箱の中身
木箱がある家にノドカを残してくるなんて……
急いで戻らないと……
ダメだ……
足がもつれて走れない……
なんとかリビングに入ると……
ノドカがいない?
どこに……
さっきまでカウンターの前に座り込んで……
「いやっ……何!? タカちゃん! タカちゃん! 助けて!」
恐怖に震えるノドカの声がキッチンから聞こえてくる。
ダメだ……
身体がガタガタ震えて立っていられない……
恐怖で頭が真っ白になって膝から崩れ落ちる。
「ノドカちゃん? 大丈夫?」
さっきの中年の女性と近所の人だろうか。
いつの間にか四、五人がリビングに入ってきている。
女性がカウンターからキッチンを覗いた。
「……!? 何? え?」
女性の瞳が見開き身体が固まっている……?
「どうした!?」
隣にいるのは旦那さんか?
女性の様子の異様さに、慌ててキッチンを覗いている。
「……!? なんだ!? ノドカちゃん! どうなってるんだ!?」
男性が驚きながら尻もちをついた!?
……しっかりしろ。
木箱が見えない人には何が起きてるのか分からないんだ。
床を這ってキッチンに入ると……
「ノドカ!?」
木箱の蓋の隙間から赤黒い腕が見える。
腕の先に視線を向けると……
……え?
ノドカの髪を掴んで木箱に引きずり込もうとしてるのか!?
キッチンの柱に掴まってなんとか抵抗するノドカの姿に、身体が固まって動けない……
「タカちゃん……助けて……」
「ノドカ!」
しっかりしろ!
助けられるのは俺しかいないんだ!
ノドカの脚を引っ張ると、これ以上木箱に引きずり込まれないようにする。
こんな時に骨折してるなんて俺の役立たず!
それにしてもすごい力……
一人じゃ無理だ……
「誰か……ノドカの髪を切ってください」
「え? 髪を?」
中年の女性が震えながら尋ねてきた。
「ノドカが木箱に引きずり込まれそうになってるんです!」
「木箱? 何の事?」
「お願いします! 髪を……じゃあ……脚を引っ張ってください! 俺が髪を切ります!」
「……え? あ……脚? 分かった!」
リビングにいた中年の男性二人がノドカの脚を持つと引っ張ってくれる。
あった!
キッチンバサミ!
でも……
もし髪を切って木箱が怒ったら?
「タカちゃん! 痛い! 身体がちぎれそうだよ!」
考えてる場合じゃない!
震える手でノドカの髪を切ると……
隙間から伸びていた腕が、切られた髪を握ったままゆっくり木箱に戻っていく。
なんて気味が悪いんだ……
木箱の中にあんなものが……
「ノドカ! 大丈夫か!?」
血まみれのノドカを抱きしめる。
まさか……
この大量の血はお義母さんの……?
「タカちゃん……いきなり誰かに髪を引っ張られて……」
「もう大丈夫……大丈夫だ……」
そうは言ったけど……
……本当に大丈夫なのか?
またすぐに箱から腕が出てくるんじゃ……




