哀しみの亡霊
「ねえねえ知ってる?」
そんな話し声が聞こえてきたのは、金曜日の放課後だった。明日から土曜日と日曜日の連休ということもあったせいか、帰りの会が終わってから机につっぷして寝てしまっていた。
そんな僕の耳に引き続き話し声が聞こえてくる。
「あのね、〇〇さんが言ってたんだけどね、金曜日の夜の十二時に学校の屋上に行くと、この学校の制服を着た女の子がじっと手すりのところから、下を見下ろしてるんだって。それでね、それを見たって言う◎◎さんの話によると、十分くらいしたら、急に消えちゃったんだって。当然おかしいと思った◎◎さんが、その女の子がいた場所に行ってみると、誰もいなかったんだってさ。
それでね、〇〇ちゃんが言うには、それは、亡霊だって言うの。なにしろ、〇〇ちゃんの知り合いのおじさんに、除霊師がいるらしいんだけど、その人の話によると、この世に未練があるまま死んだ人、自殺した人や、殺された人なんかが、たまに亡霊になって死んだ曜日の死んだ時間に、死んだ場所にでることがあるんだって」
それは、好奇心だったんだろう。僕は、寝不足の原因である塾の授業が終わると、まっすぐ学校に行った。学校にはフェンスがある。僕は、正門を離れて唯一あるフェンスの穴を探す。
学校に遅刻しそうな生徒達が使用する、子供達だけが知っている秘密の通路。
僕らはそういういつもは何かを教えてもらう立場なのに、その教えている立場の大人にも知らないことがあるのがうれしかった。
今日は、金曜日。塾は九時に終わった。最近母親は塾代などの影響で、家計がきびしいらしく、朝から晩までどこかにバイトに行っている。
さて、学校まで来たがどうしよう。時計を見るとまだ十時前だ。話によると、十二時に見たということだったはずだ。これから、二時間もの時間をどうしよう。ようやく冷静になり始めた僕に現実が激しくふりかかる。
夜中の学校に忍び込む。
これって不法侵入だよな。捕まらないだろうな。
寒いなぁ。制服だったらまだ暖かいのにあいにく今は私服だ。
お腹もすいたなぁ。そういえば最近、母親の手料理食べてないな。今ごろ何してるのかな。
僕のこと心配してるのかな。ちゃんと夕飯食べてるかしらとか、洗濯物かたずけてくれたかしらとか。
それとも僕のことなんか考えてないかも。せっせと働いてんのかなぁ。
色々考えているうちに、寂しくなった僕は、いつのまにか僕の教室の僕の机に放課後のようにつっぷして泣いていた。
涙も止まり、時計を見るといつのまにか時間が流れたのだろうか、もう11時45分だった。
屋上に行こうか少し迷う。しかし、迷う時間はなかった。
僕は歩きだす。教室を出て、階段をのぼる。
そして、屋上に通じる扉の前に着く。
鉄でできた大きな扉。
僕はこの扉に鍵がかかっていることを少し願った。
そうすれば、ここから逃げだせる。しかし、願いは無残にも砕け散り、扉はきしみながら開いた。
殺風景だな。これが屋上の第一印象だった。
今出てきた扉の他には、屋上を囲む手すりしかない。こんなところに人がいるとは考えられない。
「何しに来たの。」
不意に聞こえた声に、驚きで思考が止まった。
夜の風は涼しくて気持ちがいい。そんなことを考えていた。現実逃避だった。
何も無いことを願いつつ、ゆっくりと振り返った。
またしても願いは無駄だった。
女の子だった。長い黒い髪にこの学校の制服を着ていた。しかし、制服には黒い染みができていた。
僕は聞く。
「君は誰?」
「この学校の生徒だった人間ね。まあ、人間とよべるならだけど。」
素っ気ない答えが返ってきた。
「じゃあ、やっぱり亡霊なの?」
僕の問いに彼女は少し悲しそうな顔をした。そして、吐き出すようにしゃべりだす。
「私は八年前にここの生徒だった。周りの人間達は、皆普通の生活を送っていた。だけど私はこの世に絶望していた。毎日同じ生活をして、何も無い毎日。大人達は皆、私達に同じことをするように強制する。
必ずどこかで起きる争い。世界規模だろうが、個人のことだろうが同じこと。」
淡々と彼女は話す。 ためらいはどこにもない。
「私はこの世に生きる意味が分からなかった。生き続けても何も変わらないと思って、私は死んだ。死ぬことを選んだ。八年前にここから飛び降りた。制服の染みはその時のもの。」
つまり血だということか。僕は黒い染みから目が離せなくなる。彼女は話し続ける。
「しかし、なぜかこの世に残ってしまった。亡霊として。私は、もしかしたらこの世が変わることがあるかもしれない。そんなことをかすかに願い、この世に留まることを決めた。
しかし、願いは無駄だった。この世は変わるどころか、逆に腐っていった。
自己満足で作り上げた物を使い、自分の大切な物を忘れていく、捨てていく者達。そして、この世に絶望して死のうともせず、ただがまんを続ける者達。しかし、がまんには限界がある。がまんをした者の未来は自ら命を断つか、他の人間を傷つけるかのどちらかだ。結果、彼らがうんだ憎悪は周りの人間にさらなる憎悪を与える。」
彼女は話を切ると、僕のことを見た。
僕は熱かった。目が熱く、前の景色が、にじんで見えない。
泣いていた。
僕は自分に問う。
なぜ泣くのだ?彼女が哀れなのか?この世の真実を知ったからか?
分からない。
ジコマンゾク・・・ゼツボウ・・・ゾウオ・・・
分からない。
「この世に絶望を感じるならば、僕が変えてみせる。いつでもいい。いつか僕達が変えた世の中を見にこい。」
僕の声だった。
いつのまにか話していた。彼女が一瞬笑ったように見えた。そして話しだす。
「待っていてやろう弱き人間よ。自分達で作ったこの世だ。どうするかはお前達次第だ。」
僕達次第・・・彼女はそう言った。
変えてみせる。
この世を。
無くしてみせる。
絶望を。
救ってみせる。
彼女のような人間を。
まず最初にこの小説を読んで下さいまして、
まことにありがとうございます。
小説は初めて書いたので、かなり未熟です。
これからも良い小説を書きたいので、
感想、ご指導などありましたらどうぞ
よろしくお願いします。
最後にもう一度、この小説を読んで下さいまして
ありがとうございました。