32話 魔力の底上げ
水の流れる音が響き
カチャッ カチャッと食器と食器の擦れる
音が優しく耳元に囁く。
朝食を終え食器を洗っている。
そんな新婚家庭みたいな雰囲気を
直に感じながらいっそもう住んでやろうか
とまで考えていた。
水を止め食器を拭いて棚にしまう。
そして次は洗濯に向かう。
誰がどう見ても主婦だろう。
そんな中尚也は一人瞑想し自分を
高める練習をしていた。
心を落ち着かせ、自分の中にある魔力に
意識を集中し手を前に掲げ、水の魔術を使い
水を意のままに動かしていた。
水は尚也を覆うように広がり
噴水のように流れ、再び持ち上げられ
それを寸分のくるいもなく
繰り返す。
「わあ~噴水みたいだねー」
集中を切らさず、その言葉に返事をする。
「こうやって出来るようになるまで
何回か失敗したけど」
ゆっくり再び目を閉じると
水の流れはゆるまり徐々にその姿はきえていった。
「いいなー私も魔術使えないかな~」
「使えるかもね」
「え?そんなわけないじゃんー」
なにいってるのよ~と背中をバシバシと
叩きまくる。
「えっと・・・ホント?」
「ん~絶対とは言えないけど
ちょっと前に読んだ文献によると
人は誰しも体内に魔力を有している
らしい。その保有量は違うけど」
「どうやって魔力があるか調べるの?]
「一般的には生まれたときに計測器で
調べるけど保有量が変わることは
滅多にないからそのあとは計測しないね」
「で!私が魔術を使える理由は?」
期待に満ちた瞳がキラキラ輝きを
強めていた。
実際問題、魔術というものが発現し100年
経って色々研究もされたが、一般の人の
魔力では扱いきれないという理論が基ずいて
しまっている。
魔力が少ない=魔力がない。
魔力が少ないものをあえて鍛えるよりすでに
一定レベルの者を鍛えた方が効率が良いと
いったところだが、魔力が高いものと低いもの差は
覆すことができないほどに歴然なのであった。
「さっきも言った文献の通りなら…
美咲も魔力は保有していることになる。
ただ、計測された時点では魔力は少ないが
俺は魔力の総量…保有量を底上げすること
に成功しているわけだ」
分身に分け与えてしまった時点でほぼ無いに
等しかった魔力が鍛錬によって底上げされ、
今では初級の魔法なら難なく扱えるようになっている。
分身から力を引き出すことによって多少ではあるが
魔力が戻ったことも影響してないとは言えないが。
「うんうん」
「現在美咲の魔力量が10だとしよう。
訓練次第で100になるかもしれないってこと
地道な努力がいるけどな」
美咲は判ったような判らないような複雑な顔をしていた。
尚也が美咲に魔力の底上げをしても実際に増える量は
試してみないと判らないのである。
個々の能力・資質などの差もあるわけだ。
「ん~美咲の属性は水が相性良さそうかな。
手を握るよ俺の力を流すから、
その力を自分の中で探してごらん」
目を閉じ美咲は言われたまま尚也の力の奔流を
その身に受けていた。
「最初はちょっとキツいかもしれないけど慣れかな」
「…もう少し弱めて…ちょっときつい…
…でも何かが身体を駆け巡ってるような気が…」
「…美咲はセンスあるかもね」
「ホント?」
普通ではこんなに早くコツを掴むことは
出来ないのだが天賦の才とでも言うのか…
無邪気な顔で尋ねてくる。
そして、次の段階に移行する。
「ーーーー水球ーーーー」
尚也の前に直径50㌢くらいの水の球体が浮かぶ。
「同じように水をイメージして唱えてごらん
魔力の流れを忘れず集中してね」
「ーーーー水球ーーーー」
少しすると小さい球体が浮かぶ…5センチほどの球体。
美咲は何が起こったのかわからず唖然としていた。
そして、喜びのあまり集中を切らし水が床を濡らしていた。
そんなことは構わず喜びのあまり美咲は尚也に抱きついていた。
「すごい出来ちゃったよ!」
おふ…胸の当たる感触がたまらん。
そのまま至福の余韻に浸る尚也であった。
ただし、その力は美咲が魔力全開で出した結果であり、
尚也は制御しつつ手加減した魔術でしかなかった。
まさに歴然の差であった。




