もう1つ万が一俺が死んだ時…報酬は日本にいる新堂ユウと水嶋美咲に渡してください」
「大統領、彼の言い分は最もです…我々には残念ですが手段がありません」
「判った良いだろう!条件を呑もう。そして、安全も…君の事だから何らかの手段をもう打ってあるのだろう?」
「恐れ入ります…我々が脅かされた場合全ての事実が公表されます」
「君の仲間には我が合衆国の魔術師もいる…打開できれば我々の面目も保たれる。
そして…未来を頼む!」
大統領は尚也に会えてよかったと握手をし次の公務があると言って席を立った。
そしてレイスとカイルが尚也に顔を向け話を続けた。
「尚也君…君の魔力はすごい、しかしどうやってアレを止める?」
「はっきりいって手段なんて…。一気に押して中心を倒すしか止める方法はありません。
防衛ラインで防いでいても溢れ出す魔物は止らないでしょ…なら作戦は1つです」
「そうか…そうだな。攻撃は最大の防御か…。」
「ボウズ!その歳でホントに大した奴だな!
おし作戦は決まった細かい調整しよう。必要な物があればいってくれ」
シェラ達は尚也の交渉に半分もついて行けず、ただひたすら聞き役に徹していた。
カイルは作戦の概要が決まったことが嬉しかったらしくやる気に満ちていた。
実際、レイスもカイルも何度も作戦会議をしていたが、結局守るしか手段がなく手に負えない状態が続き、前線で死者が増えるだけの時間に耐えられなかったのである。
そして、細かい打ち合わせをし各準備に追われていた。
作戦が公開され久し振りに軍部や魔術師達にも活気が戻り、決戦の前に最後かもしれないと酒が振る舞われ所々で宴会を開いていた。
尚也は1人夜風に当たり戦場の光る空を眺めていた…。




