6 (ヴァイツェン)
彼女に関しての主導権を握る為に、攫うように王都へと馬車を走らせた。
今度は間違えないように、傍にいると己に誓ったのだ、他の誰にも委ねられない。
生死も分からず、もう会えないと覚悟をしていた。聖女召喚の術で別人が召喚されるのも覚悟していた。
けれど、煌めく光と共に幻想の如く現れたのはリリエナだった。
君に分かるだろうか、その時の胸の高鳴りが、熱くさせる激情が、君を抱き止めた時の感触は今でもはっきり思い出せる。
生きていてくれた、そして帰ってきてくれた私の元に。
記憶が無いとは思わなかったが、それも些末なことだ。
馬車の揺れの中、彼女の頭がこくりこくりと漕ぎ出した。このままでは壁に向かって倒れ込みそうだ。
可愛いね、リリエナ。
君の為に我が身を進呈するとしよう、目を覚ましたらどんな顔を見せてくれるかな。
そっと隣に移動すると、間をあけずに肩に重みと規則正しい寝息が聞こえてきた。
じわじわと布越しに伝わる温もりが、君が生きて隣にいるのだと実感させてくれる。
食事をする姿にさえ喜びを感じるよ、そして私も生きていると実感させてくれる。
計画通りに王城まで連れて来れた。謁見は明朝になるだろうが、その間に父上には念を押しておこうか、聖女については私に一任されているが国王の発言に勝る物はないのだからな。
謁見に向かう憂いた表情も魅力的だが、君には笑っていて欲しいよ。
やはり討伐依頼に黙ってしまったね、大丈夫、誰にも何も言わせない。
「陛下、聖女様は再度の召喚に戸惑われております。加えて十分な休養をお取り頂けないまま強行にお連れしてしまいました。私が浅慮でありました。今一度休養を取りながら考えて頂くのが最善かと」
「そうか、あまり猶予は無いが、認めよう」
家臣の中には納得してない顔の者もいるが、国王の判断に意見出来る立場には無い者達だ。
だが、リリエナには居心地は悪いだろう、さあ、戻ろうか。
触れた手は冷たく震えていて、その表情は怒っているのか怖がっているのか曖昧だ。
恐らく両方だろう、以前のリリエナが言っていたが召喚は前触れもなく突然こちらの世界に飛ばされる、今回も同じはずだ。
身勝手な要求など受け入れられるはずもない。
ましてや五年前の記憶も無いのだ、私にも気を許してはいないだろう。
どうか信じて欲しい、私が君の味方だと、私には頼っていいのだと。
討伐など行かなくてもいい、安全な所にいて欲しい、あんな思いはもう……したくない。
リリエナ、私は君のものだ、私の全てを捧げ守る。
「貴女は私が守る。この命ある限り、生涯の忠誠と愛を誓う」
婚姻を乞う文句だが、今の君には分からないと思って言う。
だがいつか、叶うなら言って欲しい「愛を誓う」と。
その為に全身全霊で口説かせて貰うよ、また会えたら最初にしてあげたかった事があったんだ、用意をするから待っていて。
それと私が執務で離れる時の護衛も必要だな、彼なら腕も確かだ大丈夫だろう。
「騎士団副団長オーガスト。聖女の護衛を命じる、傷一つ付ける事は許さん」




