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アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました  作者: 温井 床


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3

「お帰りリリエナ、我が娘」

 応接の間で出迎えてくれたのは大きな体格で強面だが目元の皺は優しさを漂わせている壮年の男性だった。

 白いシャツとスラックスという地味な服装だが、佇まいに気品が滲んでおり、優しく里菜を見つめている。

 ヴァイツェンとオーガストも待っていてくれたようだ。

 この人が御当主様?優しそうで素敵な人ね、でも我が娘ってどういうこと?

 里菜が戸惑っていると当主がヴァイツェンに向かい姿勢を正した。

「殿下にお願いがございます。親子水入らずの時間を過ごさせていただきたいのです」

「あまり時間はないのだが」

「我が家族にとっても久方振りの再会、つもる話もございます。5日後にはドゥーベ家精鋭の護衛をつけて王城まで送り届けるとお約束します」

「そうか、家族の時間が必要なのはわかった。だがリリエナ嬢は私自身が預かってゆく、これだけは譲れない。明日の午後には出発する」

 ドゥーベ家当主とヴァイツェンの視線が強くぶつかる。

「わかりました、朝食後に出発できるよう用意させます。殿下方は客間を用意しましたのでどうぞお休み下さい」

 要は早く出て行けって言ってる、この人王子様よね、そんな態度で大丈夫なんだろうか?

「では失礼する」

 里菜の心配を余所にヴァイツェンは短く答えると部屋を出て行った。

 残された里菜の緊張に気付いた当主はドアに向かい「お茶を」と声をかけた、間も無くティーセットとケーキが運ばれて、テーブルに並べられる。

 里菜の視線は生クリームたっぷりタルトケーキに釘付けになる、この状況でもケーキへの執着は消えていなかったようだ。

 しかも里菜の好きなフルーツ盛り盛りタイプだ、種類だってたくさんある。

「お腹はすいてないかい?リナが好きだったものを用意させた、好みが変わってなければいいのだが」

「いえ、大好きです。実はお腹すいてました、いただきます」

 昨夜から何も食べておらず、正確にどれくらいの時間が経過しているのか分からないが、本当にお腹ペコペコだったのだ。

 知りたい事は色々あるけれど、まずは腹ごしらえってとこね。

「夕食までまだ時間がある、おかわりもあるそうだ、たくさん食べなさい。リナが現れたと連絡があって、コック達が張り切って用意してくれたのだ、後で声を掛けてあげなさい」

 すでに口いっぱいに頬張っていた里菜はモゴモゴしながら頷く様を当主は微笑ましく眺める。空腹に負けてマナーどころではなくなっていた。

「まずは自己紹介をしておこう、私はエドワイド・ドゥーベ。このドゥーベ辺境伯家の現当主だ。そしてリナ、君は五年前に私達の家族となりリリエナ・ドゥーベとなった」

 咀嚼したものをゴクリと飲み込む。

「あの」

「さて、少し昔話をするとしよう。恐らくリナの知りたい事だ」

 そう言うと五年前の出来事を話し始めた。

「この地はピルスナ国の西、隣国フレアとの国境にある西の森を守護するサイラスという街だ。ここの森は国境にある為少し深い、しかし半分程入った所に泉があり休憩場所としていたのだが、リナ、君はそこにいた」

「森の中に?」

「そうだ、泉の縁に倒れていたのだ。私は魔物が出没していないか見廻りをしていたのだが、馬に水を飲ませる為立ち寄った。現れたのがあの泉でよかった、あそこだけは魔物が出ない。聖なる泉と呼ばれている所だからな。意識の無いリナを保護し、この屋敷まで連れて来たが見慣れない装束を身につけており顔立ちもこの国の者では無かった。意識が戻ったリナ自身も訳が分からないと言った様子だった、今の君のように。人攫いにでも拐かされたのかとも思ったが、国境ゆえフレア国の間諜の可能性もあったのでな、行く所がないのなら私の娘として傍に置いてみようと思ったのだ」

「え」

 間諜ってスパイってこと?物騒な話になってるけど、え、じゃあ今も疑われてるってこと?

「リナ、そんな顔しないでくれ。ちゃんと続きを聞きなさい。ケーキのお代わりはどうだ、お茶も入れてあげよう」

 ティーポットを手に取り、笑顔で紅茶を注いでくれる。

 先程と違うフルーツのタルトが里菜の前に置かれたところでエドワイドが話を続けた。

「名前について疑問に思っているだろう。リナという名前は可愛い名前だが、貴族としては不向きなのだ、だから私がリリエナと付けた。その時から君はリリエナ・ドゥーベとなったのだよ。ただ家族、この屋敷の者達はリナと呼んでいる。屋敷の中だけだが」

 そっか、だからヴァイツェン様にとってはリリエナで、侍女さん達にはリナなのね。

「身元不明者は王城に届ける義務がある、そこで宰相殿に会いに行った。そうしたら城で聖女様の召喚の儀式を行ったが、召喚された聖女様の行方が分からず探していたところだった。リナのことを話したら素っ飛んで来たよ。宰相殿の慌てぶりは実に可笑しかったな。はは」

 思い出し笑いでエドワイドの顔はニヤニヤしている。

「それで私が聖女と?」

「ああ、そうだ。その時の魔道師長殿が確認した、リナが聖女様だ。だが、魔王討伐中にリナが消えたと知らせが届いてそれきりだった。一時期は城で監禁されているのではと疑ったこともある。だが、こうしてまた会えて良かった。明日、殿下と王都に行き、それ以降の事は殿下から伺いなさい。前回もこの屋敷で過ごしたのは短かったが、今回は本当に時間が無いようだ。リナ、私達を憶えていなくとも私達は家族だ。この屋敷はリナの居場所と考えて欲しい、いつでも帰って来れる場所だと。そして出来れば私のことは「とうさま」と呼んで欲しい、我が娘よ」

 慈愛に満ちた表情で里菜を見つめてくる。

「えと、とう・・・お父様?」

「ああ、リナ。夕食には家族全員揃うだろう。それまで少し休みなさい、何か聞きたいことがあればその時に聞こう。私は執務があるので失礼するよ」

 と言い置いてエドワイドは去って行った。

 里菜はタルトを最後まで食べてから自室へと戻り、ベッドに身を投げ大きく溜息をついた。

 何だか現実味がない、けれど私がリリエナだった、嘘みたいだけど聖女でもあった。聖女って何、魔物でも退治するの?

 そんなの無理、絶対無理。だって私普通の会社員だもの、仕事しか取り柄がないのよ。

 ぶわっと感情が昂ぶり目尻に涙が溜まる。

 ダメよ、泣いても解決しないのよ。自分が可哀想なんて思っても意味は無いの。

 拳を作り握り込み、歯を食いしばる。

 考えるのよ、考えなきゃ。今私に出来る事は何か、しなければいけないのは何か。

 皆いい人そうだけど本当に信用していいのか分からないし。

 それなりに社会に揉まれた里菜は人を見る目を養ってきたつもりだが、出会ってから時間が短すぎる為信頼していいものか判断がつず、この異常な状況で疑心暗鬼になっていた。

 これからどうなるんだろう、誰かに頼りたい、この不安な気持ちを誰かに支えて貰いたい。

「ダメだな私」

 ポツリと呟いた。

 こんな私を職場の人が見たら笑われそう、そんなキャラじゃないでしょって。

 でもこれが私、弱い私、だから強い私をいつも作ってた、それで今までなんとかやってきたんだから、これからもそうしなきゃ、子供のように泣く訳にはいかないもの。

 拳を緩め肩の力を抜き、はぁと息を吐いた。

 そのままウトウトし始めた時、コンコンとドアを叩く音が聞こえ、返事をするとアリーが入って来て夕食の準備が出来たと知らせてくれる。

 乱れた顔と髪を手早く直してダイニングまで案内された。

 そこにはドゥーベ辺境伯家の一同が揃っていた。

 エドワイドさんとその奥様でマリーヌさん、銀髪でとても美人な人だ。

 そして私にとっては兄になる人が二人いた。レイニードさんとアヴァンスさん。

 気後れするくらい美形一家である。

「リナ、あぁリナ。また会えて嬉しいわ。あなたの成長を想像して毎年ドレスを用意してたのよ、ようやく着て貰えて本当に嬉しいわ」

 毎年用意?じゃあこのドレスは。

「それはあなたのドレスよ、よく似合ってるわ」

 にっこりとマリーヌさんが微笑む。

 私の為に?どうして、いつ戻ってくるか分からないのに。

「どうしてって顔ね、リナが大好きだからよ、可愛い私の娘。あなたの成長を想像するのはとても楽しかったわ」

「ドレスありがとうございます。でも、私何もお返しするものがありません」

「おいおい、リナ。ドレスを作った礼を娘に求める親はいない。さっきも言ったが私達は家族なのだ、遠慮は必要ないのだよ」

「はい、ありがとうございますお父様、あの、お母様」

「ま、まぁぁぁ」

「リナ、レイ兄様と呼んでみてくれ」

「あ、それなら俺の事はアヴィ兄様と呼んでくれ」

 この人達は私を本気で家族として受け入れてくれてるみたい。

 里菜は緊張していた身体を緩ませた。

「さあ、食事をしよう」

 料理はどれも美味しかった。


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