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木箱の中身は生きている……?

「一億!?」


 木箱が隣の部屋の女に一億もくれたのか?


「いやぁ……夢みたいな話でしょう? だから言ったんですよ。木箱に命令されるだけで一億なんて羨ましいって。そしたら……」


 タクシーが信号で止まった。

 運転手がルームミラー越しに俺の左腕のアームホルダーを見て言葉を詰まらせた?

 気のせいか?


「……そしたら?」


「あぁ……とにかく気味が悪いって言うんですよ。引っ越しばかりしたがって、木箱から出ていないはずなのに騒音トラブルを起こすし……男の声も女の声も出せるんだ……とか。あとは中からカリカリ引っ掻くような音がするって……」


「なんだ……それ……じゃあ俺が聞いた騒音は木箱がやったのか……?」


「……お客さん……冗談じゃなくて本当なんですか?」


「ないはずの洗濯機とテレビの音も聞こえたんです……」


「……そう……ですか……」


「あとは? 何か言ってませんでしたか?」


「……もし木箱の命令に背いたら……」


「……背いたら?」


「あぁ……はい……髪を引っ張られて木箱に引きずり込まれる……とか……」


「……え?」


「『後任者が決まっていなかったからなんとか赦してもらえた』って言ってましたよ。あの女性も骨折してたんですかね? お客さんと同じ物で腕を吊ってましたよ。骨折してる人の住所を病院で調べてこいって命令されて、断ったら木箱に引きずり込まれそうになったらしいですよ」


「……後任者が決まってたら木箱に完全に引きずり込まれてたって事か。骨折してる人の住所? ……まさか、あの女が病院で俺を見つけて……俺の存在を木箱に教えた……?」


 じゃあ……

 後任者は俺が見つけないといけないのか?

 そんな……


「お客さん……着きましたよ」


「……え? あ……いつの間に……」


「この家ですよね?」


「あぁ……はい……」


「……もう。タカちゃん。こんな話……信じてないよね?」


 ノドカが何も聞こえないスマホを握りしめながら話しかけてきた。


「ノドカ……今の話が本当なら……お義母さんは……」


「やめてよ! ほら、降りるよ!」


「……ああ。運転手さん。ありがとうございました……」


「ここで待ってましょうか?」


「……え?」


「あぁ……いや……すぐに逃げられるように……」


 確かに……

 何があるか分からないからな……


「……お願いします」


「もう! 何言ってるの!? もう大丈夫です! 行ってください! 早くお金を払って! お母さんは生きてるから!」


「ノドカ……」


「……分かりました。正直どうなるのか気になりますけど……お客さんを乗せて呪われるのも嫌ですからね」


「……呪われる?」


「じゃあ……頑張ってください。あ、そうだ」


「……何ですか?」


「木箱は触るのは大丈夫だけど、移動させたり話しかけるのはダメらしいですよ。それからいつの間にか家にいるらしいです」


「……え?」


「もし本当にお義母さんが消えていたら……今頃お客さんの家に木箱がいたりして……」


「……木箱が……家に……?」


「ほら、タカちゃん! 行くよ!」


 タクシーから降りたノドカが玄関に向かった。


「奥さんは怖くないんですかね? 俺なんてさっきから震えっぱなしですよ」


「……妻も怖いはずです。でも妻は母一人子一人で育ったからお義母さんをすごく大切に想ってるんですよ。無事だと信じたいんです。はぁ……全部俺の勘違いならいいんだけど……」


「お客さん……気をしっかり持ってくださいよ。もしお義母さんが引きずり込まれた後だったら……木箱が湿ってるはずですよ。……血で」


「……!?」


「再現ドラマだと木箱の周りが血の海でしたよ」


「……血の海?」


「お母さん! どうかしたの? ノドカだよ?」


 鍵を開けたノドカが家の中に入っていった!?


「……奥さん……追いかけなくていいんですか?」


「ノドカ! 一人で入ったらダメだ! ノドカには木箱が見えないんだから!」


 急いで追いかけないと!

 慌ててタクシーから降りる。


「お客さん……気をつけてくださいね……」


 助手席の窓を開けた運転手が話しかけてきたけど……

 気をつける……?

 そうか……

 俺は今から恐ろしい木箱がいる場所に乗り込むのか……

 

「もう! タカちゃんってば! やっぱり木箱なんてないよ! 血の海にだってなってないし!」


 ノドカが怒りながらタクシーに戻ってきた?


「え? そうなのか?」


 全部俺の勘違い……だったのか?


「運転手さん……すみません……俺……どうかしてたみたいです」


 冷静に考えたら木箱が瞬間移動するなんてあり得ないよな……

 恐怖でおかしくなってたのか……?


「ああ。いえ……よかったですね」


「……はい」


 ノドカと二人で家に入る。

 玄関の扉を閉めようと外を見ると、運転手が車内でスマホをいじっている。


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