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アラフォーだけど異世界召喚されたら私だけの王子様が待っていました  作者: 温井 床


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「怪我はないかッ」

 うそ……。

 美しいブルーグリーンの瞳が覗き込んできた。

「怪我はないです。私、殿下を、ヴァイツェン殿下を呼んだんです。そしたら本当に助けてくれたんですね」

 驚きと嬉しさ、先程までの緊張が織り混ざり震える声だけど、今のこの膨れ上がる気持ちを伝えたい。

「ああ、聞こえた。池が光ったら君の声が聞こえたんだ。私を呼んでくれて嬉しいよ、無事で良かった」

「はい、助けてくれてありがとうございます」

 ヴァイツェンの胸に頭を預け、自分を包む腕をそっと掴むと、頭の上でチュッと音がして、感触で頭頂部にキスをされたとわかり、顔が熱くなる。

 ほっとした途端、突如記憶の断片がパズルのピースのように突如はまり、里菜の記憶が繋がりだした。

「あ、え」

「どうした、リリエナ」

 やっぱり記憶が戻ってる、でもまだ全部じゃない気がする。

「いえ、それよりもヴァイツェン殿下、魔王をまだ倒せてないのです。どこに行ったのかしら」

 あの光に抵抗できるなんて、やはり魔王は強いのね、しかもカワウソだなんて、私の好みを把握されてる証拠だわ、アレを討伐なんて出来るのかしら。

「殿下、気を付けて下さい。魔王はカワウソの姿をしています、可愛い姿に騙されないで下さいね」

 池の方を見てみると、水面は穏やかだが不穏な空気を放っている。

 今度は引っ張り込まれないようにしなくちゃ。

 と、意気込む里菜の頭上から、ヴァイツェンが少し戸惑いながら聞いてきた。

「……リリエナ、私はそのカワウソというものを知らないんだが、もしかして君の足を掴んでいる生き物のことか?」

「え?」

 視線を移すと、確かにあのカワウソが里菜の左ふくらはぎにしがみついている。

「カワウソ魔王!」

 咄嗟にバタ足で振り払おうとしたが、短い四肢で抱き付くようにしがみついて離れなかった。

「リリエナ、まさかそれが魔王なのか?」

「は、はい、魔王の本体で間違いないと思います。何故このような姿なのかは分かりませんが。ん?」

 よく見ると、カワウソの周りに黒いモヤが出たり消えたりしていることに気付いた。

 何だろう、前にもこんな状態を見た気が……。

 あっ、と思い出した。

 

 

「聖女殿!この珍妙なものが魔王なのですか?」

 いつの間にか近寄って来たリンガル騎士団長が、カワウソを鷲掴みにしてベリッと里菜の足から引き剥がした。

 他の騎士達も囲むように集まって来ている、どうやらここにいた魔獣達は全て倒したようだ。

 リンガルは躊躇いもなく手に持っていた剣を大人しくしているカワウソに向け、突き立てようと振りかざしたが、里菜が咄嗟に止めた。

「ダメ!待って!」

 剣先が寸前で止まった。

「聖女殿?」

 そうよ、この子は何も知らなかった子、だから思い出をあげたんだわ。

「リンガル騎士団長、私に時間を下さい。この子を、この子に集まってくる闇を断ち切ります」



 五年前のあの日、魔力が底をつく程に力を使って魔王を祓った。いや、そう思った。

 私は立ってるのがやっとで呆然としていたその時、声が聞こえてきたと思ったら不穏なソフトボール程の大きさの黒いものがそこにいた。

「こわい、こわい、人間なんてキライ。うぅ」

 それは震えながらそこに漂っていた。

 あれは魔王だったものだわ、やっぱり祓いきれなかったのね、でも様子が変。

 よく見ると辺りから黒い霧がそれに向かって流れ、包むように覆っていく。

「にくい、にくい、・・そんなの僕に言わないで、僕だって一生懸命やってるのに」

 誰かと会話をしているの?

 独り言のようだけど、相手の声は聞こえないが誰かに言い返しているようだ。

 黒い霧がどんどん集まり、それも少しずつ大きくなっていて、禍々しい気配も少しずつ大きくなっている。

 早く倒さなきゃ、でも私の魔力ももう……、誰か戦える人は残ってる?

 瓦礫の中に人影は見当たらない、一緒に戦っていた王子はどこに?

 探している時間はもはや無く、魔力も殆ど残っていない自分に何が出来るだろうと立ち尽くしてしまった。

「もういやだ、……誰か、助けて」

 その時、それは黒いものから漏れた小さい呟きだったが、里菜の耳に届いた。

 助けて?助けが欲しいの?

「いいわ、助けてあげる」

「え?」

 よく見ると中心に核となるものがあって、声はそこから聞こえてくるようだった。

 それに黒い霧が肉のようについていき、それがさっきまで私達が戦っていた魔王なんだわ。

 じゃあ、あの黒い霧は何?

「あっ、まだ生き残ってたんだな、あっちに行け!人間なんて邪悪な生き物はこの世界にはいらないんだから」

「邪悪なのはあなたじゃないの?」

「この黒い霧は人間の欲望や憎悪の思念なんだぞ、お前達が魔王と呼んでいたのはそんな思念のただの塊だ。人間の敵は人間だ、笑っちゃうね」

 まさかとは思ったが、恐る恐る黒い霧にそっと触れると、悪意ある人間の罵詈雑言が頭に響き気持ち悪くなった。

 本当だわ、これが、これ全部がそうだなんて。

「わかった?魔王を完全に倒したかったら、まずは人間を滅ぼすんだね」

「人間に悪い人がいるのは否定出来ないわ、でも良い人もいるわ」

「嘘をつくなんて、やっぱりお前も悪い人間なんだ」

 少なくとも私がこの世界に来てから出会ったのは優しい人ばかりだったもの。

 それをどう伝えたら信じてもらえるの?

「言い返せないのか、証拠もないのに適当なことを言うな」

 証拠、証拠か。うん、残りの魔力でどこまでやれるかわからないけど。

 闇の力を使うのはこの子のようだし、この子の意識が変われば世界を救えるかもしれない。

「私の思い出をあげる、それが証拠」

 私の記憶を見て、人の優しさに触れて欲しいと、最後の力を振り絞ってこの世界に関する記憶譲度をやってみたら、それは成功したけど私の魔力が完全に無くなった、 そして意識が暗闇に沈んでいき、自分の体が別世界に呑まれるのを感じた。

 私はどうなるのか、元の世界に帰れるのか、死ぬのか、また戻って来れるか分からないけれど。これだけは伝えなきゃ。

「約束して、私が戻ってくるまで人間に酷いことをしないと、そして人間の優しさを信じてみて」

「また戻って来る?そしたら僕と一緒にいてくれる?それならいいよ」

「約束するわ」

 

 

 そうして元の世界に戻ったけれど、記憶譲度したせいかこちらの世界の記憶は消えていた。

 


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