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絶対にいるのに姿を見せない木箱

 ……?

 あれ?

 俺がこのアパートを引っ越したいのはノドカとの夜の声を聞かれた気まずさ……?

 このアパートから逃げても木箱からは逃げられないんだよな?

 木箱は瞬間移動できるんだろ……?


 引っ越す金もないし……

 ここに住み続けるしかないか……


 覚悟を決めて扉を開ける。


 ……ワンルームだから木箱がないのがすぐに分かる。

 あとは浴室とトイレか……

 こういう時、怖いテレビだと覗いた部屋にはいなくて突然背後に現れるんだよな……

 

 背後に気をつけながら、ほんの少しだけ浴室の扉を開けて中を覗こう。

 

 って……

 何やってるんだ……

 すごい速さで前を向いたり後ろを向いたり……  

 本当に木箱がいたらどうするんだよ。

 怖過ぎておかしくなってるよな。

 あぁ……

 頭がクラクラする……

 

 あ……

 浴室には木箱がない。

 まぁ、この狭い浴室にあの木箱が入るわけないよな。

 トイレにも絶対無理だろ。

 はぁ……

 狭いアパートでよかった。

 

 もしかしたらまだお義母さんの家にあるのか?

 それとも……

 隣の女の部屋?


 ……絶対に確認なんてしない。

 もう関わりたくないんだ。

 電話から聞こえたお義母さんの悲鳴……

 恐怖と痛みが伝わってきた……

 あの声が耳にこびりついて離れない……


「とりあえず出勤だ。ノドカの病院代がいくらかかるか分からないからな……あ、ノドカの職場に病気でしばらく休むって連絡しないと。でも……もう復帰はできないだろうな」


 ゴト……


 ……?

 何の音だ?

 背後から何か重い物を置いたような音が……

 それに背中のすぐ後ろに何かある気配……


「……はぁ……はぁ……はぁ……」


 息が苦しい……

 スマホから聞こえたお義母さんの悲鳴……

 血の海になった床……

 木箱に引きずり込まれそうになるノドカの姿……

 

 頭の中で昨日の出来事がグルグル回る。


 ……いる。

 今……

 俺の後ろに『木箱』がいる……


 落ち着け。

 間違えて木箱にぶつかって移動させたら俺も引きずり込まれる……

 落ち着け!


 一歩前に出て……

 顔は動かさずに視線だけを左後ろに向けるんだ。


 見えないな……  

 やっぱり振り向かないとダメか……

 あぁ……

 振り向いたら中の奴が箱から出てたりして……

 あの赤黒い腕……

 血……か?

 ずっとこのまま背後にいられても怖過ぎる……

 よし……

 ゆっくり振り向くぞ……

 ゆっくり…… 


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 目が回る……

 恐怖で倒れそうだ。



 

 ……え?

 

 木箱が……ない?


 でも……

 絶対にいたよな!?


「……あ」


 帯がついた一万円の束が床にひとつ置いてある……


 ……木箱だ。

 やっぱりいたんだ。

 

 でもどうして金を?

 まさか……

 俺が金に困ってる事を知って?

 

 ……意味が分からない。

 なんだよ……

 気味が悪い……

 これ以上ここにいたくない……

 いつもよりかなり早いけど出勤するか。

 

 とりあえずスーツに着替えないと。

 通帳も持っておくか。

 風呂は……

 怖いから入らないでおこう。

 シャンプーとか……

 絶対に無理だ……


 慌てて着替えると通帳を持って外に出る。


「はぁ……生きて出られたな……」


 もうこの部屋から出られないかと思った……


 鍵を掛けてゆっくり歩き始めると、隣の部屋の扉が目に入る。

 まだ鍵は開いてるのか?

 気にはなるけど中を見る勇気はないな……


 今日はここに帰りたくない。

 でも……

 俺は両親が早くに亡くなって、育ててくれたばあちゃんも三年前に……

 頼れる人なんて誰もいない……


 はぁ……

 

 金はある……

 ホテルに行くか?

 でも木箱はどこまでも付いてくるはずだ。


 結局どこにいても同じか……


 

 職場の最寄り駅に着くと改札を出る。

 さすがにこの時間は人が少ないな。

 ……あれ?

 非通知から電話がかかってきた?


 ……?

 詐欺電話か?

 仕事関係?

 でも、こんな時間に?

 あ!

 もしかしてノドカの病院!?

 何かあったのか!?


 出るしかない……か。


「……はい。田村です」


「あ……お世話になります。田村貴司様の携帯でお間違いないでしょうか?」


 ……男?

 俺の氏名を知ってるなら詐欺じゃないよな?


「あ……はい」


「田村ノドカ様のご実家が火事になりまして……」


「は!? 火事!?」


「あ……俺です。分かりますか?」


「……え?」


『俺』?

 もしかしてオレオレ詐欺?

 こんな時に……

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