59話 混沌の中で
その穴は縦20メートルはあり、まるですっぽりとくり抜いた円柱になっていた。
円柱の穴は螺旋階段の様にゆっくりと坂道が底に続いている。
以前なら沢山の兵士や魔術師が螺旋階段を移動し、底へと荷物の
運搬などを行っていたが今は見る影もない。
誰にでも死は必ずくる。病死、事故、天災、殺人、
また寿命であったりと様々で無慈悲なまでに残酷でもある。
そして、今ここでも多くの者が天へと召されていた。
私の名はエレン・ハワード 30歳。
階級はセイジ、合衆国に所属し多属性を同時に操ることから
2つ名を指揮者と呼ばれている。
魔術師の最高峰にあたる階級を与えられ魔術師達の指揮を
任せられている。
今は隊の控室で作戦を練っているところ。
未だかつて、魔術師が戦場に出て戦うことはまずあり得なかった。
何らかの補助や後方での待機を優先とされ、その力は争うものではなく
各国の牽制となっているはずで。
今目の前に広がっている光景は一体何であろう…。
次々と交代で下級の魔術師が補助をしながら隙を作り、上級の魔術師が上級魔術をを行使し、
γ(ガンマ)、守護者を殲滅しようと昼夜必死になっている。
そして、止まる勢いを見せず溢れ上がる黒き淀み…
今まで封印されていた分を吐き出すかのように噴き出し続けている。
はっきり言って戦力不足…もう少しで第2陣の救援がくるという…。
自分の胸の辺りまである銀色の髪に触れ、何時までも続く地響きを
足元に感じ、いつ終りが訪れるのだろうかと…。
副官の声にエレンはハッ意識を現実に引き戻された。
「エレン隊長、報告があがってきてますよ~
前線で何か大きな変化があっ『エレンヤバいぞ。早く来てくれ!』」
ドンッ
副官の言葉を遮る様に1人の魔術師が物凄い勢いでドアをノックすることなく
部屋に侵入してきた。
「一体どうしたのです?」
「言葉では表現できねぇー兎に角、早く!」
エレンはその様子に慌てて部屋をでて前線へと急いだ。
「こんな…まさか…」
そこには絶望があった…。
黒き淀みは暗き影となり兵士や魔術師を縦横無尽に攻撃をしている。
γ(ガンマ)は今までゾンビの様に襲ってくるだけであったが、
形をしっかり形成し、黒き悪魔の翼を持った化物に変化していた。
それはまるでコキュートスから解き放たれた悪魔の姿だった。
守護者も姿が変わっていた…
目が赤く光り、体格が一回り大きくなり、
死んだ兵士や魔術師を取り込みその情報を元に魔術を
使ってこちらに攻撃を仕掛けてくる光景だった。
対応しきれない魔術師や兵士の死が大量に量産されている。
そして中心から悲鳴の様な叫び声が発せられた。
「――――――――――――――――――――――――――――」
その声は地球全土に響き渡る。
それは…音声ではなく直接頭の中にテレパシーで悲鳴に似た叫びを、
生ける者すべてに届けた…。
各世界ではその叫びに世界の終焉など様々な風評が広がり、
ニュースでは大きく取り上げられ、合衆国で本当は何が起こっているかなど
連日報道されることになる。
中には既に終りと諦め、集団で自殺を計る者や略奪など混乱をきたしたり、
各国の首脳は緊急会議を開き今後の打開策に追われることになった。
そんな世界の状況など知る由もなくエレンは事態の収拾に乗り出していた。
「2つ名持ちの魔術師とウィザード以上の魔術師を前面に展開します。
以後メイジ以下の魔術師は後方支援に徹して下さい。
どれだけ持ちこたえられるかは分かりませんが…。前線の救助に当たります。
レイド…マサキ…力を貸して下さい…我々も出ます!」
「エレン…心配はいらねぇー俺が守ってやるから」
「エレン隊長さくっとやっちゃいましょう~」
レイド・ワークス 30歳
合衆国に所属し階級はワイズマン
魔術師の階級はワイズマンだが彼はエレンの言うことしか聞かず、
トラブルメーカーでもあり力ずくで何でも解決しようとする。
雷の魔術が得意で縦横無尽に焼き尽くす蹂躙者が2つ名である。
東雲正樹 23歳
日本国に所属し階級はウィザード
現在エレンの副官を任されている
合衆国からの依頼で日本から派遣された魔術師。
軽い性格から軽視されがちだが能力は一級品であり、
日本が誇る魔術師の1人である。
地の魔術を得意としゴレームを操る、治癒魔術も使える。
2つ名を操者と呼ばれている。
「死んだりしたら許しませんから」
レイドと正樹はその言葉を胸にエレンと共に戦場に身を投じるのだった。
彼らの戦いは壮絶を極め、何とか前線の維持と救出を成功させたのであった。
多くの魔術師や兵士が散っていく…しかし、まだ戦場の業火は消えることはなかった…。
そして、その後前線から3人が戻ってきたという報告はなかった…。




