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26話 全てを失いし者

尚也は部屋に戻り荷造りを一人続けていた。

他の子供達はローレンに課題をを出され実習に

取り組んでいる。


「グスッ…クソ…何でだ…」


枕にこぶしを打ち付け、自分の両手を広げ再び強く

握りしめ、その拳にはポツポツと上から涙が落ちて行くのだった。


コンコン

ドアをノックする音が聞こえ涙を拭い返事を返すと

ローレンが立っていた。


「君に渡す物があった……

 これは当座のお金とパスポート、飛行機のチケット、

 そして、君の親元の住所だ。上から連絡が行くことに

 なっているから安心するといい。

 空港までは職員に送らせることになっている。

 準備はできたか?」

「……」


尚也はだまり何も言わなかった…言えなかった。


「ここでの事は忘れなさい…

 君は向こうで新しい人生を歩まないといけない。

 今は辛いかもしれないがな。」

「僕にできる事は本当にないの?

 もしかし『残念だが必要はない!』」

「君ができることは何もないだ」 


その余りに突き放した言い方に、

魔力を失った時よりショックを受け大きな声で泣き続けた。

まだ年端もいかない少年には酷なことだった。


「……」


ローレンはその様子を暫く見つめ、

最後に何か必要な物はないかと尋ねた。

尚也もまだ泣いてはいるが若干落ち着きを取り戻している。


「し…書斎の…本を…グスッ…ダメですか?」

「禁呪以外の写しなら許可しよう。

 君に必要なものだと思えないが」

「ありが…グスッ…とう」


禁呪以外の写しならば持って行っても対して

役に立たないと判断し、これ以上尚也を刺激

することを避けた。


「書斎に行き必要な物を持ってきなさい。

 車は外に待たせてあるから早くしなさい」


そして、尚也は施設をで車で200kmの所にある空港から

日本に旅立って行った。

友人と別れを惜しむ時も許されずに…。



飛行機が車輪を降ろし長い滑走路を走り

無事停止し乗客を誘導し降ろしていく。


ゲートをくぐり、職員言っていた通りだとすれば

両親が到着ロビーで待っているはずだ。

尚也は荷物を受け取り足早に向かった。

そして、ロビーに着き辺りを見回したがそれらしき人物は

見当たらず、ベンチに腰掛けその時を待った…。

到着してから何時間経っただろうか。

辺りが暗くなりかけたその時、尚也に声を掛ける人物がいた。


「すみません。尚也君ですか?」

「え?はい、新堂 尚也です…えっと…」

「私はご両親の弁護士で さかき さとると言います」

「弁護士…ですか?」


榊と名乗った弁護士は何かカードみたいのを取り出すと

名刺ですと言い渡してきた。

弁護士…前に本で読んだことがある職業であったので、

両親に何かあったのかと不安になった。


「尚也君詳しくは車で話すから一緒に来てください」


そのまま車で何処かに連れて行かれ道中で色々な話が為された。


まず、尚也の両親は一週間前に事故で他界。

親戚とは縁を切っていた為、葬儀は内々に終わらせたらしい。

そして、以前から知り合いであった弁護士の榊が財産などの

整理をしているときに、子供がいたことに気づき探していたら、

とある情報元から帰国するから面倒を見てやってほしいとのこと

だった。残った財産は家と生命保険だ。


家は大き過ぎたので売り、アパートを借りて一人で住むことになった。

悲しみの底にいた尚也をみて、榊は良いと判断する最善の手段を取り

尚也が一人で暮らしていくのに困らないように整えてくれた。


しかし、本当に尚也が欲しかったのは…そんな財産でなく、

親や友やレンを助ける力や人の温もりであったが

何一つ手に入れることは叶わなかった。



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