箱守……?
「ノドカちゃん……大丈夫? 身体中血まみれよ? 何があったの?」
中年の女性がノドカに話しかけた。
「おば……ちゃ……」
ノドカの声が恐怖で震えている。
でも……
声よりも身体の方が大きく震えている。
さっきより強く抱きしめても震えは酷くなっていく。
血まみれだ……
これ……
お義母さんの血……だよな?
「ノドカ……知り合いか?」
「うん……お母さんの……友……達。隣の……家の……う……痛……」
「大丈夫か? どこが痛い?」
「身体中……痛い……それより……お母さんは? まさか……本当に……木箱に……」
「……分からない。でも……ノドカは木箱が見えないから蓋を開けてないんだろ? どうして引きずり込まれそうになったんだ?」
「……キッチンに……入ったら……血で滑って……たぶん……木箱に……ぶつかったんだと……思う……」
「……え? 見えなくてもぶつかるのか?」
「……木の板に触ってるみたいな……感じが……あったから……本当に木箱が……あるんだって分かって……それで怖くて……動けないでいたら……中から……お母さんの声が……」
「……お義母さん……本当に……木箱に……」
「タカちゃん……お願い……まだお母さんは生きてるの……木箱を開けてよ……タカちゃんには……見えるんでしょ?」
「……無理だよ。この血の量……もう生きてるはず……ない……」
「……でも……さっき声が……」
「ノドカ……お義母さんは……木箱の一部になったんだ……蓋を開けたら今度こそ引きずり込まれる……」
木箱の一部……
違う……
木箱に喰われたんだ……
電話から悲鳴が聞こえて三十分は経ってる。
この出血量で生きてるはずがない。
この木箱……
ノドカを喰う為にお義母さんの振りをして誘き寄せたんだ……
「……そんな……私が……電話でちゃんと止めれば……そんな……」
血まみれのノドカが震えながら泣いてるけど……
……違う。
タクシーの運転手の話が本当なら……
木箱は骨折してる人を引きずり込みたがる……
隣の部屋の女は病院で俺の情報を調べて木箱に知らせたはず。
お義母さんは俺とは違う病院に通ってた……
つまり……
骨折してるお義母さんを、俺が木箱に差し出した……
俺が『ノドカと一緒に隣人に謝って欲しい』なんて頼まなければ……
全部俺のせいだ……
「あの……これは一体……?」
いつの間にか警官の制服を着た男性二人がリビングに立っている。
「おまわりさん……それが……」
木箱の話をしても信じてもらえるはずがない……
「あぁ……木箱がありますね?」
……!?
おまわりさんの一人には木箱が見えるのか!?
「あの! 見えるんですか!?」
「……あなたには見えるんですか?」
あなたには?
「あの……おまわりさんは見えないのにどうして木箱だと……?」
「血溜まりの中央に何もない四角い空間……時々あるんですよ」
「……え?」
「『都市伝説なんてくだらない』なんて言う人もいますけど……実際見ると……嘘や勘違いで済むような話じゃないですからね」
「……おまわりさん……木箱に……義理の母が……」
「引きずり込まれましたか」
「見てはいません……でも……妻も今引きずり込まれそうになって……」
「……我々警察では……木箱が見えませんから……お義母様を救出する事は難しいかと……」
「……そんな」
「旦那さん……」
「はい……?」
「木箱は今もそこにあるんですか?」
「……はい」
「そうですか……これからは旦那さんが箱守になるんですね」
「はこもり?」
はこもりってなんだ?
「『箱を守る』で箱守……何も知らないんですね。いろんな動画がありますから調べてみてください。まぁ、嘘ばかりかもしれませんが……」
……嘘ばかり?
でも……
誰がそんな動画を作ってるんだ?
もしかしたら前任者ってやつか?
あ……!
動画のコメントから繋がれば情報を訊けるんじゃないか?




