40話 水の乙女
日本から旅立ち合衆国のかの地に降りたった少女は
急ぎ空港でタクシーの手配をし、200km先にある
施設を訪れていた。
以前と変わらない施設だが、今は軍の宿舎として使われている。
懐かしさと淋しさが込み上げてきたがそんな感慨に耽っている暇は
ないので、まずは門で教えられた魔術師の宿舎に向かった。
魔術師の知り合いがいれば状況を聞き出せる可能性が上がる。
いきなり責任者のとこに行っても追い返されるのは目に見えていた。
門番をすんなり通れたのは1つ裏技があったからである。
「確かこっちのはずだけど…」
キョロキョロと見回し、廊下を曲がったところでようやく
魔術師らしき人たちが溜まっている広場にでた。
「こんなところにどうしたんだい?お譲ちゃん」
中年で太めのおじさんが話しかけてきた。
「私は学園に通っているシェラ・フォン・ツォレルンと言います。
今の状況を少しでも聞けたらとおもいまして」
「君はあの水の乙女かい?」
「そう呼ばれているのは確かですね」
シェラも魔術師になっていないが2つ名を与えられている。
世界で3人しかいない中の2人目だ…。
魔術師の中ではその名は有名であり知らない者などいないくらいである。
そして、2つ名を与えられると同時に幾つかの権利も与えられていた。
その1つがさっきの門番で、特定の場所の出入りが許可されている。
「少し急いでますのでお話を…」
シェラが話をし出すと周りにいた魔術師達も彼女を囲んで
現在の状況を事細かく話していた。
もちろん可愛い女の子のお願いに勝てるオジサンはいなく、
聞かれるまま素直に話してしまっている。
予め言っておくが軍事機密である。
聞き出した情報はシェラが思っている以上に深刻で
死者まで出している始末である。
一刻の猶予もないと思いシェラは司令官室を目指して
歩こうとしたその時…見知った顔が向こうから
歩いてくるのであった。
それは以前シェラ達の師だったローレンだった。
「ローレン…」
ポツリと呟きそして悠然とローレンの前に出た。
ローレンは驚いた顔し同時に困ったような顔もしていた。
「ローレン先生お久し振りです」
「シェラだね…2年振りということになる」
場所を変えましょうとシェラが先導する。
既に日が落ち始め辺りは紅く染まっていた。
昔見た…事件の日の夕日みたいに…。
広場を抜け廊下を2人とも黙って歩き外に出て
ようやく会話がはじまった。
「シェラ君がここに来たということは何か調べにきたのか?」
「日本でなおやが襲われたんです…」
シェラは日本で起こったことを話し尚也はもう少しで死ぬとこ
だったとか、紗菜が助けに入って連絡を受け会いに行ったことなど。
そして、封印が何らかの原因で綻びがでていること、
その原因を探しに自分は飛行機で飛んできたことを。
「先生あなたが居ながら何故封印は解かれようとしているんです?」
「私も君達のことを話した!
だが…所詮子供の戯言でしか受け取ってもらえないんだ。
軍本部の連中が封印の解除を決定してしまった…
近いうちに封印は解かれる…しょうがないんだ…」
「…………」
シェラも判っていた首脳部が決めたことは上申しても覆らないだろうと
それでも何かやれることはないかと色々模索したが、あまり目立つ行動
を取ると本国へ強制送還されかねないのである。
「分かりました。色々お話をありがとうございます
ただ…私はなおやの時のことを許してませんので
それだけは心に留めておいてください では…」
2年経つが彼女の凛とした態度は変わらず、
美しさは更に磨きが掛かっている。
夕日を背に歩く姿はまるで絵に書いたような美しさだった。
シェラはそのまま空港に向かい帰路についた。
「未だ私だけ前に進めてないのだろうか…」
ローレンはそう呟くと宿舎へと入って行った。




